2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K08881
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 廣壽 東京大学, 医科学研究所, 教授 (00171794)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 内分泌 / 代謝 / エネルギー代謝 / 骨格筋 / 肝臓 / 脂肪 / オミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
個体レベルのエネルギー代謝や体組成はきわめて多くの要素・調節系の複雑な連関によって制御されており、しかも、それらの連関は、飢餓時と肥満では糖脂質代謝経路が大きく異なるなど、個体のおかれている状況によって著しく変動する。したがって、エネルギー代謝異常症の病態を理解するためには、生理的条件下のみならず2型糖尿病や肥満などの疾患モデルにおける詳細な検討が必須である。そこで本研究は、耐糖能異常を呈する肥満モデルにおいて、骨格筋を全身のエネルギー代謝のノードと捉え、とくに骨格筋GRに焦点をあてて骨格筋―肝臓―脂肪連関とその代謝制御における意義を解明することを目的とする。 骨格筋―肝臓―脂肪連関とアラニンやFGF21などの介在因子は応募者が世界で初めて明らかにしたものである。とくに骨格筋GRに焦点をあてた研究は独自のものであり、骨格筋特異的GR遺伝子破壊マウスをそのために自家開発した。2型糖尿病や肥満の病態を多臓器連関の撹乱によるエネルギー代謝異常症という視点から解明する点でも本研究の独創性は高く、既成概念の枠を超えた発見が生まれこれらの疾患の治療にパラダイムシフトをもたらすことが大いに期待される。 本研究の予備的検討として、健常マウス、GRmKO、ob/ob、ob/ob/GRmKO、を用い、通常食と高脂肪食の2群に分けて、合計8系列を用いた。各々から、臓器重量(肝臓、脂肪、骨格筋、心臓)、耐糖能、血液・尿生化学(インスリン、コルチコステロンなど内分泌学的評価を含む)、運動耐容能など基本的データを採取した。さらに、諸臓器のマルチオミクスデータとして、骨格筋、肝臓、脂肪組織よりトランスクリプトーム、メタボローム、血液よりメタボローム・プロテオームを取得した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルス感染症の蔓延による入構制限などの影響を受け、また、研究機関移動に伴い、動物実験が遅滞した。骨格筋トランスクリプトーム(マイクロアレイ、RNA-seq)、骨格筋・血漿メタボローム(CE-TOFMS)の解析に要する動物個体数を確保できておらず、進捗がやや遅れた。
|
Strategy for Future Research Activity |
移動先研究機関において動物実験環境の整備を遅滞なく進め、オミクス解析に必要な個体数を確保した後直ちに基本的なエンリッチメント解析(GO解析、パスウェイ解析を含む)や主成分分析などに加えて、トランスクリプトームとメタボロームの階層間の連関を考慮したトランスオミクス解析を行う。また、骨格筋における変化が、肝臓や脂肪組織の変化とどのように連関するか、各臓器のオミクスデータ間の関連解析を行う。代謝物やホルモン様物質が臓器間でやりとりされるなかで生体の代謝が決定されることを想定し、血液を介して臓器が連結されたモデルを構築する。代謝フラックスの解析を含む臓器連関のシミュレーションを行う。以上から、糖代謝と体組成制御の鍵となる候補因子・ネットワークを絞り込む。解析には、事前知識を利用しながら、代謝ネットワークの変容や因子の依存関係を明らかにし、より上位の変化として考えやすい分子・ネットワークの絞り込みや、生物学的意義の大きな変化、あるいはマーカー候補を見出す。重要因子の絞り込みを行ったのちは、分子生物学的検証を行う。関連臓器の蛋白発現や遺伝子発現などを分子生物学的手法で調べ、補充・阻害、ノックイン・ノックダウン・ノックアウトの系などを用いて、耐糖能を含む代謝への影響を検証する。随時、解析モデルの拡大(例:性腺摘除マウスや性ホルモン過剰モデル、老齢条件)、解析対象臓器の拡大(例:インスリン分泌変容があれば膵臓を追加)、オミクス階層の拡大(例:エピゲノムやリン酸化プロテオーム)を検討する。以上のプロセスから、数理科学的手法と分子生物学的手法とを相互補完させながら、糖尿病、肥満の予防・治療のための標的となる機序を見出す。研究の進捗のなかで臨床応用可能な因子が同定されれば、直ちにヒトを対象とした新規研究を立ち上げる。
|
Causes of Carryover |
予備的検討は他の研究費で既に購入した動物、試薬などで実施しており、本研究費からは支出していない。また、コロナウイルス感染症蔓延に伴う動物実験などの遅滞により本研究費からの支出は発生しなかった。以上から全額を次年度に繰り越した。次年度においては、動物購入に加え、RNAseqなどのオミクス解析の委託などで支出する見込みである。
|