2021 Fiscal Year Research-status Report
加齢性難聴マウスにおける炎症性サイトカインの内耳ゲノム発現網
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20K09732
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
假谷 伸 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (10274226)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 蝸牛 / C57BL/6マウス / 加齢性難聴 / リアルタイムRT-PCR / トランスクリプトーム / 内耳免疫 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度までに、次世代シークエンサーによる解析につづき、リアルタイムRT-PCRによる実験で、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では、炎症・免疫機能に関係する遺伝子群の発現が変動していることをしめした。具体的には1)加齢性難聴を呈する1年齢マウスの蝸牛では、6週齢マウスの蝸牛にくらべて、Casp1 遺伝子の発現が 2.88±0.16 (mean±S.D.)倍に増加する(t-test, P<0.01, n=6)。 2)同様にIL18r1遺伝子の発現が1.50±0.08,倍に増加する。 3) IL-18rap遺伝子 が1.62±0.07倍に増加する。 4) IL-1B遺伝子 が 3.51±0.29倍に増加する。 ここで、Casp1、IL18、IL1BはNLRP3インフラマソームの機能に関与することがしられている。 IL18やIL1Bはインフラマソームの機能に関わる主要なサイトカイン遺伝子である。5)Card9遺伝子 が2.58±0.10倍に増加する。6) Clec4e遺伝子3.39±0.32倍に増加する。ここで、Card9、 Clec4eはマクロファージの炎症反応に関係し、慢性炎症疾患の病態に関わると報告されている。7) Ifit1遺伝子が5.49±0.52倍に増加する。8) Ifit3 遺伝子が1.75±0.14倍に増加する。Ifit1、Ifit3 はインターフェロンにより発現が誘導され、マクロファージの炎症反応に関わると報告されている。9) Tlr9遺伝子の発現が3.26±0.33倍に増加する。Tlr9は免疫細胞において、外因性の病原体のDNAを認識し、インターフェロンやサイトカインの発現を誘導すると報告されている。以上の様にリアルタイムRT-PCRの実験によって、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では、炎症・免疫機能に関係する遺伝子群の発現が変動すると確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の交付申請書に記した研究の目的は、加齢性難聴発症の分子病態において、蝸牛局所で変動する炎症性サイトカインの発現網がいかなるものかを、サイトカイン 遺伝子群と長鎖非コードRNAの発現データで解明することであった。加齢性難聴のマウスモデルの病態において炎症・免疫機能が重要だと示すことが目的であった。これまでに加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛において、炎症・免疫機能に関係する機能的パスウェイに属する遺伝子群が変動することをしめした。また、本年度の研究実績の概要にしるした様にCasp1、IL18r1、IL-18rap、IL-1B、Card9、Clec4e、Ifit1、Ifit3、Tlr9遺伝子については、より定量性の高い実験法であるリアルタイムRT-PCRにより、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では、これらの炎症・免疫関連遺伝子の発現が上昇することを確認した。これによりRNA-seqでの網羅的データの信頼性が確認され、加齢性難聴の病態において、炎症・免疫機能が重要だと示すことができた。さらに次段階の実験として、これらの炎症・免疫関連遺伝子群がコードする蛋白質が、マウス蝸牛内のどの様な構造で発現し、内耳免疫機能とかかわっているか検討する実験も開始し、さらに理解を深めようとしている。 これまでのところ長鎖非コードRNAに関する研究成果はでていないものの、炎症・免疫機能に関する遺伝子群の発現データにより、当初の研究計画にそって有意義なデータを得ることができている。また、2021年度には当研究の成果にもとづき、英文原著論文を出版できた。以上の様な状況から、当研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究ではこれまでの遺伝子発現解析により、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛において、炎症・免疫反応に関連する遺伝子群の発現が変動することをしめし、変動遺伝子のリストを作成した。次にこれらの遺伝がコードする蛋白質が、蝸牛組織のどの様な組織学的構造で発現しているか免疫染色法で検討し、さらに考察を深める。 具体的にはIL-18 receptor 1、IL-18 receptor accessory protein、Caspase1、Tumor Necrosis Factor-alphaといった蛋白質の特異抗体を用いて、1年齢のマウス蝸牛での局在を明らかにする。また、生後6週齢の若年マウスの蝸牛でもその局在を検討し、加齢性難聴を発症したマウスの蝸牛ではいかにことなっているか明らかにする。上記の炎症・免疫反応に関わる蛋白質は当研究の遺伝子発現解析で、加齢性難聴を発症したマウスの蝸牛では増加しているとしめされている。免疫染色による検討により、加齢性難聴に伴う自然免疫応答が蝸牛のどの様な組織学的構造でおこっているか考察する。 また、次段階の実験では、以上の様な炎症・免疫反応が、マウスの老化の過程でいつ頃から起こっているか明らかにする。具体的にはRNA-seqやリアルタイムRT-PCRの実験によって、1年齢の加齢マウスの蝸牛で発現が増加していると判明した遺伝子について、生後6週間、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月での遺伝子発現量をリアルタイムRT-PCRで検討する。これにより加齢性難聴の発症にともなう、蝸牛での炎症・免疫反応が、蝸牛組織の老化・変性の結果としてひきおこされるのか、あるいはこういった炎症・免疫反応が原因となって、老化・変性がひきおこされるのかといった点を考察し、今後の研究計画の立案に役立てる。
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Causes of Carryover |
2021年度の研究経費については、主にマウスの購入・飼育費用・RNA-seqやリアルタイムRT-PCRといった遺伝子発現解析の実験にかかる支出を計画していた。2021年度までに現在までの進捗状況で記した様に、RNA-seqやリアルタイムRT-PCRによる有意義なデータを取得できた。これらの実験は滞りなくおこなわれ、特に反復実験の必要もなかった。 そのため、次年度使用額が生じた。2022年度には次年度使用額を含めて、引き続き加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛において遺伝子発現解析を行う。2022年度には、炎症・免疫反応に関係する蛋白質のマウス蝸牛内での発現部位を明らかにするため、免疫染色による実験等を計画する。これらの実験に必要なマウスの購入、飼育費用、RNA-seq、リアルタイムRT-PCR、免疫染色といった実験の試薬代に経費を使用する。また、遺伝子解析の受託実験の費用に経費を用いる。必要に応じて情報収集と成果発表のため、日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会などの学会に参加することを計画する。
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