2022 Fiscal Year Annual Research Report
自律神経とその幹細胞に着目した抗がん剤の遅発性心毒性の病態解明
Project/Area Number |
20K08441
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桑原 正貴 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30205273)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栃内 亮太 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (90833997)
関澤 信一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80760420)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 抗がん剤 / 心毒性 / 遅発性 / ドキソルビシン / 高血圧 / 自律神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ドキソルビシンによる遅発性心毒性の病態とその機序、及び臨床研究からリスク因子の一つと示唆される高血圧との関係を解明する ことを目的として、ヒト小児期に該当する若齢の健常ラット(WKY)及び自然発生性高血圧モデルラット(SHR)に対してドキソルビシンを投与し、成熟期以降における循環器系への影響に関して病態生理学的な検討(血圧検査、心機能検査、心電図評検査、脈波変動解析、病理組織学的検査)を行った。 4-7週齢にかけて健常ラットにドキソルビシンを投与し、5か月齢に成長した時点では心機能に異常所見が認められなかったが、11 か月齢でドキソルビシン群でのみ上室性期外収縮(PAC)が発現した。また、11 か月齢ではドキソルビシン群において心室心筋の線維化面積の割合が増加していた。後天的なPACの原因としては房室結節リエントリーが考えられ、心室心筋と同様の線維化が房室結節内あるいはその周囲にも生じ、伝導障害が生じていた可能性が考えられた。 また、SHRのドキソルビシン群では、6 か月齢において溶媒群よりも拡張期血圧が低く、収縮期血圧は高かった。これは動脈壁の弾性の低下に起因すると考えられ、後負荷の増大が 12 か月齢で認められた心機能指標の低下や心臓体積の増加、不整脈の増悪につながったと推察された。血管抵抗が上昇した結果として拡張期血圧の群間差が消失した可能性、ならびに心機能が低下した結果として、収縮期血圧の群間差が見られなくなった可能性が考えられた。 一方、脈波変動解析の結果ではドキソルビシン投与群と溶媒対照群の間に有意な差は認められなかった。このことから、自律神経系の機能変化が心臓機能に影響を与えた可能性を示唆する所見は得られなかった。以上から、遅発性心毒性の発現には複合的な要因が存在し、高血圧に関連した血管構造の変化や 、心筋構造の変化に伴うリエントリー基質の形成が予後悪化の原因であると考えられた。
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