2021 Fiscal Year Research-status Report
化学療法剤複合カーボンナノチューブによる肉腫の治療
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20K09457
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
青木 薫 信州大学, 学術研究院保健学系, 准教授 (30467170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鎌仲 貴之 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (30791884)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / 肉腫 / 化学療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
①抗がん剤複合カーボンナノチューブの作製(carbon nanotube, CNT) 韓国の全南国立大学の金隆岩教授とのミーティングにより、界面活性剤であるPluronic F-127を用いて抗がん剤複合多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube, MWCNT)を作製することとした。新型コロナウイルス感染症の流行のため、金教授が来日することが困難であり、抗がん剤複合多層カーボンナノチューブの作製は信州大学先鋭材料研究所基盤分析・高度解析部門の姜天水氏に依頼した。抗がん剤としては骨肉腫など肉腫に対する化学療法に使用される体表的な抗がん剤であるドキソルビシン塩酸塩(doxorubicin hydrochloride, DOX)を使用した。 ②ドキソルビシン複合カーボンナノチューブ(DOX-CNT)の肉腫細胞への影響 DOX-CNTの骨肉腫細胞への影響を評価した。ヒト骨肉腫細胞株である143B細胞を培養し、①Controlと、②CNT、③DOX、④DOX-CNTをぞれぞれ添加した4群で比較した。CNT、DOXはそれぞれ、培養中の最終濃度が1μg/mLとなるよう調整した。位相差顕微鏡による細胞形態の観察では、CNT、DOX-CNTを加えた群では、細胞内にCNTが取り込まれていることが観察され、DOX-CNTを加えた群で生着細胞数がもっとも少ない印象を受けた。細胞増殖率はAlamarBlue Assayにて定量評価を行った。培養後の細胞増殖率はControlを1として、CNTで1.21、DOXで1.35、DOX-CNTで0.74であった。ControlとCNT、DOXでは細胞増殖率に有意差を認めなかった。DOX-CNTをCNT、DOXそれぞれと比較し、DOX-CNTを加えた群では有意に細胞増殖率は抑制された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度には抗がん剤複合カーボンナノチューブが作成できていなかったため、CNT自身の骨肉腫に対する影響を評価した。その結果、in vitro試験ではCNTには骨肉腫細胞の増殖を抑制する効果があり、in vivo試験では、ヌードマウスの脛骨・下腿に形成させた143B細胞による骨肉腫xenograftモデルにおいて、CNTは下腿の腫瘍原発巣での増大および肺転移を抑制する効果が認められた。これらの結果より、CNT自身にもある程度の肉腫細胞の増殖抑制効果があることが期待された。 2021年度には抗がん剤複合カーボンナノチューブとしてドキソルビシン塩酸塩複合多層カーボンナノチューブ(DOX-CNT)を作製し、ヒト骨肉腫細胞(143B細胞)に添加してその影響を評価した。培養した143B細胞のAlamarBlue Assayによる評価では、DOX-CNTはDOXのみの群、CNTのみの群に比べ、143B細胞の増殖を有意に抑制しており、おおむね期待している効果を示している。DOX-CNTはDOXのみの群、CNTのみの群よりも腫瘍細胞増殖抑制効果が強く、治療効果の高いdrug delivery systemとして有用な可能性が示唆された。DOX-CNTを順調に作製することができたため、今後の実験をスムーズに進めることができると予測される。
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Strategy for Future Research Activity |
信州大学先鋭材料研究所基盤分析・高度解析部門へ依頼し、今までとは別のCNTであるCNano社のFlotube 9110を用いて新規のドキソルビシン塩酸塩複合多層カーボンナノチューブ(DOX-CNT)を作製し、さらに実験を行う。我々の作製したDOX-CNTが無菌状態であることを、試薬を塗布した寒天培地の培養により確認する。この抗がん剤複合CNTを透過型電子顕微鏡観察やフォトルミネッセンス (PL(Photoluminescence)) 法にて解析し、その複合メカニズム、複合形態を解明する。 DOX-CNTの抗腫瘍効果の評価としては、ヒト骨肉腫細胞株である143B細胞を用いて実験を継続する。In vitro試験としては、DOX-CNT、DOX、CNTをそれぞれ143B細胞に添加して培養し、その抗腫瘍効果を確認する。培養細胞から発現する骨形成マーカーであるアルカリホスファターゼやⅠ型コラーゲン、オステオカルシンなどをreal time PCR法やELISA法を用いて計測し、骨肉腫細胞への影響を評価する。 またin vivo試験としてはヌードマウス脛骨に143B細胞を移植したヒト骨肉腫xenograftモデルマウスを作製し、DOX-CNTの抗腫瘍効果を評価する。CNT投与群、DOX投与群をcontrolとし、試薬の局所投与、経静脈全身投与による影響も検討する。下腿局所のCT撮影にて腫瘍の増大を評価し、下腿および肺の病理組織標本にてDOX-CNTの抗腫瘍効果および肺転移に与える影響、効果を評価する。また、マウス血液の血球測定、生化学検査を行い、骨髄抑制、腎機能障害など全身に与える影響についても評価する。
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Causes of Carryover |
もともと実験室で所有していた骨肉腫細胞(143B細胞)を用いて実験を行ったため、細胞株購入、その培養、評価に用いる試薬の購入を次年度に繰り越した。また、ドキソルビシン塩酸塩複合多層カーボンナノチューブ(DOX-CNT)を用いたヌードマウスのin vivo実験をまだ行わなかったため、ヌードマウスの購入、飼育、評価の費用も次年度へ繰り越した。
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