2020 Fiscal Year Research-status Report
線溶活性の亢進と疼痛発現に着目した変形性関節症の滑膜病変の解明
Project/Area Number |
20K09447
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Research Institution | Clinical Research Center for Allergy and Rheumatology, National Hospital Organization, Sagamihara National Hospital |
Principal Investigator |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 政策医療企画部, 特別研究員 (10251258)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大橋 暁 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系臨床研究室, 医長 (20466767)
岩澤 三康 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 診療部・整形外科, 部長 (60574093)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 変形性関節症 / 痛み / 滑膜 / 膝 |
Outline of Annual Research Achievements |
変形性関節症(OA)では多くの疫学研究の結果から、痛みが強い症例では関節裂隙の狭小化が進行する傾向があることが示されている。このことは、痛みの発生と関節裂隙狭小化の進行、すなわち軟骨の変性との間に何らかの共通した機序が存在することを示唆する。 一方、OAの痛みの発生機序については、おもにMRIを用いた疫学研究の結果から、骨髄病変と滑膜病変が関与することが明らかとなっている。これらの病変は痛みの発生に関連することからOA進行にも関連することが予想されるが、実際複数の疫学研究においてそれを支持する結果が示されている。このうち骨髄病変については本態が軟骨下骨の微小骨折であるため、それが痛みと関連し、また広範囲に生じた場合には軟骨下骨の変形を生じてOAの進行を引き起こすことは容易に理解される。他方、OAにおける痛みのsourceとして骨髄病変より頻度の高い滑膜病変についてはその本態は不明であり、疼痛発現の機序も軟骨の変性消失の機序も明らかになっていない。 OAでは時に疼痛が急激に増加するflareと呼ばれる状態が経験される。本研究の研究代表者(以下、代表者)らはflareの症例についても、MRIで明らかな骨髄病変を認める場合とMRIでは骨髄病変は認めないが滑膜に強い痛みがあり滑膜病変が原因である場合があることに気づき、後者の症例を滑膜性フレアとして以前よりとくに注目してきた。滑膜性フレアの症例からフレアの前後に採取した関節液を比較解析したところ、解析を行ったほぼ全例でフレアの際に関節液中のurokinase(uPA)の濃度が上昇し、線溶活性も亢進していることを示す結果が得られたことから、本研究では滑膜性flareのOA関節においてuPAが上昇し線溶活性も亢進する機序の解明、および滑膜性flareの際に疼痛が生じる機序の解明を目的として研究を行うこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の2020年度は主にflareの際にuPAの発現が亢進する機序について研究を進めた。本年度は本研究と並行して行っている別のプロジェクトにおいて、OA関節において関節液中のuPAはほとんどすべてが滑膜組織に由来すると考えられる結果を得た。このため、本研究では主に滑膜においてuPAが産生される機序を解明することを目標とした。この検討については上記とは別のプロジェクトからの知見が参考になった。このプロジェクトはOA軟骨中でuPAの発現が誘導される機序を探るものであったが、その検討においてOA軟骨に含まれる何らかの因子が関節軟骨細胞に対してuPAの発現を誘導することが見いだされた。この知見に基づき同様の実験をヒト一次培養滑膜細胞を用いて行ったところ、軟骨細胞と同様に滑膜細胞においてもOA軟骨変性部からの抽出タンパクによってuPAの発現が誘導されることが確認された。今のところこの因子が何かは特定されておらず、因子の特定は次年度の課題である。 研究代表者らはOA滑膜におけるuPAの発現について、上記とはまた別に、血管新生に伴って発現が誘導されている可能性も考えている。代表者らの研究室では上記とは別のプロジェクトにおいてOA軟骨変性部から荷重負荷に伴って遊離する因子の網羅的探索を行っており、その結果OA軟骨からは荷重に伴ってVEGF-A、FGF-2、angiogeninなど血管新生を誘導しうる因子が複数遊離することを確認している。血管新生の過程でuPAの発現が誘導されることは良く知られた事実であるから、OA滑膜では変性軟骨から遊離する複数の因子によって血管新生が誘導され、それに伴って二次的にuPAの発現が引き起こされている可能性も考えられる。次年度はOA滑膜におけるuPAの発現に関して、これら2つの機序のうちいずれが正しいのかを明らかにしていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究の当初の2つの研究目的のうち、flareの際に観察される関節液中のuPAの濃度の上昇の機序に集中して取り組んだ。この研究目的については2021年度も本年度の研究を継続し、変性軟骨から荷重により遊離する因子の中で滑膜細胞に対してuPAの遺伝子発現を亢進させる因子は何かを明らかにすることを目標に研究を進める。