2021 Fiscal Year Research-status Report
腱板断裂に伴う筋脂肪浸潤メカニズムの解明と抑制法の開発
Project/Area Number |
20K09488
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松村 昇 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70383859)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 筋変性 / 腱板断裂 / 腱板構成筋 / 脂肪浸潤 / 線維化 / 加齢 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪浸潤や筋萎縮を伴う筋変性は加齢や外傷などによって生じうるが、その機序に関しては未だ不明な点が多い。肩腱板は人体の中で最も高率に腱の断裂が生じる部位であり、慢性的な腱板断裂に筋変性を合併することが知られている。筋内に存在する幹細胞の1つであるFAPs細胞が起源とされる腱板構成筋の筋脂肪浸潤は、腱板断裂後の不可逆的な変化とされており、その予防および抑制が臨床的に重要な課題となる。 我々は脂肪浸潤を誘導したマウスモデルを用い、腱板断裂後の筋変性における本細胞集団の関与を証明し、PDGFR阻害薬であるイマチニブの投与で筋変性が有意に抑制されることを明らかにしてきた。しかし過去の筋脂肪浸潤モデルの報告と同様、本モデルにおいても腱板切除のみでは脂肪浸潤が効率的に誘導されず肩甲上神経の脱神経の併用が必要であったこと、筋変性の評価として脂肪浸潤のみを評価しており、線維化などによる筋組織の可塑性へ与える影響を評価できていないことなど、ヒトにおける腱板断裂後筋変性の病態は未だ不明な点が多い。またPDGFR阻害薬は慢性骨髄性白血病で使用される分子標的薬であり、副作用や薬価の面で筋変性予防に対しての適応拡大は困難と想定され、実臨床で使用可能な新規薬剤の探求が求められる。 本研究の目標は、腱板断裂後筋変性を再現し得る動物モデルを確立すること、ヒトにおける腱板断裂後の筋変性の特徴を明らかにすること、筋変性機序を解明しその抑制・予防法を確立することである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね計画通りに進行している。我々はFAPs細胞の脂肪分化を抑制し得る薬剤として、レチノイン酸受容体アゴニストが関わる細胞内シグナルに注目した。in vitroの予備実験で、3T3-L1細胞株とマウス骨格筋から単離したPDGFRα陽性間葉系前駆細胞を用いて、脂肪分化誘導後に遺伝子発現解析を行い、oil red O染色で組織学的評価を行ったところ、レチノイン酸受容体アゴニストの投与により3T3-L1細胞株・PDGFRα陽性間葉系前駆細胞ともに脂肪分化が抑制されることが確認された。また若齢マウスの腱板切離・脱神経を併用したモデルを用いたin vivo実験においても、レチノイン酸受容体アゴニストの経口投与を行うことにより、遺伝子発現解析および組織学的評価で筋脂肪浸潤を抑制する効果が示された。本研究成果を学会発表および論文投稿の形で報告している。 また我々は筋変性に関する加齢と時間経過の影響について研究を行い、12週齢の若齢マウスと50~60週齢の加齢マウスを用い、脱神経を行わず腱板切離のみを行い、棘上筋内の変化を4週と12週で評価した。その結果、加齢マウスは若齢マウスと比べて筋脂肪浸潤および線維化が有意に進行しており、筋変性には腱断裂だけではなく加齢と時間経過が必要であることが明らかとなった。腱板断裂後筋脂肪浸潤に関する動物モデルを用いた過去の研究は散見されるが、いずれも腱板切除のみでは脂肪浸潤が効率的に誘導されず肩甲上神経の脱神経の併用が必要であった。これはおそらく実験動物の筋質に影響されていると考えられ、より生理的な研究を行うためには、加齢動物を使用することが必要であることが示唆された。その一連の成果を学会発表および論文投稿の形で報告している。筋変性機序解明とその抑制・予防法確立を目指して引き続き研究を進めていく。
|
Strategy for Future Research Activity |
腱板構成筋は棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋の4つから構成されるが、現在までの研究は主に棘上筋のみが評価されており、他の筋の変性や、筋間での違いに関しては不明な点が多い。また筋脂肪浸潤や線維化の筋肉内での局在に関しても分かっておらず、現在は腱板断裂モデルにおける全ての腱板構成筋の評価を行っている。また筋変性の抑制・予防法を確立することを目指し、加齢マウスを用いた生理的な筋脂肪浸潤モデルに対するレチノイン酸受容体アゴニスト投与の筋変性抑制効果を評価している。 またヒトにおける腱板断裂後の筋変性メカニズムを明らかにするため、保存治療もしくは手術治療を行った腱板断裂患者を対象とし、治療前後に撮影されたMRI画像を比較し、筋体積および筋内脂肪含有率を評価した上で筋変性が可逆的か不可逆的かを評価する画像解析研究を平行して行っていく予定である。
|
Causes of Carryover |
さらなる解析を行うための設備備品費および消耗品として使用を予定していたが、COVID-19の大流行の影響により次に計画していた解析がまだ開始できていない。また学術集会も軒並み中止や延期となっており、旅費を必要としなかった。次年度に計画している解析を行うための設備備品費および消耗品、論文作成、投稿、掲載料などに必要な経費として使用する予定である。
|