2020 Fiscal Year Research-status Report
自律神経とその幹細胞に着目した抗がん剤の遅発性心毒性の病態解明
Project/Area Number |
20K08441
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桑原 正貴 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30205273)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栃内 亮太 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (90833997)
関澤 信一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80760420)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自律神経 / 遅発性心毒性 / 抗がん剤 / 組織幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
小児期に抗がん剤治療を受けた患者において成人後の心疾患リスクが高いことが報告されており、小児がんの治療薬に遅発性の心毒性が存在することが示唆されている。この遅発性の心毒性には、生体内に存在する組織幹細胞の障害が一因であることが明らかになってきたが、詳細は不明である。そこで本研究では、幼若動物に抗がん剤を投与し、成熟後に異常が誘発される遅発性心毒性を再現する動物モデルを作製する。さらに、このモデルを用いて遅発性心毒性の病態に神経幹細胞の障害に起因した自律神経機能異常が関与している可能性および遅発性毒性の予防戦略について検討することを目指している。 本年度は、幼若動物に抗がん剤(ドキソルビシンあるいはビンクリスチン)を投与し、成熟後に異常が誘発される遅発性心毒性を再現する動物モデルを作製を試みた。幼若期から青年期のSDラットにドキソルビシンを反復投与し、予後を観察した結果、成熟後になって心機能の低下が発現する個体が認められた。また、自然発生性高血圧モデルラットにドキソルビシンを投薬した結果、成熟後に心臓の収縮機能の低値および心室壁厚の低値傾向が認められた。これらのことから、幼若期のドキソルビシン投与が成熟後の心臓の生理学的肥大やリモデリングに影響し、心機能の障害に繋がる可能性が示唆された。一方、SDラットにビンクリスチンを投与した結果、成熟後の心機能変化を検出されず、寒冷曝露を行った際の心拍変動性にも溶媒対照群との差は認められなかった。 今後は、血圧、心拍変動性、圧反射機能、迷走神経活動ならびに各種幹細胞の発現状態を解析し、心筋障害の発現との関連性について検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の通り、本年度は幼若ラットに抗がん剤を投与し、成熟後に異常が誘発される遅発性心毒性を再現する動物モデルを作製を試みた。ドキソルビシンを投与したラットを最長1年間、心機能の変化を解析した結果、一部のラットにおいて心筋障害を示唆する結果が認められ、遅発性心毒性のモデル動物として有用である可能性が示唆された。一方で、新型コロナウイルス感染症による行動制限の影響により、多量の動物の長期間飼育が困難であった期間が生じた影響により、組織幹細胞の発現状況や自律神経活動について精査し、病態の発現メカニズムを検討するには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度以降は、下記の研究計画を実施予定である。 1)幼若期から青年期に抗がん剤を投与し、成熟した動物にストレス(寒冷負荷、暑熱負荷、姿勢変化(起立姿勢)あるいは昇圧薬・降圧薬投与等)を負荷し、自律神経系に揺さぶりをかけてその応答(心電図、血圧変化)を評価し、自律神経機能の障害について明らかにする。なお、自律神経系の機能評価は、テレメトリー送信機を埋入した無麻酔ラット 及び麻酔下ラットを用いて、心拍変動パワースペクトル解析、圧反射解析あるいは迷走神経活動記録によって行う。 2)得られた動物モデルから心臓および神経節を採取し、組織幹細胞マーカーや成熟細胞のマーカーに対する免疫組織化学染色を行い、組織幹細胞の数および分化の状態について評価する。 3)得られた動物モデルに副交感神経活動の活性化効果がある介入操作を施し、自律神経系の保護が遅発性心毒性の予防に繋がる可能性を評価する。
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