2020 Fiscal Year Research-status Report
肺癌治療において分子標的治療薬が惹起する薬剤性肺障害の発症機序の解明とその克服
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20K08555
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
南 俊行 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (00705113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木島 貴志 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (90372614)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 薬剤性肺障害 / ドライバー遺伝子変異・転座陽性肺癌 / 癌微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
肺癌の分子標的治療薬は(1)ドライバー遺伝子変異陽性例に対する小分子阻害剤、(2)血管新生阻害剤、(3)免疫チェックポイント阻害剤の3つに大別され、(1)がもたらす高い奏効率、(2)の併用による従来の化学療法の効果増強、(3)による全生存期間の大幅な持続的延長により、これまでの「化学療法による肺癌の根治は不可能」という概念は覆されつつあり、これらの薬剤の併用療法も既に標準治療として実臨床に応用されている。その一方で、分子標的治療薬は致死的な薬剤性肺障害(Interstitial lung disease: ILD)を惹起する事も少なくない。 本研究の目的は、ILDのリスク回避のためこれまで分子標的治療薬の適応外とされてきた症例に対しても、その効果を安全に届けるため、分子標的治療薬によるILDの発症機序を解明し、その制御法を確立する事である。申請者らは肺癌細胞とその周囲の癌微小環境、特に腫瘍関連マクロファージ(Tumor-associated macrophage: TAM)との相互作用に着目している。ドライバー遺伝子変異陽性肺癌症例に対する小分子阻害剤は奏効率も高く、無数の肺癌細胞をapoptosisやsenescenceに導く事ができるが、その際には大量のDamage-associated molecular patterns (DAMPs)やSenescence-associated secretory phenotype (SASP)が放出されると考えられる。これらのDAMPsやSASPがTAMを活性化する事が「炎症」のtriggerとなると同時に、TAM由来のprofibrotic mediatorが「線維化」を来し、ILDを惹起すると考え、さらにこれら一連の反応のKeyとなる分子として転写活性化補助因子YAP/TAZに注目して解析を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度として、ドライバー遺伝子変異の一つであるEpidermal growth factor receptor (EGFR)陽性肺癌細胞を使用したin vitroの解析を行なった。EGFR遺伝子変異陽性肺癌細胞をチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor: TKI)で刺激した所、YAP/TAZの核への移行が促進される事が確認され、同時にprofibrotic mediatorであるCTGF, TGF-1βなどが誘導されることが判明した。同時に、Cytokine arrayの結果からは、TAMの分化や遊走に関わるchemokineの発現が上昇している事が判明し、EGFR遺伝子変異陽性肺癌においてEGFR-TKIで加療した結果生じたSASPが、確かに癌細胞とTAMの間を繋ぐメッセンジャーになり得る事が示唆された。現在、YAP/TAZを制御することで、EGFR-TKIによって惹起されるSASPもまた制御することが可能かを、EGFR遺伝子変異陽性肺癌細胞のYAP/TAZをCRIPSR/Cas9システムを用いてKnockout(KO)した細胞の作成を行なっていて、すでにそれぞれのシングルKO細胞は樹立できている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目はin vitroの解析をさらに進めると同時に、in vivoの解析も行う予定である。マウス肺癌細胞3LLにEGFR遺伝子変異を導入してtransformationさせた細胞をヌードマウスの皮下に移植し、EGFR-TKIで治療を行なった上で腫瘍を摘出し、SASPの誘導状況や癌周囲組織のTAMや線維化の評価を行う。最終的にはYAP/TAZの阻害剤による治療実験を行い、実臨床において、TKIによって惹起される線維化が、YAP/TAZの制御で抑制されるかを検証する。これらin vivoでの実験と並行して、間質性肺炎合併肺癌症例の臨床検体の集積を進めていく。評価項目についてはin vitroの解析で判明した分子を優先的に解析する。
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Causes of Carryover |
(理由) 今年度はin vitroの実験が主で、細胞や試薬については既に研究室に備蓄されていたものを有効に使用する事ができたため、新規の購入などが、予想以上に少なくて済んだ事で、差額が生じる結果となった。 (使用計画) 次年度は、動物実験やヒト臨床検体の免疫染色での解析を行うことを想定していて、動物の購入・飼育費、検体の解析に使用する抗体および試薬の使用量が大きく増加すると思われ、差額分を含めた研究費を使用させて頂く予定である。
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