2020 Fiscal Year Research-status Report
ステロイド産生細胞における環状構造RNAの意義の解明
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20K08922
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
田中 智子 福岡大学, 医学部, 講師 (10380528)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大江 賢治 福岡大学, 薬学部, 教授 (30419527)
田邉 真紀人 福岡大学, 医学部, 准教授 (60707305)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環状RNA / 副腎腫瘍 / NR5A1 |
Outline of Annual Research Achievements |
環状構造のRNAは組織特異的、発生段階特異的に発現している。環状RNAは、マイクロRNAをスポンジのように吸着して遺伝子発現を調節したり、自身が翻訳されて、発生、がん、免疫などの幅広い生命現象に関わっている。また、構造的に安定であるため、新規バイオマーカーとしても注目されている。副腎では約2000種類の環状RNAが発現するといった報告があるものの、機能は不明である。私達は、ステロイド産生細胞の増殖調節、および、ステロイド産生調節における機能性環状RNAの意義解明を目標に研究を行っている。 これまでに、ステロイドホルモン産生における主要な調節因子NR5A1(別名Ad4BP/SF-1)の mRNAスプライシングを研究する過程において、副腎癌細胞株では検出されないが、正常副腎皮質にのみ存在する環状構造のNR5A1 RNAを発見した。その形成には小胞体ストレス応答経路のInositol-requiring protein-1 (IRE1) が深く関与していたため、circIRE type RNAと命名した。 正常細胞における小胞体ストレスを介した環状RNAの形成は、癌化や過剰ステロイド産生に対して抑制的に作用するのではないかと考えられる。現在、1)正常副腎組織と副腎腫瘍とで、環状RNAの発現にどのような違いがあるか網羅的に解析し、発現阻害実験等による環状RNAの機能解析を行う。2)小胞体ストレス誘導性の環状RNAがどのように作られ、その破綻によってステロイド産生の異常や増殖亢進がおきるのかについて解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)正常副腎組織と副腎腫瘍における環状RNAの発現解析 環状RNAは発現量が少ないため、シークエンス解析のための濃縮が必要である。現在までに、ヒト副腎皮質癌細胞株H295Rを用いて、環状RNAの濃縮工程の検討を進めている。カゼインキナーゼ2(CK2)阻害剤CX-4945をH295R細胞に投与すると、NR5A1の環状RNAが形成される。この環状RNAをコントロールとして、サンプル調製―シークエンスー環状RNA解析の一連の系を立ち上げ中である。 2)小胞体ストレス誘導性の環状RNAの解析 IRE1は小胞体膜上に局在し、小胞体ストレス下でX-box protein 1 (XBP1) mRNA をスプライシングして、転写活性化型の XBP1 isoformが小胞体ストレス応答遺伝子の発現を誘導する。IRE1は標的配列5’-CUGCAG-3’を認識してRNAを切断し、切断されたRNAはtRNAリガーゼによって連結される。正常副腎皮質組織において、NR5A1遺伝子のエキソン4に外向きに設定したプライマーを用いてRT-PCRにて増幅したところ、エキソン6とエキソン1の途中が、5’-CUGCCG-3’を介して連結している環状RNAが見つかった (circIRE NR5A1 ex6-1 RNA)。この環状RNAは、ヒト副腎皮質癌細胞株H295Rでは発現していなかった。さらに、NR5A1遺伝子のエキソン7の途中とエキソン1の途中が5’-CUGCCA-3’を介して連結する環状RNA (circIRE NR5A1 ex7-1 RNA)の発現はIRE1aの過剰発現によって誘導され、IRE1a阻害剤によって消失した。本研究課題では、種々のIRE1a型NR5A1環状RNAの発現ベクターを構築し、環状RNA が細胞増殖やステロイド産生に与える影響をH295Rを用いて解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)正常副腎組織と副腎腫瘍における環状RNAの発現解析 細胞株H295Rを用いてtotal RNAからribosomal RNAを除去し、RNaseRによって直鎖状のRNAを分解する工程によって環状RNAを濃縮し、一本鎖に切断した後に、RNAseqを行う。CX-4945によって生じるNR5A1環状RNAをRNAseqにて検出できるか確認した上で、副腎腫瘍検体と正常副腎組織(アルドステロン産生腫瘍と付随して摘出された正常副腎皮質)をマイクロダイセクションし、サンプル調製、RNAseq、環状RNAの解析を行う。circRNAデータベースとの比較、腫瘍と正常、腫瘍とH295R間で環状RNAにどのような差異があるか比較検討を行う。 2)小胞体ストレス誘導性の環状RNA生成機序の解明 IRE1は標的配列5’-CUGCAG-3’を認識してRNAを切断し、切断されたRNAはtRNAリガーゼによって連結される。副IRE1型NR5A1環状RNAのリガーゼは不明なので、候補遺伝子RtcBなどをsiRNAによる発現阻害し、IRE1型NR5A1環状RNAのリガーゼを同定する。加えて、正常副腎皮質、副腎腺腫組織におけるIRE1型NR5A1環状RNAおよび小胞体ストレス応答因子の発現量を解析する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、研究を一次休止したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、検体からのサンプル調製およびRNAseq解析に使用する計画である。
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