2021 Fiscal Year Research-status Report
性ホルモンが副腎皮質の細胞増殖に性差をもたらすメカニズムの解明
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20K08863
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
馬場 崇 九州大学, 医学研究院, 准教授 (40435524)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 副腎皮質 / 性差 / 性ホルモン / Ad4BP |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究から、副腎皮質束状層細胞において、ほぼ全ての遺伝子の発現がメスでオスよりも高いことが明らかとなった。さらに、副腎の発生、および機能発現のマスター遺伝子であるAd4BPが、このグローバルな遺伝子発現の性差(メス>オス)に重要な役割を果たしていることが予想された。 そこで本年度は、Ad4BPがグローバルな遺伝子発現を制御するメカニズムに関して検討を行なった。まず、雌雄の野生型、およびAd4BPヘテロ欠損マウスから副腎皮質束状層細胞のみを単離し、トランスクリプトーム解析を行なった。その結果、ほぼ全ての遺伝子の発現がAd4BPヘテロ欠損マウスで顕著に低下することが明らかとなった。Ad4BPの発現は副腎皮質束状層細胞において性差(メス>オス)を示すため、Ad4BPがグローバルな遺伝子発現に性差(メス>オス)を誘導することが強く示唆された。 Ad4BPは転写因子であることから、Ad4BPがほぼ全ての遺伝子の発現を直接制御するのか否かを明らかにするためにCUT&RUN-seqを行なった(昨年度の成果)。昨年度得られたデータの詳細な解析を行なった結果、Ad4BPは副腎皮質束状層細胞で発現する遺伝子のおよそ半数を直接制御する可能性が示された。 また、Ad4BP遺伝子の発現は男性ホルモンによって抑制されることを明らかにした。 以上の結果より、副腎皮質束状層細胞におけるグローバルな遺伝子発現の性差(メス>オス)は男性ホルモンが誘導するAd4BPの発現の性差(メス>オス)によって形成されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画①(性ホルモンによるAd4BPの発現制御)において、男性ホルモンがAd4BPの発現を抑制することを、一連のモデルマウス(精巣摘出オスマウス、精巣摘出後に男性ホルモン投与を行なったオスマウス、卵巣摘出後に男性ホルモン投与を行なったメスマウス等)から調製した副腎皮質束状層細胞を用いた遺伝子発現解析実験から明らかにした。また、これらの細胞を用いたトランスクリプトーム解析から、男性ホルモンがほぼ全ての遺伝子発現を抑制すること、そしてグローバルな遺伝子発現の性差を作り出すことを明らかにした。 研究計画②(Ad4BPによる代謝関連の遺伝子発現、および代謝活性の制御)に関しては、雌雄の野生型、およびAd4BPヘテロ欠損マウスから調製した副腎皮質束状層細胞を用いて、解糖系、およびミトコンドリア酸化的リン酸化の活性の測定を行なった。その結果、これらの代謝活性がメスでオスよりも高いこと、また、雌雄ともにAd4BPヘテロ欠損マウスでは活性が低下することを明らかにした。 研究計画③(性ホルモンによる代謝制御)では、生殖腺を摘出した雌雄マウスに男性ホルモンまたは女性ホルモンを投与し、本来の性と逆の性ホルモン存在下で代謝活性の逆転が誘導されるかを検討する計画であった。しかし、これらのマウスを用いたトランスクリプトーム解析から、代謝関連遺伝子を含むほぼ全ての遺伝子発現が男性ホルモンによるAd4BPの発現抑制を介して制御されることが明らかとなり、遺伝子発現の雌雄逆転に伴い解糖系や酸化的リン酸化の活性が雌雄逆転することが容易に想像できたため、これらの解析は行なっていない。代わりに、細胞内代謝活性の性差のアウトプットとして副腎皮質束状層細胞の主要な機能である糖質コルチコイドの産生に焦点を当て、その血中濃度の定量、雌雄間比較を行うべくサンプルを準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の2点に集中し本計画を推進する。 1.CUT&RUN-seqの結果からAd4BPは約半数の遺伝子の発現を直接制御することが明らかとなった一方、Ad4BPヘテロ欠損マウスではほぼ全ての遺伝子の発現が低下した。これらの結果は、Ad4BPが約半数の遺伝子を間接的に制御する可能性を示唆している。そこで、この間接的制御を担う因子(転写因子)の候補を同定するために、オスマウスで男性ホルモンシグナルを阻害した後に経時的にトランスクリプトームを取得する。そして、Ad4BPの発現上昇に遅れて発現上昇する遺伝子群を同定し、それらの中から候補因子の探索を行う。 2.副腎皮質束状層細胞における遺伝子発現の性差が誘導する表現型の代表として、糖質コルチコイドの産生に焦点を当てる。雌雄の野生型、およびAd4BPヘテロ欠損マウスの血中における糖質コルチコイドを定量し、その性差を明らかにする。また、糖質コルチコイドは筋萎縮を誘導することが知られているため、副腎からの糖質コルチコイドの分泌の性差が、筋サイズの性差を誘導する一つの要因になっている可能性に関して検討する。
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナ禍により研究活動の時間短縮を余儀なくされる時期ができてしまった。その影響で計画していたトランスクリプトーム解析の一部が次年度にずれ込んでしまった。そのため、トランスクリプトームデータの取得に必要な消耗品費(おもにライブラリー作成に必要な試薬費、次世代シークエンスにかかる費用)を次年度に繰り越した。また、出席を予定していた学会、研究会が、オンライン開催、もしくは中止となってしまい、そのための旅費を次年度に繰り越した。次年度に繰り越した研究費は、計画通り、トランスクリプトーム解析を行う費用、および学会参加のための旅費に充てる。
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Research Products
(6 results)