2020 Fiscal Year Research-status Report
四肢虚血リモートプレコンディショニングと水素ガス投与併用による神経保護効果の検討
Project/Area Number |
20K09197
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
山下 理 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (20610885)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 水素ガス / 中大脳動脈閉塞 / 虚血再灌流 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素ガス発生装置であるMHG-2000α(MiZ株式会社)を購入し,現在使用している小動物用の人工呼吸・麻酔器の回路に組み込み,水素ガス投与が可能か検討した.水素ガス濃度は水素ガス濃度測定器XP-3140(新コスモス電機株式会社)を用いて測定した.吸入酸素濃度50%前後で6%までの水素ガス投与が可能であることを確認した.これまでの水素ガスを用いた研究では4%までの報告が多く,2%前後の濃度が最も有効性が高く,水素ガス濃度と効果は比例せず,濃度を上昇させてもむしろ有効性が減弱するとされているが,その機序・理由は現時点では不明である.水素ガスの爆発濃度下限濃度は10%とされ,室内で4%以上にならなければ消防法としては問題なく,室内で4%以上になることはないと考え,1%,2%,6%群で検討することとした. ラットに6%までの水素ガスを投与しても何も影響がないことを確認した後,水素ガス投与期間は虚血開始1時間前から再灌流後30分までと設定した.サンプルサイズの算出からラットを4群(1%H2群,2%H2群,6%H2群,コントロール群)(各n=12)に分けシリコンコーティングしたナイロン糸を用いた2時間の中大脳動脈閉塞による虚血を施行し,神経スコアと体重の推移,再灌流7日後の脳梗塞体積を測定し,水素ガスによる神経保護効果を検討した. 脳梗塞体積は1%H2群: 451.8±242.3,2%H2群: 391±253.0,6%H2群: 197±132.2,control群: 532.4±193.7(mm3)(平均±標準偏差)となり,6%水素ガス投与により有意な脳梗塞体積の減少を認めた.一方今回の虚血モデルでは1%や2%の濃度では有意な梗塞体積の減少は認めなかった.体重の推移は有意差を認めなかったが,神経スコアは6%群で有意な改善を認めた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において水素ガス発生装置を購入し,水素ガス投与の条件付けを行うことができた.これまでの報告では2%前後の濃度が最も有効性が高いとされていたが,我々の虚血モデルでは1-2%の水素ガス濃度では思ったほど保護効果はなく,6%で脳梗塞体積の減少や神経スコアの改善といった有意な神経保護効果を認めた.理由として虚血の強さや麻酔方法なども関与していると考えられた.2時間という比較的長時間の虚血時間と,すべての実験過程を全身麻酔下に行うのではなく,ナイロン糸を挿入して虚血としてから閉創後一旦覚醒させ,2時間後に再度麻酔をかけナイロン糸を抜去し再灌流するという方法で行っているが,これは使用しているイソフルランなどの吸入麻酔薬そのものが神経保護作用を有しているため,その影響をなるべく排除するためである. 水素ガス濃度は6%で投与するかは,もう少し追加実験を行って再度確認してから,決定する方針である. 水素ガスの条件付けに多くの時間を費やしたため,四肢虚血によるリモートプレコンディショニングの条件付けは十二分に行えなかった.これまでの我々の研究からは虚血1時間前に1ターニケットによる一側下肢の10分虚血-5分再灌流を3回行う条件が有効ではないかと考えているが,虚血時間と回数,それからインターバルなど検討を要す条件が多く,最適な条件を確定するため,いくつか異なる条件を設定してアウトカムスタディを行っていかなければならない.ただアウトカムスタディを行っていくにはかなり時間を要し,明確に効果の違いがなければ,有意差として認めないため,難しい側面があるのも事実である. また作用機序等の解明にはまだ全く踏み入れていないため,現在までの本研究の進捗状況としては,おおむね順調に進展しているとはしたが,まだまだ検討すべき項目が多いと考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
水素ガスの神経保護効果についてはアウトカムスタディだけでなく,関与が考えられている様々なシグナル経路における活性化等も測定していく方針である.具体的には水素ガスがいわゆる活性酸素種を直接還元するラジカルスカベンジャーとしての経路とミトコンドリアを介した適応応答の経路がその作用機序の中核と考えられている.投与する水素ガス濃度によってこれらの活性に差が見られれば,2%前後の濃度が最も有効性が高く,水素ガス濃度と効果は比例せず,濃度を上昇させてもむしろ有効性が減弱するとされているという濃度による有効性の違いの解明の一端につながる可能性もある. また早急に四肢虚血によるリモートプレコンディショニングの条件付けを行う予定である.水素ガスと四肢虚血リモートプレコンディショニングの両者の根底にあるのは虚血再灌流障害の抑制で,再灌流時に生じる活性酸素がキーファクターであると考えている.四肢虚血リモートプレコンディショニングはあらかじめ短時間の虚血を繰り返し与えることで発生する少量の活性酸素が内因性の抗酸化機構を活性化させ,その後の虚血再灌流障害を軽減し,そこに水素ガスを投与することで相加的・相乗的な効果が得られるのではないかと考えている.ただ一方で少し懸念されるのは水素ガスをプレコンディショニングの段階で投与してしまうと,トリガーとなる活性酸素がなくなり,かえって保護効果が減弱する可能性もあるかもしれないということである.組み合わせる場合は併用時期の検討も必要で,効果が最大限得られる条件の検討を行っていかなければならない. 今後アウトカムスタディとシグナル経路の活性化の測定・解析を行い,機序の解明と最適な適応条件の確立のため,さらに研究を進めていく方針である.
|