具体的な研究のアプローチとしては、今までにuPA の発現を誘導することが知られている炎症性サイトカイン、ケモカインについて変性軟骨から荷重によって遊離する量を調べ、遊離量が生理学的に有意であった因子についてはその活性を特異的阻害剤により阻害することで滑膜細胞におけるuPA の発現誘導への関与の可能性を明らかにする。また血管新生によってuPAが誘導される可能性については、血管新生のマーカーの発現とuPAの発現を調べることで両者の関連を明らかにすることを考えている。 本研究の第二の目的であるflareの際の疼痛発現機序の解明については、2020年度は見るべき進展がなかったため、2021年度はより大きなエフォートを割り当て研究を行う。具体的にはフレアの時期に痛みが出現する機序について代表者が考える仮説を検証することを予定している。仮説の第一はブラジキニンの関与の検証である。ブラジキニンはもともと血圧低下作用と腸管の収縮促進作用を持つ物質としてヘビ毒の中に見出された9個のアミノ酸からなるペプチドであるが、強力な発痛作用を持つことでも知られている。ブラジキニンはキニノーゲンからタンパク分解酵素による切断によって産生されるが、線溶活性亢進の主役であるプラスミンもブラジキニンを産生する。そこで2021年度にはフレアの前後の関節液中のブラジキニンの濃度を計測し、これがflareの際の疼痛増強に関連するかを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は滑膜組織がflareの際のuPAのsourceと考えられることを明らかにしたが、flareの際に滑膜でuPAの発現が亢進する機序の解明は次年度の課題である。代表者は変性軟骨から荷重によって遊離する因子がuPAの発現を亢進させる可能性を考えているが、因子の絞り込みが容易ではないことも予想される。場合によってはプロテオーム解析を行うことになるが、プロテオーム解析は多くの研究経費を必要とする解析であり、それに備えたのが次年度に経費を繰り越した第一の理由である。 本研究のもう一つの目的であるflareの際に疼痛が増強する機序の解明については本年度実質的にほとんど研究が行えなかった。次年度は前項で述べたようにブラジキニンの関与についてまず検討する予定であるが、ブラジキニンによってflareの際の疼痛の増強が説明されるかは解析を行ってみないとわからない。もしブラジキニンで痛みの増強が説明できない場合、次にやはり強力な発痛物質であるnerve growth factor(NGF)について計測することを予定しているが、NGFについても有意の結果が得られたなかった場合はさらに次の候補を選択して解析を継続することになる。実験内容に不確定な要素が多いため、こちらの研究についてもやはり相応の研究経費が必要となる可能性がある。これが次年度に研究経費を繰り越した第二の理由である。
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] Human leukocyte antigen in Japanese patients with idiopathic inflammatory myopathy2020
Author(s)
Furukawa H, Oka S, Kawasaki A, Hidaka M, Shimada K, Kondo Y, Ihata A, Matsushita T, Matsumoto T, Hashimoto A, Matsumoto I, Komiya A, Kobayashi K, Osada A, Katayama M, Okamoto A, Setoguchi K, Kono H, Hamaguchi Y, Matsui T, Fukui N, Tamura H, Takehara K, Nagaoka S, Sugii S, Sumida T, Tsuchiya N, Tohma S.
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Journal Title
Mod Rheumatol.
Volume: 30(4)
Pages: 696-702
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Serum Metabolomic Profiling in Rheumatoid Arthritis Patients With Interstitial Lung Disease: A Case-Control Study2020
Author(s)
Furukawa H, Oka S, Shimada K, Okamoto A, Hashimoto A, Komiya A, Saisho K, Yoshikawa N, Katayama M, Matsui T, Fukui N, Migita K, Tohma S.
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Journal Title
Front Med (Lausanne)
Volume: 17
Pages: 599794
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 関節リウマチ関連間質性肺病変に関連する自己抗体2020
Author(s)
岡 笑美,古川 宏,島田 浩太,岡本 享,橋本 篤,小宮 明子,税所 幸一郎,吉川 教恵,片山 雅夫,松井 利浩,福井 尚志,右田 清志,當間 重人
Organizer
第64回日本リウマチ学会
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[Presentation] 関節リウマチ関連間質性肺病変に関連する自己抗体2020
Author(s)
岡 笑美,古川 宏,島田 浩太,岡本 享,橋本 篤,小宮 明子,税所 幸一郎,吉川 教恵,片山 雅夫,松井 利浩,福井 尚志,右田 清志,當間 重人
Organizer
第74回国立病院総合医学会
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