2020 Fiscal Year Research-status Report
感染症診断と感染制御支援のための新規高病原性肺炎桿菌解析法の構築とその臨床的評価
Project/Area Number |
20K08819
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川村 久美子 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (30335054)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 哲也 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (70333573)
鈴木 匡弘 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (70446649)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高病原性肺炎桿菌 (hvKp) / カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE) / multiplex PCR 法 / 菌種マーカー / sequence type (ST) / 莢膜型K1 / 病原遺伝子 (rmpA/A2) / 薬剤耐性遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究内容】カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の世界的流行クローンや病原性と関連するsequence type(ST)の特定、高病原性肺炎桿菌(hvKp)に特異的な病原遺伝子群の保有や莢膜型別ならびにカルバペネマーゼ産生遺伝子の保有を検出するmultiplex-PCR法を構築する。合わせて、日常診療における本法導入の有用性を評価する。 【意義と重要性】(1)医療機関では、特定のST型に属するhvKp株によるアウトブレイクが発生する危険性がある。(2)hvKp株は健常人においても、少量菌数で複数臓器に感染することが多く重篤化傾向にある。(3)CPE-hvKp株の出現・増加により難治化傾向にある。以上の理由から、救命率向上のためには早期の原発巣の特定と適性治療の開始が重要である。本研究で構築するmultiplex-PCR法は、hvKpの鑑別、耐性菌の同定、世界的流行クローンや病原性と関連するST型の特定をOne-stepで解析する検査方法であり、hvKp感染症の診断・治療および救命率の向上ならびに院内感染対策に貢献することが期待できる。 【研究成果】NCBIデータベースから得られた全ゲノムデータを用いて、肺炎桿菌に属する3菌種の分類、薬剤耐性遺伝子や病原因子(莢膜型K1、rmpA/A2)を検出する9つのプライマーを新たに設計した。菌種マーカーはK. pneumoniae 8種, K. variicola 8種, K. quasipneumoniae 12種にて検討し、検出感度と特異度はともに100 %であった。莢膜型K1、薬剤耐性遺伝子や病原遺伝子の保有は全てWGSデータと一致していた。使用菌株143株は59種類のST型に分類され、本法のSimpson’s indexはST型のそれよりも高いことから、院内感染の疫学解析にも使用可能な識別能を有していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画として、(1)病原遺伝子検出の有用性を評価するための全ゲノムデータベースを作成する、(2)5個の病原因子 (iroB,iucA,peg-344,rmpA,rmpA2)およびカルバペネマーゼ産生遺伝子とその代表的流行クローン(ST型)を検出する系を構築することを予定した。 (1)の全ゲノムデータベースの作成については、40株のwhole-genome sequencing (WGS)を追加し、合計178株(K. pneumoniae 143株, K. variicola 20株, K. quasipneumoniae 13株, その他2株)とした。それらのpulsed-field gel electrophoresis (PFGE)も終了しており、全ゲノムデータベースの作成は概ね終了した。(2)の病原因子については、当初5個(iroB,iucA,peg-344,rmpA,rmpA2)の検出を考えていたが、作成したデータベースから、我が国で分離される肺炎桿菌には、iroB,iucA,peg-344を保有する株が極めて少ないこと、hvKp株の莢膜過形成による高粘稠性はrmpA/A2 遺伝子保有と相関性が高いことが海外の複数論文で示唆されたことから、今年度はrmpA/A2 の2遺伝子のみの検出を試み、結果はWGSのデータと一致した。耐性遺伝子については、カルバペネマーゼ産生遺伝子としてblaIMPとblaKPCを検出するprimer setを組み入れるとともに、肺炎桿菌において近年増加傾向にある基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生遺伝子blaCTX-M group-1とblaCTX-M group-9 を検出するprimer setも組み入れることに成功している。以上のように、検出対象とする遺伝子に若干の変更はあったものの、当初の研究計画は概ね予定通り終了した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、菌株入手が容易であったことから、主に呼吸器系材料から検出される肺炎桿菌を用いてmultiplex-PCR法の構築、基礎的検討を行ってきたが、今後、本法の臨床的有用性を評価するにあたっては、肺炎桿菌が起因菌であると推定できる血液培養陽性株を追加解析する必要があると考える。 共同研究者である八木哲也先生の所属である名古屋大学医学部附属病院 微生物検査室では、血液培養陽性検体から分離された肺炎桿菌が10年間にわたり保存されている。この血液培養陽性検体から分離された肺炎桿菌を入手し、multiplex PCR typing method を実施するとともに、できるだけ数多くの血液培養陽性検体由来株のwhole-genome sequencing (WGS)解析を行い、今年度作成した全ゲノムデータベースの確認作業を行いたいと考えている。また、血液培養陽性検体由来株の臨床的な背景を調査するための生命倫理審査の申請を準備する予定である。
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Causes of Carryover |
血液培養陽性検体から分離された肺炎桿菌を入手し、whole-genome sequencing (WGS)解析を行う予定で、その分を含んだWGS解析の試薬購入予算を申請をしたが、今年度は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、教員や学生の学外への移動が大幅に制限された影響で、WGS解析を行う回数が1回分少なくなった。そのため、WGS解析の試薬購入分の予算が次年度繰越となった。繰越した予算を用いて、2021年度内にWGS解析を行い研究計画を遂行したいと考えている。
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