2021 Fiscal Year Research-status Report
組織炎症と繊維化に対するT細胞由来のプロテオグリカンの解析
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20K08769
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩村 千秋 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任講師 (10513062)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロテオグリカン / セルグリシン / 線維化 / 慢性炎症 / アレルギー性気道炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、CD4T細胞由来のプロテオグリカンの1つであるセルグリシンが炎症の遷延化や組織の線維化に関与する可能性ついて研究し、その機序を分子細胞免疫学の観点から解析している。 (i)セルグリシンのアレルギー性気道炎症における役割:セルグリシンノックアウト(KO)マウスを作成し、野生型マウスと共にダニ抗原(House dust mite: HDM)を6週間経鼻投与することで慢性アレルギー性気道炎症反応を誘導した。肺胞洗浄液中の細胞浸潤を調べると、エフェクター細胞である好酸球の浸潤細胞数は野生型マウスに比べてセルグリシンKOマウスで有意に減少していた。また肺の組織学的な検討を行うと、同様に細気管支や肺血管周囲の細胞浸潤もセルグリシン欠損マウスで低下していた。これらのことから、セルグリシンは慢性気道炎症反応を起こすのに重要な分子であることがわかった。またCD4T細胞特異的にセルグリシンを欠失させたマウス(Serglycin f/f x CD4 Cre)を作成し、同様の検討を行ったところ、肺胞洗浄液中の細胞浸潤数は野生型マウスと同程度に検出された。セルグリシンは様々な免疫細胞から産生されることを考えると、CD4T細胞から産生されるセルグリシンだけでなく、他の細胞の産生するものも炎症の誘導に関与している可能性が考えられる。 (ii)肺線維化におけるセルグリシンの関与:上述のようにマウスにHDMを長期で投与すると、肺の血管や細気管支周囲における膠原線維の増成がおこることがわかっている。そこでHDMの長期曝露後のマウスの肺を組織学的に検討したところ、セルグリシンKOにおいては膠原線維の増成が野生型とくらべて減弱していることがわかった。このことはセルグリシンが炎症反応の誘導のみならず、組織の線維化にも関与している可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、セルグリシンKOマウス、またはSerglycin f/f x CD4 Creマウスを当研究室独自に作成し、セルグリシンが慢性アレルギー性気道炎症反応において病的に働く因子であることを明らかにした。細胞外マトリックスを構成するプロテオグリカンが炎症の惹起に関与することはこれまで知られておらず、本研究の成果から慢性炎症疾患の病態解明について新たな知見が得られたと考えられる。また慢性アレルギー性気道炎症反応時におけるセルグリシンの産生細胞としてCD4T細胞の関与を示してきたが、本年度の研究結果から、それ以外の細胞から産生されるセルグリシンも病態形成に関与することがあきらかとなった。炎症の遷延化は組織の線維化につながると考えられており、セルグリシンもコラーゲンとの結合がすでに報告されている。実際にセルグリシンKOマウスで組織線維化の低下がみられたことは、セルグリシンが炎症反応のみならず、その先の線維化反応にも関与していることが示唆された。 セルグリシンには2糖の繰り返し構造をもつグリコサミノグリカン(GAG)が結合しており、それが他の分子との結合に必要であることが知られている。そこでGAGの1つであるヘパラン硫酸の伸長酵素であるExt1 floxedマウスを作成し、in vivoの実験に使用できる状況にある。 以上着実な研究進展が認められており、概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果からセルグリシンが気道炎症反応やそれに伴う組織線維化に病態に関与することがわかった。そこで今後はどのような機序によってセルグリシンが病態形成に関与するのか明らかにすることを目指す。 (1) セルグリシンは活性化免疫細胞に発現するCD44分子やコラーゲン線維と結合することが知られる。そこでT細胞などから放出されたセルグリシンは炎症性細胞上のCD44と細胞外マトリックスに存在するコラーゲンとを架橋し、その細胞が組織に定着するために必要である可能性について検証する。またProximity ligation assayを病理標本に応用することで、in situでタンパク質間結合を検討する。これにより炎症組織において実際にCD44やコラーゲンとセルグリシンが結合するか明らかとなる。 (2) 組織線維化におけるセルグリシンの役割を検討するため、コラーゲン同士の架橋にセルグリシンが関与するのか明らかにする。またセルグリシンによって架橋されたコラーゲンは他のプロテオグリカンで架橋された場合よりも分解されにくいか分子生物学的に検討する。生理的条件下であってもコラーゲンは他のプロテオグリカンによって架橋されているが、炎症性に放出されるセルグリシンによりその架橋が強化されることによって、不可逆的な線維化につながっているか明らかにする。また突発性肺線維症患者の肺検体をもちいてセルグリシンの沈着を免疫組織染色法にて検証する。 (3)セルグリシンに結合するGAGの役割を明らかにするため、ヘパラン硫酸伸張酵素であるExt1 floxedマウスとERT Creマウスを掛け合わせる。タモキシフェンの投与により、Ext1の発現を欠失させた後、HDMを用いて肺の慢性炎症を誘導し、肺での細胞浸潤や組織線維化の程度を検証する。
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Research Products
(6 results)