2020 Fiscal Year Research-status Report
Pulmonary artery banding for pediatric patients with dilated cardiomyopathy
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20K09136
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
佐々木 孝 日本医科大学, 医学部, 准教授 (80350065)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮城 泰雄 日本医科大学, 医学部, 講師 (00350116)
深澤 隆治 日本医科大学, 医学部, 准教授 (80277566)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 薬剤性心筋障害 / 肺動脈絞扼術 / 小児心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
①心筋症モデル作成: ラットでアドリアマイシンによる薬剤性心筋症モデルを作成した。ラットの年齢による薬剤への反応の違いを明らかにするために、4週齢、6週齢、8週齢、12週齢のラット各3匹に15㎎/kgのアドリアマイシンを2週間で6回の分割投与を行った。4週齢ラットは薬剤投与6ヵ月生存(生存率100%)、6週齢ラットは薬剤投与後27、31日に死亡(生存率33%)、8週齢ラットは27日に死亡(生存率67%)、そして12週齢ラットは31、35、36日に死亡(生存率0%)した。以上から4週齢のラットが最も生存率が高く、またヒトの年齢へ換算すると1.5~2歳となり、乳幼児という本研究の対象年齢として適しているため、本実験では4週齢のラットを用いることとした。 ②心機能評価: ラット薬剤性心筋症モデルの心機能評価として、経胸壁心エコー、頸動脈からPVカテーテルを左室まで挿入する心臓カテーテル検査を行い、心収縮能、拡張能の評価を行った。 ③VSDのPABモデル(臨床データ)解析: 肺動脈絞扼術(PAB)は心内シャントのある先天性心疾患で行われる姑息術である。臨床データから、心室中隔欠損(VSD)に対してPABを施行した16例のPAB前後での心臓カテーテル検査所見を振り返った。結果をまとめると、VSDに対するPABは、右室圧を上げることでVSDを介した左右シャントを減じ、肺血流が低下することで左室の容量を減少させる。しかし全身への心拍出量は維持されており、左室駆出率(EF)は上昇していた。右室と左室の関係から考察すると、右室圧/左室圧比は上昇するが、右室容量/左室容量比は変化せず、心室中隔はPAB前に比し左室側へベクトルが働いている。心内シャントがある状況であるが、右室へ圧負荷をかけることが、もう一方の心室である左室のEF改善につながることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究のテーマは、小児拡張型心筋症に対する肺動脈絞扼術の有効性の検討である。実験の概要は①ラットにアドリアマイシンを投与し薬剤性心筋障害モデルを作成すること、②薬剤性心筋障害モデルのラットにPABを施行し、心機能の回復や心筋線維化の軽減等の病理組織学的変化を評価すること、そして③PABによる心機能改善のメカニズムを明らかにすることである。 1年目の研究では、①ラット薬剤性心筋障害モデルの作成するところまで進めることができた。まずラットの年齢の選定を行い、薬剤性心筋症モデルの作成が実現可能であることを確認した。現在心エコー、心臓カテーテル検査を行い、右室・左室の収縮能・拡張能を評価し、摘出心の組織学的検査から心筋の線維化等の病理評価を行っている。 平行して実臨床でPABを施行された患者のPAB前後での心機能の変化をまとめた。2014年から2020年までに心室中隔欠損(VSD)に対してPABが施行された16例の心臓カテーテル検査を振り返った。右室、左室共に心機能が正常で、心内短絡のあるVSDという条件下では、PABは右室へ圧負荷を生じ、左右短絡を減ずることで肺血流を制限し、左心への容量負荷を減ずる。左室容量は減少するが心拍出量は維持されており、左室駆出率は上昇することがわかった。右室圧上昇により心室中隔の左室方向への偏位が認められ、左室機能への関与が疑われる。本研究の対象は重度の左室機能不全があり心内短絡のない拡張型心筋症であるが、VSD症例に対するPABによる右室の圧負荷や左心への容量負荷軽減、心室中隔の左室方向への偏位等は共通した所見であり、拡張型心筋症に対するPABによる心機能改善のメカニズムを探求する上で参考になる臨床データであった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究計画は、前半6ヵ月でラットPABモデルの作成を行う。プロトコールでは4週齢ラットに2週間のアドリアマイシン投与を行い、6週齢時にPABを行う。PABの手技のfeasibilityを見るために6週齢ラットにPABを施行する。全身麻酔導入後、左側開胸でアプローチし、肺動脈幹にクリッピングを行う。PABの適切な強度(絞め具合)を見極めるため、クリップアプライヤーに複数のサイズのストッパーを装着し、PABを施行する。PABの効果は術後経胸壁エコーで肺動脈幹を通過する血流の流速で評価する。2~3m/sと3~4m/sの流速が得られるPABを確実に施行することを目標とする。(上記流速は実臨床での基準から参考値とした。2~3m/sはmild、3~4m/sはtightなPABである)。PAB施行後2週目(8週齢)に心エコー、4週目(10週齢)に心エコーと心臓カテーテル検査を行い犠牲死させ、心臓を摘出し病理組織学的評価を行う(コントロール)。 後半6ヵ月では、アドリアマイシンによる薬剤性心筋症モデルラット(6週齢)にPABを施行し、コントロールと同様な術後評価を行う。同時にSham手術として、薬剤性心筋症モデルラットに開胸操作のみ行い(PABなし)、術後評価を行う。 薬剤性心筋症モデルの作成から手術、術後評価まで6週間必要である。12匹の4週齢ラットにアドリアマイシンを導入し、2週後にPABを行う群(N=6)、Sham手術を行う群(N=6)に分け、術後評価を行う。PAB群とSham手術群で術後評価の値が20~30%異なると想定し、95%検出力、α=0.05とすると、各群6匹のサンプル数が必要である。薬剤性心筋症モデルのラットへのPAB施行後の生存率を50%と仮定すると、要件を満たすサンプル数を得るために最低2クール(=12週間)の実験が必要である。
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Causes of Carryover |
動物実験の進行がやや遅れ気味であり、動物購入数が少なかったために当該助成金が生じた。無駄のない実験動物の購入を行うため、実験に対して適切な週齢のラットの選定や、投与薬剤に対する反応の経過を数か月にわたり観察したためである。初年度で得た知見から、次年度はあらかじめ決まった週齢の動物で実験を進める予定である。 実験の概要は①ラットにアドリアマイシンを投与し薬剤性心筋障害モデルを作成すること、②薬剤性心筋障害モデルのラットにPABを施行し、心機能の回復や心筋線維化の軽減等の病理組織学的変化を評価すること、そして③PABによる心機能改善のメカニズムを明らかにすることであり、初年度で①の薬剤性心筋障害モデルの作成まで到達している。次年度は助成金を使用し②、③を遂行する予定である。
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