2022 Fiscal Year Research-status Report
新たなアプローチによるX連鎖性疾患に伴うskewed X染色体不活性化機構の解明
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20K08176
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Research Institution | Institute for Developmental Research Aichi Developmental Disability Center |
Principal Investigator |
加藤 君子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 研究員 (30598602)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | X連鎖性疾患 / X染色体不活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
X染色体不活性化(X chromosome inactivation, XCI)は女性のもつ2本のX染色体の片方を染色体全体で転写抑制する現象であり、着床前後の初期胚で起る。通常、XCIはランダムに起こるため、母親由来のX染色体が不活性化された細胞と、父親由来のX染色体が不活性化された細胞は半分ずつになる。加えて、どちらか由来のX染色体が偏って不活性化される場合もあり、これをskewed XCIという。とりわけ、skewed XCIはX連鎖性疾患の原因遺伝子に病的変異をもつ女性で多く報告されており、同一の変異をもつ女性が無症状から重症まで多様な臨床症状の重症度を呈する要因の一つとなっている。したがって、skewed XCIの確立機構の理解は、X連鎖性疾患の保因者や、潜在的な患者の同定、患者の予後予測、治療戦略を考える上で重要である。しかし、倫理的な制約や技術的な問題があり、ヒトの正常初期胚で生じるXCIの分子機構でさえ不明な点が数多く残されている。さらに、ヒトのXCIはマウスなどのモデル動物とは制御機構が異なることも示されている。そこで本研究課題ではXCIを解析できるヒトモデル系を作製し、X連鎖性疾患の病態発症機序を解明することを目的とした。2022年度は、健常人由来のiPS細胞を用いて、XCI解析が可能なモデル細胞の作製を前年度に引き続き行った。また、本研究に必要となる、skewed XCIを示す患者由来のiPS細胞の入手を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
健常人由来のiPS細胞を用いて、XCI解析が可能なモデル細胞の作製を試みた。しかし、同じ条件で培養した細胞集団でも、細胞あるいはコロニーごとにばらつきが大きいことが分かった。このため、これらの細胞のクローン化後、それぞれの細胞の性質を網羅的遺伝子発現解析、DNAメチル化解析等により比較した(先進ゲノム支援による支援を受けた)。ただし、インフォマティクス解析に予想外に時間がかかっており、研究期間を一年間延長し、解析を完了させることにした。 また、skewed XCIを示すX連鎖性疾患患者由来のiPS細胞を複数ライン入手した。ただし、一部の患者については、iPS細胞の樹立ができなかったため、これらの患者についてはゲノム編集により、患者の変異を模倣するiPS細胞の作製を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、インフォマティクス解析を完了させるとともに、得られたモデル細胞の性質の解析を進め、XCI解析が可能なモデル細胞作製方法を確立する。得られた成果を論文報告する。また、インフォマティクス解析の結果、興味深い知見が得られた際には、そのメカニズムの探索を進め、データ解析の結果と合わせて報告したい。 また、skewed XCIを示す患者の変異を模倣するiPS細胞の作製を引き続き進め、本年度末までには作製を完了させる。
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Causes of Carryover |
樹立したXCI解析が可能な細胞の解析に時間を要しており、計画していた実験を進めることができなかったため。加えて、実験に使用していたインキュベーターが故障し、解析が進まなかった。 本年度は、細胞培養や分子生物学実験に関わる試薬や器具などの消耗品の購入、成果を論文として発表するために必要な費用(文献を他機関に依頼するための費用、英文校正費、論文出版費用)、および成果を発表するための国内学会に参加に伴う費用として利用する。
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