2021 Fiscal Year Research-status Report
線溶活性の亢進と疼痛発現に着目した変形性関節症の滑膜病変の解明
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20K09447
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Research Institution | Clinical Research Center for Allergy and Rheumatology, National Hospital Organization, Sagamihara National Hospital |
Principal Investigator |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系リウマチ研究室, 客員研究員 (10251258)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大橋 暁 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系臨床研究室, 医長 (20466767)
岩澤 三康 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 診療部・整形外科, 部長 (60574093)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 変形性膝関節症 / 滑膜 / 滑膜病変 / フレア / 疼痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
変形性関節症(以下、OA)では時にフレアとも呼ばれる、痛みの急激な増悪が経験される。フレアの症例では時にフレアの時期に急速な軟骨基質の変性消失も見られる。フレアには軟骨下骨に生じた病変によるものと滑膜病変によるものの2通りがあり、それぞれ疼痛発現の機序や軟骨基質の変性消失の機序に違いがあると考えられる。 研究代表者らは今まで採取・保存された関節液の検体ライブラリーの中から、滑膜性のフレアが生じた関節について、フレアの時期とフレアが収束し痛みが軽減した時期に採取された関節液をペアにして解析した結果、フレアの時期の関節液ではほとんど全ての症例でウロキナーゼの濃度が高いだけでなく、プラスミン活性の指標となるPIC、さらにプラスミンによってフィブリンが分解された結果産生されるD-dimerの濃度も高く、関節内でプラスミン活性が誘導されたことを示唆する結果を得ている。 プラスミンは軟骨基質の主要な構成要素であるアグリカンを直接分解しうる。またプラスミンは軟骨基質やOA関節からの関節液中に多量に存在するMMPを活性型に変換する作用もある。したがってフレアの時期に時に観察される軟骨基質の急速な変性消失は、関節内で誘導されたプラスミン活性による可能性が考えられる。本研究の目的は、第一にこれらの知見に基づき、フレアの時期にプラスミン活性が亢進する機序を明らかにすることであり、第二にはフレアの際に滑膜において痛みが生じる機序を明らかにすることである。本研究では滑膜が種々の細胞が混在する組織であることからsingle cell RNA sequencing を行って、病変を生じた滑膜においてどの細胞がどのように変化するのかを詳細に解明することを予定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一の研究目的であるフレアの時期のプラスミン活性の亢進については、前年度の研究から滑膜においてuPAの発現が増加した結果と考えられ、さらに滑膜においてuPAの産生が増加する機序を探る中でOA軟骨に荷重を加えて遊離するタンパクを含んだPBS(以下、荷重抽出液)に、滑膜細胞に対してuPAの発現を誘導する因子が含まれていることが明らかになった。この結果を受けて2021年度には荷重抽出液に含まれuPAの発現を誘導する因子の特定を試みた。今までにuPAについてはIL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインがuPAの発現を誘導することが報告されている。これらの因子についてまず計測を行ったが、いずれの因子についてもOA軟骨からの荷重抽出液には生理活性を示しうる濃度では含まれていないことが明らかになった。さらに文献検索を進めたところ、成長因子の一種TGF-β1についてもuPAの発現を誘導する作用が報告されていたため、TGF-β1の受容体に対する特異的阻害剤を用いた実験を行ったところ、荷重抽出液のuPAの発現導はこの阻害剤によってほぼ完全に抑制された。この結果からOA軟骨からは活性型のTGF-β1が荷重によって遊離し、この作用によって滑膜においてuPAの発現が誘導される可能性が考えられた。 本研究の第二の課題である滑膜における疼痛発現の機序については、プラスミンによって産生されることが知られているブラジキニンについてELISAを用いた検討を進めた。フレアの症例から採取された関節液検体についてELISAによる計測を行った結果、フレアの前後で関節液中のブラジキニンの濃度には有意の変化は見られず、フレアの症例の滑膜性疼痛にはブラジキニンは関与しないのではないかと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第三年度の2022年度には以下のように研究を進める。 まず研究課題の第一については、2021年度に見いだされたTGF-β1の関与の可能性についてさらに検討を進める。TGF-β1についてはその産生よりも活性化の過程が生体内での生理活性の発現に大きく関与する。このため今年度はTGF-β1の生理活性に応じてアルカリフォスファターゼを産生するよう遺伝子導入されたHEK-Blue TGF-βをInvivoGen社より購入し、これを用いて OA軟骨からの荷重抽出液中のTGF-β1の生理活性を計測する予定である。 研究課題の第二、滑膜性疼痛の発現機序については前年度までに有意の知見が得られていないため、2022年度にはより大きなエフォートを当てて研究を行う。前年度までにフレアの症例3例から滑膜組織を採取することができたため、これらの滑膜組織と末期OA滑膜性疼痛のない膝関節から採取された滑膜組織からそれぞれRNAを抽出し、これを次世代シークエンサーで解析し、疼痛発現に関連する因子について網羅的・定量的な比較を行う。本研究では当初滑膜における遺伝子発現をsingle cell RNA sequencingによって解析することを予定していたが、実際には滑膜組織からsingle cellを単離する過程で遺伝子発現に大きな変化が生じてしまう可能性が考えられ、また研究経費の制約も考慮して次世代シークエンサーによる解析を行う予定である。次世代シークエンサーによる解析で滑膜性疼痛との関連が考えられた遺伝子については、その発現をさらに定量PCRにより解析することで、フレアの際に見られる滑膜性疼痛への関与の可能性を検証する。この結果滑膜性疼痛への関与が考えられた遺伝子についてはさらにその発現機序についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
参加した学会がウェブ開催となったため旅費が不要となり、主にその分を次年度に繰り越した。繰り越した研究経費については次年度において試薬購入に充てる予定である。
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