2021 Fiscal Year Research-status Report
小児における抗インフルエンザ薬低感受性ウイルス出現の監視と制御
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20K08210
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
佐藤 晶論 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (60423795)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 浩一 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (50322342)
細矢 光亮 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80192318)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インフルエンザ / 抗ウイルス薬 / 薬剤低感受性ウイルス / 小児 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、我々は、2018/2019年と2019/2020年の合計2インフルエンザシーズンにおいて、A型インフルエンザと診断されバロキサビルを投与された38例から鼻咽頭ぬぐい液を、投与前、投与後2回、合計3回、鼻咽頭ぬぐい液を採取した。これらの検体を材料として、定量リアルタイムPCR法にてウイルスRNA量を測定し、さらに感染性ウイルス力価も定量した。また、ウイルス分離を試み、分離されたウイルスを材料として薬剤感受性試験を実施した。その結果、これら38例中12例(31.6%)で、バロキサビル投与後にバロキサビル低感受性ウイルス(以下変異ウイルス)が検出された。A亜型別の解析では、A/H1亜型ウイルスに感染しバロキサビルを投与された30例中7例(23.3%)、A/H3亜型ウイルスに感染しバロキサビルを投与された8例中5例(62.5%)でバロキサビル投与後に変異ウイルスが検出された。 変異ウイルスが検出された12例と検出されなかった26例とを比較すると、患者の臨床背景や有熱期間には統計学的な有意差はなかったが、有症状期間や感染性ウイルス排泄期間は変異ウイルス検出例で延長した。これらの結果から、バロキサビル投与後に変異ウイルスが検出されると、臨床症状が軽快するまでに時間を要し、さらにウイルス排泄期間が延長されることが考えられる。しかし、臨床的な背景については、変異ウイルス検出例と非検出例との間で有意な差はみられなかったことから、主治医が実際にインフルエンザ患者に対し、バロキサビル投与を考慮する場合、その患者の中で変異ウイルスが出現するかどうかについて、予想することが困難であることを示唆している。しかし、A/H1亜型感染患者と比較しA/H3亜型ウイルス感染患者で有意に変異ウイルスが出現される割合が高く、A/H3亜型感染が変異ウイルス検出のリスクファクターであることは示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019/2020インフルエンザシーズンまでに収集した臨床検体を用いての解析は終了している。2020/2021インフルエンザシーズン以降に関しては、SARS-CoV-2流行の影響で、インフルエンザの流行はなかったため、臨床検体を採取・収集することはできなかった。 インフルエンザウイルスはその表面にヘマグルチニン(HA)と呼ばれるタンパクを発現している。ウイルスが感染性を有するためにはHAが宿主由来のセリンプロテアーゼにより開裂する必要がある。そこで、セリンプロテーゼ阻害薬であるCamostat mesilate (CM)とNafamostat mesilate(NM)が抗ウイルス効果を有する可能性がある。この薬剤は、既存のノイラミニダーゼ(NA)阻害薬に感受性が低下したウイルス(以下変異ウイルス)に対しても有効であることが考えられる。 そこで、変異ウイルスをMDCK細胞に感染させ、CMとNMを含む培養液で培養した場合のウイルス量が、薬剤を含まない培養液で培養した場合のウイルス量の50%に抑制できる薬剤濃度(EC50)を求めた(結果は公表せず)。しかし、求められた濃度は実際にヒトに投与した場合に得られる血中濃度より高い。そこで、既存のノイラミニダーゼ(NA)阻害薬に感受性が低下したウイルス(以下変異ウイルス)を用い、NA阻害薬とCMやNMとの相乗作用があるかどうかを検討している。相乗作用が得られれば、作用機序が異なる薬剤が、単独で用いるよりも低濃度で十分な抗ウイルス効果を示すことが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
022/2023インフルエンザシーズンに向けて、検体採取液および臨床研究に必要な資料の準備を今後も継続していく。 組織培養にて、インフルエンザウイルス(野生株とNA阻害薬低感受性変異ウイルス)をMDCK細胞に感染させ、セリンプロテアーゼ阻害薬であるCamostat mesilate (CM)もしくはNafamostat mesilate(NM)とさらにオセルタミビルとペラミビルとを様々な条件下で混合した培養液で培養し、それぞれのウイルス量を定量する。その後、それぞれの薬剤間の相乗作用を確認し、セリンプロテーゼ阻害薬が動物実験に応用可能かどうか検討する。 段階希釈したバロキサビルを含有する培養液で7日間培養する。このことにより、変異ウイルスが出現しやすいバロキサビル濃度の推定と培養日数を決定する。次に、ウイルスを細胞に感染させ、決定した変異ウイルスが出現しやすい濃度のバロキサビルを含む培養液で培養後、オセルタミビルを様々なタイミングで添加することで、変異ウイルスの出現を最も効率よく抑制できるオセルタミビルの添加タイミングを決定する。さらに、オセルタミビルを段階希釈して用いることで、オセルタミビルを添加しても、バロキサビルとオセルタミビルの双方に対して感受性が低下したウイルスが検出されないオセルタミビル濃度を決定する。
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Causes of Carryover |
2021年度はインフルエンザの流行がみられず、主に組織培養法を用いた基礎研究に費用を当てたため、予定された支出額ほどの支出がなかった。さらに、予定していた国内外の学会がオンライン参加となり、旅費がかからなかった。以上の理由により、2021年度で使用できなかった研究費を次年度に繰り越すことになった。
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