2021 Fiscal Year Research-status Report
難治性疼痛疾患に伴う組織変化が局所性骨粗鬆症化を誘発する機序の検討
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20K09463
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
射場 浩介 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (60363686)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 運動器疼痛 / 軟部組織損傷 / 骨代謝異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動器疼痛を誘発する組織変化が局所の骨代謝異常を誘発する可能性について、大腿皮膚切開したマウスを後肢組織損傷モデルとして用いて検討した。後肢組織損傷モデル群における疼痛行動、疼痛関連分子と骨代謝関連分子の発現変化を解析し、術前と術後の経時的変化を切開を行わない対照群と比較検討した。切開創は術後14日で治癒を認めたが、損傷群の疼痛行動も術後7日目まで有意な上昇を認め、術後14日で改善した。皮膚切開を行った患側の大腿骨の骨代謝マーカー(Osterix, Osteocalcin, RANKL)の発現は、術後7日まで有意に増強し、創部治癒を認めた14日までに改善した。骨吸収マーカー(破骨細胞活性化マーカー)であるTRAP-5bは大腿骨と血中の両方で、術後7日まで有意な上昇を認め、14日で改善した。また、疼痛関連分子のATPの血中濃度は損傷群において術後1日で有意な上昇を認めた。以上の結果をまとめると、損傷群では大腿部皮膚切開に伴い、患側の大腿骨の骨代謝亢進が誘発され、創治癒にともない骨代謝が改善した。血中の骨代謝マーカーも同様の変化を認めた。次に、損傷群に対して骨吸収抑制薬のアレンドロネートとCox2 inhibitorのcarprofenの投与を行い、疼痛行動に対する効果を検討した。いずれの薬剤も損傷群の疼痛行動を有意に改善したが、対照群と比較するとその効果の程度は部分的であった。一方、両方の薬物を同時に投与すると疼痛行動は対照群と同じレベルまで完全に改善した。骨吸収抑制剤とCox2 inhibitorは損傷群の疼痛行動の改善に相加的な効果を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
骨代謝亢進状態において活性化した破骨細胞や骨芽細胞が形成する骨組織内の病的環境が、神経終末に発現する受容体の活性化介して疼痛を誘発すること、これらの細胞自身が発現している受容体を介して自らを活性化すること、そして、この悪循環サイクルが回り続けることが、骨粗鬆化をともなう難治性疼痛疾患の発生機序の一つであることを報告してきた。そこで本研究では、はじめに生じる病的な酸性環境形成や疼痛関連分子の発現増強の誘因を皮膚切開による組織損傷として、組織損傷が患肢骨組織の骨代謝状態に及ぼす影響について皮膚切創モデルマウスを用いて検討した。その結果、損傷群では大腿部皮膚切開に伴い、患側の大腿骨の骨代謝亢進が誘発され、創治癒にともない骨代謝が改善した。血中の骨代謝マーカーも同様の変化を認めた。次に、損傷群に対して骨吸収抑制薬のアレンドロネートとCox2 inhibitorのcarprofenの投与を行い、疼痛行動に対する効果を検討した。いずれの薬剤も損傷群の疼痛行動を有意に改善したが、対照群と比較するとその効果の程度は部分的であり、両方の薬物を同時に投与すると疼痛行動は対照群と同じレベルまで完全に改善した。以上の研究結果より、組織損傷にともない形成される疼痛を誘発する環境が、骨組織の骨代謝状態に及ぼすことが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
組織損傷にともない形成される疼痛を誘発する環境が骨代謝状態に与える影響を検討するため、皮膚切開術2日後に大腿骨を採取してRNAを抽出し、マイクロアレイを用いて骨組織における遺伝子発現変化を網羅的に解析する。また、後肢組織損傷モデルの大腿骨から採取した骨髄細胞を用いて、in vitroで種々の骨代謝マーカーの発現を解析する。これらの研究結果に基づき、組織損傷にともない形成される疼痛を誘発する環境が骨組織の骨代謝状態に影響を及ぼす機序について、さらに詳しく検討することが可能になると考える。
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Causes of Carryover |
本年度に入り、国内外を通じてコロナ禍に伴う学会開催の規制緩和を認めており、現地開催を行う学会が増えてきている。そのため、本来は前年度に現地での出席予定であった学会に積極的に現地参加する。また、昨年度は、皮膚切開術後に生じる骨組織における遺伝子発現変化についてマイクロアレイを用いた網羅的解析が比較的スムースにすすんだ。そのため、本年度は後肢組織損傷モデルの大腿骨から採取した骨髄細胞を用いて、in vitroで種々の分子の発現変化を解析する予定である。上記の内容の出張や実験を行うにあたり、昨年から本年度使用予定となった研究費を使用したいと考える。
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Research Products
(1 results)