2020 Fiscal Year Research-status Report
心臓・血管前駆細胞の移動異常に着目した大動脈縮窄症の成因機序究明と治療標的の開発
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20K08458
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
牧野 伸司 慶應義塾大学, 保健管理センター(日吉), 准教授 (20306707)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 先天性心疾患 / 小型魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は心・血管に表現型をもつメダカ突然変異体を用いて、表現型の多様性を生み出す機序を解明したいと考え、化学変異剤のENUを用いた心臓前駆細胞移動に異常を呈するメダカスクリーニングに世界に先駆けて成功した。 Linear Heart Tube:lht ホモ変異体は、心臓・血管腔が形成されず、心臓が一本の管の状態で発生が停止する特徴から命名を行った。受精後約7日目に心臓流出路・血管腔が形成されないため致死となり、心臓・血管の前駆細胞が移動できないことによる奇形であることを発見した。このような表現型を呈する突然変異体動物は、これまでに報告がなく、この突然変異体の原因遺伝子のバーシカンの分解と表現型を結ぶ遺伝子機能解析を行うことで、「心臓前駆細胞の移動」に伴う先天性心疾患の表現型多様性を生じる成因を紐解くことができると考えている。ポジショナルクローニング法により原因遺伝子は、バーシカンというプロテオグリカンであることを発見した。プロテオグリカンは循環器系前駆細胞の細胞外マトリックスの主要成分であり、多様な分子群を結集し組織構築に寄与することを発見した。バーシカンは脊椎動物の細胞外マトリックスで生物活性など持たない物理的な支えと考えられてきたが、我々の実験成果から細胞の移動を能動的に制御していることが分かってきた。本研究では、lht変異体と心臓前駆細胞の蛍光トランスジェニック魚を組み合わせることにより、前駆細胞の移動を4次元的に可視化して、ADAMTS切断抵抗性バーシカンノックインマウスによって大動脈縮窄症と同時に発症してくる先天性心疾患に共通する心臓前駆細胞の移動の異常に伴う先天性心疾患の多様性が生じる機序を統合的に理解することを考えて研究を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、保健管理センターの本務である感染防止対策やコロナ患者対応が多忙となったこと。緊急事態宣言の影響で研究を実施できない期間があったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
未知の生命現象や新たな病態を解き明かす最も確実な方法は突然変異体を用いた遺伝学的手法である。遺伝学的手法には何らかの表現型を呈している突然変異体を単離して、その遺伝子を同定する順遺伝学と、ノックアウトやCRISPR-Cas9を用いた既知遺伝子の機能を破壊する逆遺伝学的手法がある。これらの両方を駆使することができるモデル動物としてメダカとマウスを組み合わせて研究を推進していく。心臓・血管腔形成不全のメダカlht変異体の解析を出発点として、同一遺伝子の変異による表現型の多様性と前駆細胞移動の異常が結びついた。メダカで可視化された4次元的イメージを確立してADAMTS切断抵抗性バーシカンノックインマウスと同時に解析を行うことで種を超えた現象であることを証明していく。これまでに例がない表現型を呈する変異体メダカを確立しており、その原因遺伝子から表現型の多様性に至る機能解析を生体内で行うことができる状況である。さらにADAMTS切断抵抗性バーシカンノックインマウスは、愛知医科大学の渡辺教授のグループが確立しており、簡易的な解析が行われた状況である。 この解析を通して大動脈縮窄症に合併する心室中隔欠損、大動脈二尖弁、心房中隔欠損などの病態形成過程の知られていなかった共通するメカニズムを解明していく。メダカ・マウスから機序解明をおこなった後に、ヒトのデータを得て、治療標的の開発を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの感染拡大に伴い、対面での学術集会が全てオンライン開催となった関係で旅費等の支出がなくなった。2021年度中に感染が収束した際には成果の発表のための旅費として使用する予定である。
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