2021 Fiscal Year Research-status Report
クリニカルシークエンスが拓く婦人科がんゲノム医療実装を目的とした基盤研究
Project/Area Number |
20K09662
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷川 道洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70706944)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 婦人科がん / クリニカルシークエンス / 遺伝性腫瘍 / DNA損傷修復 / 薬剤感受性 / オルガノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では婦人科領域ののクリニカルシークエンスで遭遇する遺伝性腫瘍に関する生殖細胞系列変異の病原性評価や治療標的経路に関する体細胞変異の病原性及び癌原性の評価をするシステム構築を目的としている。 これまでに、悪性腫瘍で高頻度に変異が同定されるmRNAのプロセッシングに関連する因子のDNA損傷修復経路への寄与を解明し、スプライシング因子及びメディエーター因子の機能失活変異で誘導されるDNA損傷修復経路の機能低下が卵巣がん及び乳がんでPARP阻害剤の治療標的として確立している相同組換え修復経路異常につながることを解明して、報告している。 また、卵巣がんで頻度が高いHBOCの原因遺伝子であるBRCA1/2の病的意義評価システムの構築を試み、データベース上病的意義不明変異(VUS)であるが家族歴や臨床データで病的変異であることが強く示唆される変異の病原性解析を行うシステム構築を行なっている。BRCA1/2変異体プラスミドを作成し細胞内で導入・安定発現させた。これら細胞に放射線や抗がん剤でDNA損傷誘導し、細胞内でのDNA損傷修復因子の動態を蛍光免疫染色法で評価した。病的変異が疑われるVUSを導入した細胞内では、BRCA1/2が主導的な役割を担う相同組換え修復において機能異常が生じることを観察すれた。 本研究課題では、発がんへの寄与がデータベース上不明な体細胞変異に関して、変異体作成・遺伝子導入後の細胞増殖能の評価や薬剤感受性実験の系を確立することも目的にとしている。既に、高頻度で変異が同定されるEGFR・PI3K-AKT経路・ERBB2・BRAF・FGFR等で病的意義不明変異の病原性・治療標的性を解析する系を共同研究先と既に確立している。 本研究では、解析検体のオルガノイドを樹立することにより、クリニカルシークエンスで同定された治療標的を対象とした分子標的治療の奏功性の評価も行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、悪性腫瘍のクリニカルシークエンスで高頻度に機能失活変異が同定されるmRNAプロセッシング因子に関して、スプライシング因子と相同組換え修復因子に関してそのDNA損傷修復での機能を明らかにした。スプライシング因子SNRPA1の相同組換え修復因子としての機能は既に論文報告して、学会報告も行なっている。また、2つの転写因子のDNA損傷修復での役割を同定して論文投稿し、一つは査読の段階である。 遺伝性腫瘍に関連する生殖細胞系列のバリアント、及び治療標的になりうる体細胞変異のバリアントの癌原性 の評価、治療標的としての意義を検証する細胞株ベースの系の立ち上げを大きな目的としている。既に生殖細胞細胞系列バリアントに関しては、プラスミドの作成・細胞株での安定発現に成功しており、細胞内における相同組換修復能の評価を行うことで、病的意義不明バリアントの癌原性を判定することが可能となっている。 体細胞系列においては、既に共同研究先でハイスループットの系で確立されており、すでに一つの経路に関するVUS評価システムに関しては論文投稿の段階である。 本研究では、当初細胞株ベースでの実験系の立ち上げに2年程度を要すると考えていたが、遺伝性腫瘍の診断に有用となる生殖細胞系列のバリアント評価システム及び薬剤到達性を拡大することができる体細胞バリアントの評価システムの確立が1年で行えている。オルガノイド樹立に関しては、プロジェクト後半の課題だが、すでに婦人科の各癌腫において60例近くで樹立に成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
生殖細胞系列及び体細胞の変異体導入・安定発現させて細胞株において、定性的な評価のにならず定量的な評価を行う系の確立を目指す。腫瘍における相同組換修復異常とPARP阻害剤・白金製剤の感受性の相関は明らかにされているが、既に臨床導入されているゲノム瘢痕をベースとしたHRD検査におけるカットオフ値は複数あるPARP阻害剤により異なっているのが現状で、完全にはその奏功性を予測できない現状がある。本研究では同定されたバリアントを導入した細胞株において薬剤感受性・相同組換修復能を定量的に評価する系を確立すること、またバリアントが同定されている卵巣がん等のオルガノイドで直接的に機能評価をする系を確立して、従来のHRD検査を補完し、より精密な薬剤選択につなげることを目的とする。 体細胞バリアントの評価系に関してであるが、現時点の臨床ではデータベースで病的バリアントと評価されたもののみが治験等の治療標的対象となるのが現状である。限られた施設においてのみ治験導入が可能な状況であるが、今後薬剤到達性の状況が改善されてきた場合、VUSに対して治療標的バリアントか否かを判定できる系は非常に重要である。当施設で同定された治療標的経路のVUSの評価を可及的速やかに進めていき、エビデンスの構築を目指す。また、既に樹立したオルガノイドを用いて薬剤感受性実験をすることにより病原性・癌原性評価の補完を行う。 本研究では、恒常的に多数の臨床検体を利用できること、既にオルガノイド樹立を行えたている点も一つの強みである。オルガノイドにおける相同組換修復異常等のの細胞特性の評価、薬剤感受性を評価する系を早急に整えて臨床応用を図っていくことも大きな目標である。
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Causes of Carryover |
本プロジェクトにおいて、オルガノイド樹立に関してはAMEDからのグラントも使用できる状況であり、今年度はAMEDからの予算使用を優先した。
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Research Products
(5 results)