2021 Fiscal Year Research-status Report
乳癌幹細胞の薬剤感受性に基づいた新しい個別化薬剤選択システムの確立
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20K08981
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
角舎 学行 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 講師 (20609763)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 乳癌 / 幹細胞 / 治療効果予測 / 遺伝子プロファイル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では乳癌幹細胞を研究テーマとし、乳癌臨床検体から幹細胞の分離培養を目的としている。癌組織から癌幹細胞を選択的に培養する手段としてスフェロイド培養を行い、培養したスフェロイドと原発巣において、乳癌幹細胞マーカーとされているCD24, CD44による免疫染色を行い、病理学的検討を行った。さらに、スフェロイド培養により選択培養した乳癌幹細胞をマウスに移植し、PDSX(Patient-derived spheroid xenografts)を作成することで、原発巣、スフェロイド、PDSXとの間で病理学的検討を行った。 48症例における原発巣とスフェロイドとの比較では、乳癌幹細胞マーカーであるCD44+/CD24-で表現される細胞の割合は、93%の症例で原発巣より増加していた。また、スフェロイドでは間葉系マーカー陽性例が多く、Twist1は72%、SNAILは57%、Vimentinは64%の症例で発現を認めた。上皮系マーカーであるE-cadherinは60%の症例で発現していた。この結果より、スフェロイド培養により乳癌幹細胞の選択的な培養ができ、培養した乳癌幹細胞は必ずしも原発巣のホルモン発現状況と一致しないこと、乳癌幹細胞は上皮系だけでなく間葉系の性質も持つことが判明した。 また、原発巣、スフェロイド、PDSXとの間での病理学的検討では、原発巣からスフェロイド培養することで増加した幹細胞割合はPDSXで原発巣とほぼ同様の割合まで減少した。また、ホルモンレセプター陽性細胞はスフェロイドで減少しPDSXで増加、間葉系マーカー陽性細胞はスフェロイドで増加しPDSXで減少し、それぞれ原発巣とほぼ同様の割合となった。以上の結果から、原発巣とPDSXは病理学的に類似した特徴を持ち、スフェロイドにて選択培養した乳癌幹細胞の、マウス体内での多分化能が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの結果により、乳癌患者の病理検体から乳癌幹細胞を選択的に培養する方法を確立したと言える。これまではラウンドボトムの培養皿に物理的に細胞を集め短期間にスフェロイド状態を作らせる「スフェロイド培養」が報告されていたが、これはスフェロイド構造を取った方が、生体内の状況と類似しているため、薬剤感受性などがより正確にわかることからであり、幹細胞性とは無関係である。一方、我々の「スフェロイド培養」は、低接着培養皿で培養するとこにより幹細胞以外の非癌幹細胞が培養されずに、生き残った癌幹細胞がスフェロイド構造を作るというメカニズムになっている。これは、大腸癌などでもすでに報告されているが、乳癌領域でこれほど多くの症例で乳癌幹細胞を作製した報告はない。 乳癌においては、薬物療法で乳癌細胞をゼロにすることもサブタイプによっては可能であるが、そのためには最も薬剤感受性の低い乳癌幹細胞を選択的に取り出すことが必須となる。我々の方法で、乳癌患者に最も適した薬剤を選択することができる可能性がある
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要欄及び現在までの進捗状況に記載の通り、乳癌幹細胞の特徴が徐々に判明した。今後、乳癌幹細胞の遺伝子解析、薬剤感受性試験などを進めることで、乳癌幹細胞をターゲットとした治療開発につながることが期待される。 現在、トリプルネガティブ乳癌を対象に患者の針生検検体から乳癌幹細胞を選択的培養し、その薬剤感受性を測定する実験を開始している。トリプルネガティブ乳癌はER陰性、HER2陰性であり、薬剤感受性が高いグループと低いグループに極端に分かれている。患者に術前化学療法を開始する前に患者の乳癌幹細胞を選択的培養でき、薬剤感受性を測定し患者にフィードバックできれば、患者に合ったより効果の高い治療法を選択することができる
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、コロナで物流が滞ったため注文した物品(低接着プレートなど)が届かなかったりしたため、思うように実験ができないという状況がある。これまでの結果で、患者乳癌組織から乳癌幹細胞を選択的に培養する手技は確立されたため、今年は術前化学療法患者の生検、マンモトーム組織から乳癌幹細胞を培養し、in vitroでの薬剤感受性と病理学的完全奏功との関連を検討していきたいと考えている。
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