2022 Fiscal Year Research-status Report
腱板断裂に伴う筋脂肪浸潤メカニズムの解明と抑制法の開発
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20K09488
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松村 昇 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70383859)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 筋変性 / 腱板断裂 / 腱板構成筋 / 脂肪浸潤 / 線維化 / 加齢 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪浸潤や筋萎縮を伴う筋変性は加齢や外傷などによって生じうるが、その機序に関しては未だ不明な点が多い。肩腱板は人体の中で最も高率に腱の断裂が生じる部位であり、慢性的な腱板断裂に筋変性を合併することが知られている。腱板構成筋の筋脂肪浸潤は腱板断裂後の不可逆的な変化とされており、その予防および抑制が臨床的に重要な課題となる。従来の脂肪浸潤を誘導したマウスモデルにおいては、腱板切除のみでは脂肪浸潤が効率的に誘導されず肩甲上神経の脱神経の併用が必要であったため、生理的な腱板断裂とは異なる病態であると考えられた。そこで我々は加齢マウスを用いたより生理的なマウスモデルを作成し、加齢が筋変性を進行させることを明らかにしてきた。また過去の研究では技術的な問題から棘上筋のみが評価されてきたものの、実臨床においては断裂が2腱以上におよぶ広範囲断裂において筋変性が進行することが知られており、今後は硬組織切片作成法(川本法)を用いて全ての腱板構成筋を評価し、棘下筋や肩甲下筋を含めた腱板構成筋全体を評価していく予定である。 またヒトにおける腱板断裂後筋変性の病態は未だ不明な点が多い。腱板断裂後の筋変性は不可逆的であるとされるが、一部で可逆性とする報告もある。腱板広範囲断裂に伴う筋変性と関節変性がどのように関係しているのか、筋萎縮や筋内脂肪浸潤が時間経過とともに進行していくのかも明らかとなっていない。肩腱板断裂患者における筋変性と関節変形との関連について解析を行い、報告してきた。また三次元MRI画像を詳細に評価し、筋変性の自然経過について研究を進めて行く予定である。 本研究の目標は、腱板断裂後筋変性を再現し得る動物モデルを確立すること、ヒトにおける腱板断裂後の筋変性の特徴を明らかにすること、筋変性機序を解明しその抑制・予防法を確立することである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の大流行の影響により研究に遅れが生じている。我々は筋内脂肪浸潤を抑制し得る薬剤として、レチノイン酸受容体アゴニストが関わる細胞内シグナルに注目し、その筋脂肪浸潤抑制効果を示した。また筋変性に関する加齢と時間経過の影響について研究を行い、加齢マウスは若齢マウスと比べて筋脂肪浸潤および線維化が有意に進行しており、筋変性には腱断裂だけではなく加齢と時間経過が必要であることを明らかとした。より生理的な研究を行うためには、加齢動物を使用することが必要であることが示唆された。これらの一連の成果を学会発表および論文投稿の形で報告している。ただし我々が行ってきた研究も含め、過去の研究では技術的な問題から棘上筋のみが評価されてきたものの、実臨床においては断裂が2腱以上におよぶ広範囲断裂において筋変性が進行することが知られており、今後は硬組織切片作成法(川本法)を用いて全ての腱板構成筋を評価し、棘下筋や肩甲下筋を含めた腱板構成筋全体を評価していく予定である。筋変性機序解明とその抑制・予防法確立を目指して引き続き研究を進めていく。 また腱板広範囲断裂に伴い筋変性が生じるとどのように関節変性も進行するのかを明らかとするため、腱板広範囲断裂患者210肩を調査し、関節変形が進行する危険因子を評価した。その結果、棘上筋の筋変性が上腕骨頭の上方変位の危険因子であり、肩甲下筋や小円筋の筋変性が上腕骨頭壊死の危険因子であることを明らかとし、本研究成果を学会発表および論文投稿の形で報告している。今後は肩腱板断裂患者における三次元MRI画像を詳細に評価し、筋変性の自然経過について研究を進めて行く予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
腱板構成筋は棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋の4つから構成されるが、現在までの研究は主に棘上筋のみが評価されており、他の筋の変性や、筋間での違いに関しては不明な点が多い。また筋脂肪浸潤や線維化の筋肉内での局在に関しても分かっておらず、現在は硬組織切片作成法を用いて腱板断裂モデルにおける全ての腱板構成筋の評価を行っている。またより低副作用な筋変性の抑制・予防法を確立することを目指し、新たに注目した治療薬の筋変性抑制効果を評価している。またヒトにおける腱板断裂後の筋変性メカニズムを明らかにするため、保存治療もしくは手術治療を行った腱板断裂患者を対象とし、治療前後に撮影されたMRI画像を比較し、腱板構成筋全ての筋体積および筋内脂肪含有率を評価した上で、筋変性が可逆的か不可逆的かを評価する画像解析研究を平行して行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
さらなる解析を行うための設備備品費および消耗品として使用を予定していたが、COVID-19の大流行の影響により計画していた解析に遅れが生じている。現在進行している研究を今年度中に完了し、論文作成、投稿、掲載料などに必要な経費として使用する予定である。
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Research Products
(5 results)