2020 Fiscal Year Research-status Report
加齢性難聴マウスにおける炎症性サイトカインの内耳ゲノム発現網
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20K09732
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
假谷 伸 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10274226)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 蝸牛 / C57BL/6Jマウス / 加齢性難聴 / 次世代シークエンサー / RNA-seq / トランスクリプトーム / 内耳免疫 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度中までの我々の研究室での実験で、1年齢雄C57BL/6J マウスの聴力閾値は、クリックABRによる検討で66.9±13.6 dB SPL(mean±S.D., n=8)と、6週齢C57BL/6Jマウスの聴力(40±2.9dB SPL, n=7)に比べて有意に高く(t-test、P<0.01)、加齢性難聴を呈することが確認された。これらのマウスの蝸牛における遺伝子発現を次世代シークエンサー(RNA-seq)で検討したところでは、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛で変動する機能的遺伝子パスウェイとして、先行研究の成果で報告したもの以外にも、intestinal immune network for IgA production (14 遺伝子); Asthma (11遺伝子) ;Antigen processing and presentation (18 遺伝子); primary immunodeficiency (11 遺伝子); inflammatory bowel disease (13 遺伝子); Graft-versus-host disease (12遺伝子);leukocyte transendothelial migration (18 遺伝子); Autoimmune thyroid disease (12遺伝子)といった、炎症・免疫機能に関係するものが多く含まれていた。同様にこれらの遺伝子群に関係するキーワードとしても、先行研究の成果で報告したもの以外にも、Chemotaxis (18遺伝子)、Adaptive immune response (19遺伝子)、Antigen processing and presentation of exogenous peptide antign via MHC class II (7遺伝子)、Innate immune response (34遺伝子)、Positive regulation of T cell proliferation (12遺伝子)といった炎症・免疫機能に関係するものが多く含まれていた。個々の炎症性サイトカイン遺伝子としては、28のサイトカインとそのレセプターをコードする遺伝子の発現が2倍以上に変動(主に増加)していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の交付申請書に記した研究の目的は、加齢性難聴を呈するマウスで、サイトカイン遺伝子をはじめとする内耳免疫 関連遺伝子の発現を詳細に検討し、加齢性難聴の病態において炎症・免疫機能が重要だと示すことであった。研究実績の概要に記した様に、2020年度中までにRNA-seqのデータにより、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛で遺伝子発現を網羅的に検討する実験・解析を実行し、有意義なデータを得た。2020年度以前の先行研究の成果として報告した内容以外にも、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では、炎症・免疫機能に関係する機能的遺伝子パスウェイが大きく変動し、これらの遺伝子群に関係する機能的キーワードとしても炎症・免疫機能に関係するものが多いとしめすことができた。したがって、加齢性難聴の病態において炎症・免疫機能が重要だと示すことができた。さらに、サイトカイン遺伝子の発現についても、個々の遺伝子の発現を詳細に検討し、研究実績の概要に記した様に、28種類の遺伝子群の発現が変動(主に増加)することをしめすことができた。これらの内容に基づき、2020年度中までに、英文原著論文の執筆を開始した。学会発表についても2020年度にはCovid19の流行により制限があったものの、日本耳科学会で成果報告を行った。また、われわれの研究室では、米国アイオワ大学のMolecular Otolaryngology and Renal Research Laboratoriesと、感音難聴を呈するマウスの蝸牛において、遺伝子発現を検討する研究についてデイスカッションを行った。以上の様な状況から、当研究は順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、交付申請書にしるした研究計画に沿って、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛において、若年マウスとくらべて、どの様に遺伝子発現が異なっているか検討を続ける。加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛と、若年マウスの蝸牛でRNA-seqにより得られた網羅的遺伝子発現データをWeb上のデータベース(David Bioinformatics Resources、https://david.ncifcrf.gov/)で解析して、どの様な炎症・免疫関連遺伝子群が変動しているかさらに明らかにする。より定量性の高いリアルタイムRT-PCRの実験によって、これらの炎症・免疫関連遺伝子のいくつかにつき、その発現が変動していることを確認する。これによりRNA-seqによる、マウス全遺伝子についての発現データをより信頼性の高いものとする。具体的にはリアルタイムRT-PCRによって、当研究の計画で特に注目しているサイトカイン遺伝子など、次の遺伝子群について検討する。解析候補遺伝子:Casp1 、 L18r1、IL-18rap、 IL-1B、 Card9、Clec4e、Ifit1、Ifit3、Tlr9。これらの遺伝子はいずれも炎症・免疫関連機能に関連する遺伝子である。これらの遺伝子はRNA-seqのデータで、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では発現が増加していると示されている。これまでにRNA-seqでは加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛で発現量が変動する遺伝子を761種類検出している。これらのうちたとえば、サイトカインとそのレセプターをコードする遺伝子は28種類検出している。そこで今後のリアルタイムRT-PCRによる実験については、その進捗状況に応じ、さらに解析対象遺伝子数を増やすことも計画する。また当研究では2020年度中までに、一定のデータが得られたので、論文の執筆を開始している。2021年度中に当研究の成果にもとづき英文原著論文を出版し、成果報告とすることを目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定した経費は、主にマウスの飼育費用や、RNA-seq、リアルタイムRT-PCRといった遺伝子発現解析の実験に必要な費用であった。現在までの進捗状況の項目にしるした様に、2020年度にはこれらの実験は滞りなくおこなわれ、順調に有意義なデータを得た。特に反復実験を行う必要性などもなかったので、次年度使用額が生じた。2021年度には引き続き、マウスの購入・飼育費用・RNA-seqやリアルタイムRT-PCRといった遺伝子発現解析の実験にかかる経費支出を計画する。また、研究代表者がこれらのデータを解析するためのパーソナルコンピューター1台にかかる経費支出を計画する。さらに、情報収集と成果発表のため、日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会といった学会に参加するための旅費を支出すると計画する。また状況に応じ、実験補助のためにリサーチアシスタント、ポストドクターを研究グループに加え、人件費を支払うための経費支出を計画する。
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Research Products
(3 results)