2022 Fiscal Year Research-status Report
化学療法剤複合カーボンナノチューブによる肉腫の治療
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20K09457
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
青木 薫 信州大学, 学術研究院保健学系, 准教授 (30467170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鎌仲 貴之 信州大学, 医学部附属病院, 助教(診療) (30791884)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / 肉腫 / 化学療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
①ドキソルビシン複合カーボンナノチューブの肉腫細胞への影響 信州大学先鋭材料研究所基盤分析・高度解析部門の姜天水氏に抗がん剤(ドキソルビシン塩酸塩、doxorubicin hydrochloride、DOX)複合多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube, MWCNT):DOX-CNTを作製していただいた。DOX-CNTをヒト骨肉腫細胞株である143B細胞に添加し、細胞増殖率をAlamarBlue Assayにて定量評価した。DOX-CNTはDOXの培養液中の最終濃度が1 µg/mLとなるように調整し、CNTの添加量は最終濃度でそれぞれ0.2 µg/mL(DOX-CNT0.2)、0.5 µg/mL(DOX-CNT0.5)、1.0 µg/mL(DOX-CNT1.0)、2.0 µg/mL(DOX-CNT2.0)、5.0 µg/mL(DOX-CNT5.0)とした。DOX-CNTを添加後24時間の細胞増殖率は、Controlを1としてDOX-CNT0.2で0.61、DOX-CNT0.5で0.59、DOX-CNT1.0で0.79、DOX-CNT2.0で0.82、DOX-CNT5.0で0.83であった。 ②骨肉腫モデル動物へのDOX-CNTの効果 免疫抑制動物であるヌードマウスの脛骨に143B細胞と各濃度のDOX-CNTを投与し、骨肉腫モデルマウスへのDOX-CNTの効果を評価した。各群n = 5とし、下腿に形成された腫瘤のサイズを測定した。143B細胞移植後4週の腫瘤のサイズは、Controlで730 mm3、DOX-CNT0.2で942 mm3、DOX-CNT0.5で897 mm3、DOX-CNT1.0で1656 mm3、DOX-CNT2.0で1076 mm3、DOX-CNT5.0で353 mm3であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々の開発したDOX-CNTは、ヒト骨肉腫細胞株(143B細胞)にDOX-CNTを添加したin vitro試験においても、ヌードマウスに143B細胞を投与して作製した骨肉腫モデルマウスによるin vivo試験においても、positive controlであるDOX投与群よりも強い抗腫瘍効果を示すことはできなかった。DOXのみ、CNTのみでの抗腫瘍効果は証明されているため、DOX-CNTでの抗腫瘍効果が弱くなる原因は明らかにはなっていないが、CNTの添加量不足、CNTと複合することによるDOXの不活化、DOXが付着したことによるCNTの体内・細胞内動態の変化などが考えられる。 DOX-CNTによる当初より計画していた実験は施行できたが、予測通りの結果を得ることはできなかった。そのため2023年度にはCNTの添加量を増加させたDOX複合CNTの作製、CNT以外のカーボン材料(carbon fiberやcarbon nanohornなど)をcarrierとして使用した新規DOX複合ナノカーボンの開発を開始する。新たなDOX複合カーボン材料の開発、それらによる再度のin vitro試験、in vivo試験による抗腫瘍効果の評価を行うため、進捗状況としては計画より遅れてはいるが、昨年度までの研究により、DOX複合CNTの作製および生物学的試験については技術の蓄積があるため、評価の遂行は可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
DOX-CNTはin vitroの骨肉腫細胞(143B細胞)増殖試験においても、in vivoのヌードマウス骨肉腫モデルマウス実験においても、ある程度の抗腫瘍効果を示したが、当初の期待通りにはCNTの濃度依存性に骨肉腫細胞の増殖を抑制することは証明できなかった。現在、DOX-CNTを投与した骨肉腫モデルマウスから採取した腫瘍局所(左下肢)および肺の病理組織標本を作製しており、2023年度にはその病理組織学的評価を行う。病理組織学的評価では、下肢原発腫瘍部位においては骨破壊、腫瘍壊死や投与したCNTの局在を検索する。肺組織では転移性肺腫瘍の有無、数やCNTの有無を確認する。 しかし、in vitro試験およびモデルマウスの腫瘍サイズの結果からは、今回我々が実験に使用したDOX-CNTでは期待通りの抗腫瘍効果を示さなかった。 今後、さらに抗腫瘍効果の高いdrug delivery systemを開発するため、DOX-CNTにおけるCNTのCNT添加量の増量、CNT以外のcarrier(carbon fiberやcarbon nanohornなど)の探索を検討する。それらの新たなDOX-CNTおよびDOX複合ナノカーボンを用い、ヒト骨肉腫細胞株(143B細胞)を用いたin vitro試験から開始する。In vitro試験により、骨肉腫細胞の増殖率や骨形成マーカーを評価する。また、これまでのDOX-CNTでの実験と同様にヌードマウスによる骨肉腫モデルマウスを作製し、それらにも新たなDOX複合カーボン材料を投与し、抗腫瘍効果を評価する。骨肉腫モデルマウスの全身状態(体重)、腫瘍サイズ、腫瘍局所のCT撮影、腫瘍局所および肺組織の病理組織標本を評価し、DOX複合カーボン材料の影響を確認する。
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Causes of Carryover |
骨肉腫細胞のDOX-CNTの増殖試験、ヌードマウスによる骨肉腫モデルマウスへのDOX-CNTの添加試験を行ったが、結果はこちらの期待に反し、DOX-CNTにおけるCNTの濃度依存性に骨肉腫細胞の増殖を抑制し、骨肉腫モデルマウスの腫瘍局所での増大を抑制する結果を得ることができなかった。DOXもCNTもそれぞれ、骨肉腫細胞の増殖を抑制するということは先行研究で分かっているため、その複合体も骨肉腫細胞の増殖を抑制する可能性は高いことが期待できる。と殺した骨肉腫モデルマウスから採取した、腫瘍局所である下腿と、遠隔転移の好発部位である肺の病理組織標本を作成するため、費用の次年度への繰り越しが必要であった。また、DOX-CNTの調整条件を検討し、実験を継続することが必要となったため、さらなるヌードマウスの購入、飼育、評価のための費用を次年度へ繰り越した。
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