2020 Fiscal Year Research-status Report
デルタ型グルタミン酸受容体の異常による内耳synaptopathyの病態解明
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20K09727
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
藤川 太郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (60401402)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 加齢性難聴 / グルタミン酸受容体 / デルタ型受容体 / 有毛細胞シナプス / 機能代償 |
Outline of Annual Research Achievements |
リガンド型グルタミン酸受容体のうち、デルタ型受容体はCblnを内因性リガンドとして中枢神経系において広くシナプス形成にかかわっていることが明らかになってきている。デルタ型受容体のデルタ1は以前より内耳に高発現し、その欠損マウスは高音障害型難聴を呈することが知られているが、その機能的意義は不明のままであった。われわれはデルタ型受容体が内耳においてもシナプス形成にかかわることを明らかにすることを目的に本研究をおこなっている。 本年度は研究計画書に従って、内耳におけるデルタ型受容体の発現パターンを定量リアルタイムPCR法で解析した。その結果、野生型ではデルタ1とデルタ2がほぼ同レベルで発現しており、デルタ1欠損マウスではデルタ2が代償的に発現が増加していることがわかった。さらにデルタ型受容体の内因性リガンドであるCblnは野生型ではCbln1とCbln2がほぼ同レベルで発現し、欠損マウスではCbln1の発現量が大きく増加することがわかった。これはデルタ1とCbln2、デルタ2とCbln1がそれぞれ親和性の高い結合相手であることを示唆しており、中枢神経系での先行研究とも矛盾しない結果である。 またデルタ1の局在については信頼性の高い特異抗体をフランスのTricoire博士からいただき、現在いくつかの染色条件で解析中である。 我々のこれまでの研究から、デルタ1の欠損は高音域から始まる進行性の難聴の原因となり、それが有毛細胞シナプスの形成不全が原因であることが明らかになりつつある。これはデルタ型受容体の異常が加齢性難聴の発症にかかわっている可能性を示唆するものであり、将来の予防法の開発につながる可能性があるため、医学的・社会的にたいへん意義が大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画書に従って、内耳におけるデルタ型受容体の発現パターンを定量リアルタイムPCR法で解析した。それに際して、adultのマウスから同実験に資するだけの状態のよい内耳組織を摘出することと、コルチ器とらせん神経節細胞を解剖学的に分けることの2つの技術的な課題があったが、我々はオリジナルな手法を開発して実現することができた。抽出したRNAの完全性はバイオアナライザーで品質の確認をした。その結果、野生型ではデルタ1とデルタ2がほぼ同レベルで発現しており、デルタ1欠損マウスではデルタ2が代償的に発現が増加していることがわかった。さらにデルタ型受容体の内因性リガンドであるCblnは野生型ではCbln1とCbln2がほぼ同レベルで発現し、欠損マウスではCbln1の発現量が大きく増加することがわかった。これはデルタ1とCbln2、デルタ2とCbln1がそれぞれ親和性の高い結合相手であることを示唆しており、中枢神経系での先行研究とも矛盾しない結果である。 一般にシナプス分子の免疫染色は困難なことが多いが、内因性リガンドであるCbln1の局在については、HAタグをノックインしたHA-Cbln1マウスを慶應大学生理学教室から分与いただいき、ある抗原賦活法を用いて明瞭な染色を得ることに成功した。その結果、Cbln1は想定通り、外有毛細胞遠心性シナプスのシナプス間隙に発現していることがわかった。 またデルタ1の局在については信頼性の高い特異抗体をフランスのTricoire博士からいただき、現在いくつかの染色条件で解析中である。同シナプスのシナプス後部(すなわち有毛細胞側)に発現することが想定されるが、デルタ1欠損マウスをコントロールとして、機能的に妥当な局在のシグナルが得られるかどうか、検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところデルタ1の明瞭かつ妥当な染色を得るに至っていない点が課題上の大きな問題点である。ホールマウントでの染色は困難である可能性もあり、脳で成功している切片での染色を開始している。 また結果的に染色がうまくいかない可能性を想定して、間接的にデルタ1の機能および解剖学的解析を試みる予定である。具体的には、すでに局在が明らかになっているCbln1の欠損マウスについて表現型とシナプスの変化を観察し、デルタ1欠損マウスで観察されたような変化が再現できるか、観察を行う。あるいは、われわれの定量RNA実験の結果から、デルタ1の主要なリガンドはCbln2である可能性が考えられるため、Cbln2欠損マウスの表現型解析についても検討中である。
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Causes of Carryover |
当初は初年度にABR測定システムの補完のため高額機器の購入が必要と想定して、交付額に余裕をもたせた額を設定していた。翌年度は抗体など消耗品の購入が必要であり、有効活用したいと考えている。
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