2021 Fiscal Year Research-status Report
脊髄損傷性運動麻痺の機能回復におけるリゾリン脂質の役割とそのメカニズム
Project/Area Number |
20K09476
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
羽二生 久夫 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30252050)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
植村 健 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (00372368)
塚原 完 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (00529943)
松田 佳和 日本薬科大学, 薬学部, 教授 (20377633)
高橋 淳 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (60345741)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | リゾリン脂質 / 脊髄損傷 / ニューロン / 神経再生 / アミロイドタンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はプロテアーゼ処理したブタ肝臓分解物(PLDP)に脊椎損傷部の機能修復効果が見られた事から「神経機能再生促進剤」として特許申請を行っている。このPLDPにはリン脂質成分が多く含まれており、その中でも特徴的であったのはリゾリン脂質(LPL)が非常に豊富に含まれている事であった。本申請では脊髄損傷モデルラットにPLDPを模したリン脂質の投与とその単独成分による効果とその時の代謝を明らかにするとともに、LPLの神経関連細胞での作用機序を明らかにする事により、LPLを活性本体とした脊髄損傷治癒促進薬の開発を目指す。 昨年度行われた大脳皮質培養神経細胞を用いた神経突起伸長による評価でLPLの中でリゾフォスファチジルエタノールアミン(LPE)が最有力の脊椎損傷部の機能修復機能成分と推察された。そこで本年度、このLPEによる脊髄損傷機能回復促進作用の検証を行った。脊髄損傷モデルはマウスを使った切断モデルを用い、LPEの直接投与による有効性の検討を行った。その結果、有効性を示す傾向があったものの統計的有意差はなかった。その主な原因として切断モデルによるデータのばらつきが原因と考えられた。このため、インパクターを購入し、脊髄損傷モデルの個体間差を減らした。インパクターを使った脊髄損傷モデルによるLPEの損傷部直接投与の結果では有効性が示されなかった。この評価では損傷処理直後の1回投与のみ、かつ微量であったことから、腹腔内投与法に変更し、更なる検討を行った。しかし、投与方法の変更によるLPE投与量の増量を行っても有意な有効性を示す結果は得られていない。 一方でLPL混合物の神経細胞に対する新たな生理作用として神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質に対する凝集抑制効果を見出した。この作用が直接、脊髄損傷の機能回復に作用する可能性は低いが、新たなLPLの生理機能として注目である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PLDPの構成成分の特徴はリン脂質、特にLPLが豊富である事であり、そのLPLを分子種毎にin vitro実験で評価をすると、今年度も凝集性タンパク質の凝集抑制効果が特定の分子種でのみ観察され、その生理作用の範囲はこれからまだまだ広がるものと思われる。そのような基礎データをベースに今年度、in vitroで神経突起伸長促進作用とグルタミン酸毒性抑制作用を示すLPEは脊髄損傷治癒促進の第一候補であり、その有効性を最優先で動物実験モデルを使って評価している。そこから得られている結果は今までのところ、必ずしも良い結果が得られていないが、マウスの脊髄損傷モデルの作製は安定してできるようになり、データの信頼度も上がっており、信頼できるデータ採取ができるようになった。 LPEの有効性評価が最短距離での生理活性物質の特定となるが、この実験のスタートはPLDPの経口摂取による評価から始まっている。作製したモデルマウスでラットと同じ結果が得られるかどうかを今年度、ゾンデによるPLDP投与で予定していたが、コロナの影響を受け、PLDPを入手できなかったことでスタートできなかった。PLDP、あるいはPLDPから抽出したリン脂質(PEL)をモデルマウスに投与する実験を再度行う必要がある。 一方で、我々はLPLの新たな機能を明らかにしている。α-シヌクレインタンパク質の凝集抑制作用はアミロイドタンパク質全般に有効性を示す可能性があり、今後、神経変性疾患やアミロイドーシス疾患も研究対象となり得る。
|
Strategy for Future Research Activity |
マウス脊椎損傷モデルでPLDPかPELの経口投与によるラット実験の再現性をとる予定である。その上でLPLの中でin vitro実験で神経細胞やグリア細胞にポジティブな作用を示しているLPEやLPCでの有効性を順次、進めていく予定である。ただし、個々のLPLに関しては動物実験に必要な量を購入する事は限度があるため、購入が可能な範囲でまずは行う。その一方で今後のためにも大量の脂質成分の分取システムを構築するための共同研究先を探したいと考えている。これは別の研究費を獲得し、本研究にフィードバックできるようにしたい。 また、LPLのアミロイドタンパク質に対する凝集抑制効果も非常に今後の研究の発展が見込めるものである。まずはLPLの使用量が少ない生化学的実験レベルでのデータを集め、神経変性疾患の原因となるタンパク質への影響を明らかにし、特定のLPLにその有効性があるのであれば、本申請モデルでの有効性についても評価を行ってみる予定である。
|
Causes of Carryover |
昨年度と同様に本学でも新型コロナウイルスの感染拡大による大学院生の登校禁止期間が長くあり、実験を行えた期間が非常に短くなってしまった。それに伴って実験を遂行するための実験動物や消耗品の購入が予定よりも少なくて済んだ。また、コロナ禍で研究打ち合わせがオンラインとなったため旅費が不要となった。
|