2021 Fiscal Year Research-status Report
白色脂肪の褐色化と糖代謝制御におけるMAIT細胞の役割に関する研究
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20K08893
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
薄井 勲 獨協医科大学, 医学部, 教授 (50377272)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若尾 宏 獨協医科大学, 医学部, 教授 (10280950)
藤坂 志帆 富山大学, 学術研究部医学系, 准教授 (30512082)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自然免疫型T細胞 / 脂肪組織褐色化 / MAIT細胞 / 耐糖能異常 / 脂肪肝 |
Outline of Annual Research Achievements |
白色脂肪組織が寒冷刺激などに曝露されると、一部の細胞が褐色脂肪細胞様に変化する。これは白色脂肪の褐色化と呼ばれ、熱産生や体重減少、耐糖能の改善を促す。MAIT細胞は自然免疫型T細胞であるが、褐色化におけるMAIT細胞の役割は不明であった。本研究計画では、我々が作製したMAIT細胞を豊富に持つマウス(MAITマウス)を用いて、MAIT細胞が白色脂肪の褐色化と体重、および耐糖能に与える影響について検討する。 令和3年度までの検討では、まずMAITマウスとC57BL/6マウス(MAIT細胞がごく僅かに存在する)の2種類を通常食および高脂肪食にて飼育後解析した。MAITマウスとC57BL/6マウスは通常食・高脂肪食飼育時のいずれにおいても体重および耐糖能に有意な差がなかった。また脂肪組織褐色化の評価として、① 脂肪組織の重量と組織染色による脂肪細胞の形態、② real time RT-PCRによる褐色化マーカーの発現、③ フローサイトメトリによる褐色化に関わる既知の細胞の評価等を行った。しかし、通常食・高脂肪食飼育のいずれにおいても上記①~③の実験結果にMAITマウスとC57BL/6マウスの間で有意差はなかった。次に、MAIT細胞を全く持たないMR-1欠損マウスとC57BL/6マウスを用い、体重と耐糖能の評価を行った。両マウスの体重、脂肪組織の褐色化マーカー、および耐糖能に有意な差はなかった。すなわち、MAIT細胞の数の違いは脂肪組織の褐色化と耐糖能制御には関与しないものと考えられた。 そこで、MAIT細胞のT細胞受容体特異的アゴニストである5-OP-RUを通常食飼育のMAITマウスとC57BL/6マウスに投与し、同様の検討を行った、しかし、両マウスの間に有意差はなく、耐糖能および脂肪組織の褐色化制御におけるMAIT細胞のTCRシグナルの活性化の関与も現時点では否定的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画の目的は、MAIT細胞の活性化が白色脂肪の褐色化と糖代謝に与える影響について明らかにすることである。令和2年度までには、MAITマウスとC57BL/6マウスを解析し、通常食飼育時・高脂肪食飼育時のいずれにおいても体重および糖負荷試験やインスリン負荷試験にて評価した耐糖能に有意差がないことを報告した。 令和3年度にはまず、脂肪組織の褐色化に注目し、検討を行った。令和2年度までと同様にMAITマウスおよびC57BL/6マウスと用い、① 脂肪組織の重量と組織染色による脂肪細胞の形態、② real time RT-PCRによるUCP-1など褐色化マーカー、およびIL-17やFGF21など脂肪組織の褐色化に関与する既知の因子の発現、③ フローサイトメトリによる好酸球、Tregなど、白色脂肪の褐色化に関わる既知の細胞、の評価を行った。結果として、MAITマウスとC57BL/6マウスは通常食飼育時・高脂肪食飼育時のいずれにおいても上記①~③の実験結果に違いがなかった。次に、MAIT細胞を全く持たないMR-1欠損マウスとC57BL/6マウスを用い、体重と耐糖能の評価を行った。両マウスの体重、脂肪組織の褐色化マーカー、および耐糖能に有意な差はなかった。以上より、MAIT細胞に特別な活性化刺激を与えない状態において、その数の違いは脂肪組織の褐色化と耐糖能には関与しないものと考えられた。 そこで、通常食にて飼育したMAITマウスとC57BL/6マウスに対し、MAIT細胞のT細胞受容体(TCR)に特異的なリガンドである5-OP-RUを投与し、耐糖能および上記①~③の検討を行った。5-OP-RU非投与時と同様、5-OP-RU投与時にもこれら検討結果に有意差はなかった。以上より、耐糖能および脂肪組織の褐色化におけるMAIT細胞TCRシグナルの活性化の関与は、現時点では否定的である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度までの検討では、MAIT細胞の数およびそのTCRシグナルの活性化が、耐糖能および脂肪組織の褐色化に与える有意な影響を検出できていない。本研究計画の最終年度である令和4年度には、次の3つの面から、MAIT細胞と代謝の関連について検討を加える。 検討1:我々のグループとは独立にMAIT細胞を豊富に持つトランスジェニックマウスを作成・解析したグループは、MAIT細胞数の増加がそれ単独でインスリン抵抗性を誘導すると報告している(Nat Commun 2020,11(1),3755)。我々の結果との違いの理由を明らかにするため、インスリン標的臓器である骨格筋、肝臓、脂肪組織におけるインスリン感受性およびインスリンシグナルについてさらに詳細な検討を行う。採取した組織のインスリンシグナルをWestern blotで、インスリン感受性をグルコースクランプ法にて評価する。 検討2:脂肪組織の褐色化誘導として、マウスの寒冷刺激およびiNKT脂肪にて報告のあるGLP-1受容体作動薬の刺激を行い、体重、体温、脂肪組織褐色化の評価を行う。MAIT細胞が脂肪組織褐色化に関与するのか否かの結論を出す。 検討3:令和3年度までの検討にて、耐糖能に関与する脂肪組織以外の臓器の解析を進めるなかで、MAIT細胞が肝臓への脂肪蓄積に影響をあたえうる可能性が示された。令和4年度には、MAIT細胞が全身の代謝に与える影響のひとつとして、肝臓の解析を更に進める。肝臓を採取し、中性脂肪の定量的評価、脂肪蓄積と炎症の形態的評価(NAS他)、qRT-PCRやFACSによる脂肪合成系経路と免疫・炎症細胞の評価などを予定している。 検討1~3のいずれにおいても、MAITマウス、C57BL/6マウス、MR1欠損マウスの3系統を用いる。特に令和3年度までに解析が遅れているMR-1欠損マウスの解析を終了させる。
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Causes of Carryover |
令和3年度に繰越金が発生した理由は次の通りである。令和3年度にはマウスの掛け合わせと高脂肪食による長期飼育によって解析に必要な匹数を増やすことに時間がかかった。特に、今年度あらたに飼育を始めたMR-1欠損マウスの飼育数が少なかった。そのため、当該年度内に実施できたマウスの解析数が当初の予定よりも少なく、マウスの解析に必要な物品の購入費も予定よりも少なかった。また、コロナ禍の影響で学会がWeb開催となり、予定していた出張費を使用しなかった。令和4年度以降にはさらに多くの解析を予定している。繰越金をそれら解析に必要な物品購入にあてる予定である。
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