2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of therapeutic formulation for inflammatory dermatitis based on structure analysis of stratum corneum
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20K08699
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
小幡 誉子 星薬科大学, 薬学部, 教授 (20260979)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 皮膚 / 角層 / セラミド / 脂質モデル / バリア機能 / 光学活性 / 赤外分光測定 / 示差走査熱量測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、代表的な細胞間脂質を組み合わせて調製した脂質モデルを用いて、とくに、セラミドの光学活性に焦点を当てて形成される微細構造から、皮膚のバリア機能と光学活性の関連を調べた。示差走査熱量測定の吸熱曲線には、光学活性の有無に関わらず、いくつかのピークが認められた。まず、50℃付近の相転移では、光学活性セラミドを含む脂質モデルの吸熱量は概ねラセミ体の2倍程度だった。また、赤外分光実験から得られたプロファイルから、CH2対称、逆対称伸縮振動由来のピーク位置の推移を調べたところ、ラセミ体モデルではやや高波数側にピークが見られ、変化量もやや大きい傾向が認められた。一方、アミドの吸収においては、光学活性体モデルでは明らかに低波数にピークが認められた。また、C=O伸縮振動由来の吸収では、ラセミ体モデルでは高温までスペクトルの形状が保たれていた。50℃付近の相転移は直方晶の液晶化であると推察されるが、ラセミ体モデルでは光学活性体モデルよりも吸熱量が小さかったことから、直方晶が少ない可能性が示唆された。高温領域においてもラセミ体モデルでは相転移温度が低く、吸熱量が小さい傾向が見られたことから、光学活性体モデルのほうが安定な構造を形成する可能性が示唆された。また赤外吸収スペクトルの比較からは、光学活性体モデルは緩みの小さい構造が形成されていると考えられる。さらに、スフィンゴイド塩基のC=O伸縮振動由来のピーク形状には違いがあったことから、光学活性体モデルでは昇温により、遊離脂肪酸として脂質モデルに添加したパルミチン酸との相互作用が減弱して、パルミチン酸の脱離を生じることによって環境に対応した構造を形成した可能性が示唆された。光学活性セラミドは、皮膚表面温度付近では安定した微細構造を形成し、また、外部環境の変化に対応して、周辺の脂質との相互作用を通じて微細構造を再構築することが可能だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、外部研究施設で行う実験に出向くことができなかった時期もあったが、実験計画を柔軟に見直し、実施可能な部分から実験を進めた。今年度は、脂質モデルの利用を中心とした実験を行った。皮膚の物理的なバリア機能の中核をなす細胞間脂質の微細構造のなかで、脂質モデルで再現されたスフィンゴイド塩基周辺の分子挙動に着目したところ、光学活性体はより優れたバリアを形成する可能性が見出された。実際の皮膚では、角層細胞間脂質の大勢を占めるセラミドは光学活性体であるが、バリア機能を維持するうえでは光学活性体でなければならない本質的な意義をエビデンスとともに明確にすることができた。期せずしてセラミドの光学活性に目を向けたことで、これまで物理的なバリア機能の本質に迫る報告は少なかったこともあり、より掘り下げた興味深い知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに脂質モデルを使用した赤外分光実験については有用なデータが蓄積しつつある。一方で、放射光X線回折実験は、実験が限定されたため、今年度は放射光X線回折実験に力を入れたいと考えている。年間概ね3回程度実験の機会は得られるものの、それぞれ24時間程度であるため予備実験を正確に行い、必要な試料を絞り込んで実験に臨めるように体制を整えたい。また、予備実験で断片的に得られている結果も活用しながら、成果をまとめていきたいと考えている。また、細胞間脂質の光学活性がバリア機能に重要な役割を果たすことが明らかになってきたことから、炎症性皮膚疾患においても、光学活性との関連を検討項目に追加することにより、新しい知見が得られる可能性もあるかもしれない。
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Causes of Carryover |
緊急事態宣言の発出により学内への立入制限が行われ、実験実施が困難な時期が発生した。また、すでに課題採択されて実施予定だった外部研究施設での実験がいくつか実施不能となったことに伴い、使用する物品が減少したためこれらの予算を次年度使用とした。2021年度は、すでに外部研究施設での実施課題がいくつか採択されているので、新たに提案した実験とともに、保留していた実験を併せて実施する。学内の実験についても、効率化を図りながら当初の予定通り進められるよう予算配分する。
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Research Products
(8 results)