2020 Fiscal Year Research-status Report
心筋症を誘発するHOIL-1L遺伝子異常の心筋症発症・進行機序の解明
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20K08421
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
馬場 志郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (60432382)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | HOIL-1L異常症 / 心筋症 / iPS細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
HOIL-1L遺伝子異常症患者の骨格筋細胞・心筋細胞内 異常多糖類蓄積が本疾患の筋症・心筋症発症原因の一つである可能性が示唆されている。心筋細胞の細胞株が存在しないため、まずマウス筋芽細胞株(C2C12)を用いて実験開始した。C2C12とC2C12から作製したHOIL-1L遺伝子ノックアウト株(C2C12-KO)から骨格筋細胞分化を行った。その結果、C2C12、C2C12-KOから分化した骨格筋細胞いずれからも細胞内多糖類の蓄積を認めたが、いずれもアミラーゼで分解され、異常多糖類蓄積は認めなかった。本結果は、high-glucose培地を用いても同様の結果であった。これら細胞の骨格筋分化過程を詳細に検討すると、初期筋分化の指標の一つであるMRF4の発現がC2C12-KOで低下していたとともに、骨格筋細胞の分化指標であるFusion IndexやMyosin Heavy Chain densityいずれもC2C12-KOから分化した骨格筋細胞で低値であり、HOIL-1L遺伝子が骨格筋細胞分化抑制に働いている可能性が示唆された。次にC2C12、C2C12-KOから分化した心筋細胞をRNAシークエンシングを用いて比較したところ、C2C12-KOからの分化骨格筋細胞において筋細胞分化や収縮に関わる遺伝子の発現が有意に低下し、線維化に関わる遺伝子が有意に上昇していた。この結果をもとにHOIL-1L遺伝子異常症患者から作製したiPS細胞(HOIL-Pt-iPS)、HOIL-1L遺伝子をノックアウトしたiPS細胞(HOIL-KO-iPS)、コントロールiPS細胞(Con-iPS)から心筋細胞を分化させて比較検討した。結果、HOIL-Pt-iPS、HOIL-KO-iPSから分化した心筋細胞がCon-iPSから分化した心筋細胞に比べて異常に大きく多核である傾向を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一目標は、C2C12、C2C12-KOから分化した骨格筋細胞内の異常多糖類蓄積(アミロペクチノーシス)を同定することであったが、いずれの細胞から分化した骨格筋細胞内にもアミロペクチノーシスは同定されなかった。しかしながら、これら細胞からの骨格筋細胞分化を詳細に検討すると、HOIL-1L遺伝子が骨格筋分化や成熟に関与することが骨格筋細胞の形態、成熟度評価、定量的PCRから示唆された。またRNAシークエンシング法を用いた網羅的遺伝子発現解析において、HOIL-1L遺伝子が骨格筋分化に対して抑制的に働くことが示された。本研究結果は過去報告がなく新しい知見である。この結果をふまえて心筋細胞を用いた研究を行った。HOIL-1L異常症患者から作製したiPS細胞、HOIL-1L遺伝子変異の中でより重症型心筋症を発症する2遺伝子変異を選択し、CRISPR/Cas9システムを用いて変異を作製したiPS細胞、コントロールiPS細胞を用いて実験を行った。これら細胞から心筋細胞分化を行ったが、アミロペクチノーシスは同定できなかった。骨格筋細胞の実験同様、心筋細胞分化について評価したところ、心筋細胞においてもHOIL-1L遺伝子は分化・成熟に対して抑制的に働く可能性が示唆された。以上の結果から、当初の「アミロペクチノーシスとHOIL-1L遺伝子異常患者の心筋症発症機序解明」とは異なる方向性であるが、HOIL-1L遺伝子の心筋細胞分化・成熟抑制という視点からHOIL-1L遺伝子異常症患者の心筋症発症について解明できる可能性があると考えられた。これら新しい知見や方向性をふまえ、研究の進捗状況は概ね順調と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
C2C12、C2C12-KOを用いた骨格筋細胞の実験からHOIL-1L遺伝子が骨格筋分化・成熟に抑制的に働くことが示唆された。また細胞の線維化を促す可能性も示唆されたため、次に述べる研究方針を検討している。HOIL-Pt-iPS、HOIL-KO-iPS、Con-iPSから分化した心筋細胞の分化過程における分化・成熟マーカーの比較、電気生理学的実験や収縮様式からの心筋細胞機能の評価を行う予定である。分化・成熟マーカーの比較は定量的PCRや免疫染色を用いた手法で行う。機能実験の電気生理については、当教室に設置済みであるMulti-electrode Array (MEA)システムを用いて行う。収縮様式の評価については光学顕微鏡でビデオ撮影した心筋細胞収縮を解析することで行う予定である。細胞の線維化については、C2C12-KOから分化した骨格筋細胞で発現上昇を認めたSerpine2遺伝子について研究することとした。本遺伝子がHOIL-Pt-iPS、HOIL-KO-iPS由来心筋細胞においても発現上昇しているか、その発現上昇が細胞の線維化マーカーの発現と関係するかを評価する予定である。さらに、in vivoの実験も検討している。HOIL-1Lノックアウトマウスは胎生致死であるが、胎生致死の原因はアポトーシスの異常が関わっていると報告されている。ノックアウトマウスの胎児標本を入手し、心臓のサイズや発生の遅延、線維化などを評価することで、in vitroのみでなくin vivoにおいてもHOIL-1L遺伝子が同様の挙動をとるか評価する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究は概ね順調に進展しており、補助金の使用も問題なく遂行できていると思われる。しかしながら、当初の実験予想結果と異なる結果が生じた部分があり、本結果部分の再検討と考察、新たな実験計画立案と遂行にやや時間を要した。したがって、次年度使用額が生じた理由は、研究方針の修正が生じたためである。
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Research Products
(2 results)