2022 Fiscal Year Research-status Report
加齢性難聴マウスにおける炎症性サイトカインの内耳ゲノム発現網
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20K09732
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
假谷 伸 川崎医科大学, 医学部, 教授 (10274226)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 蝸牛 / C57BL/6Jマウス / 加齢性難聴 / 免疫染色 / トランスクリプトーム / 内耳免疫 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究ではこれまでに、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では炎症・免疫機能を呈する遺伝子群の発現が変動することを、次世代シークエンサー(RNA-seq)やリアルタイムRT-PCRで確認することができた。次にこれらの遺伝子がコードする蛋白質が、マウスの蝸牛内のどの様な部位で発現しているか、免疫染色で検討した。IL-18 receptor 1、IL-1beta の免疫染色では、これらの内耳免疫関連蛋白の発現を蝸牛らせん靭帯、らせん板縁、コルチ器、らせん神経節とでいった各構造で幅広くみとめた。らせん神経節での染色については、一次反応溶液に、非特異的なウサギIgGを加えたコントロールでも認められたため、バックグラウンドノイズとも考えられた。6週齢の若年マウスの蝸牛では、老齢マウスと同様に、蝸牛らせん靭帯、らせん板縁、コルチ器といった構造でIL-18 receptor 1、IL-1betaの発現をみとめた。以上より、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では、らせん靭帯、らせん板縁、コルチ器といった各構造で自然免疫応答がおこると考えられ、反応がおこる解剖学的構造としては、若年マウスの蝸牛とほぼ同様と考えられた。 また、加齢性難聴を呈する老齢マウスにおける遺伝子発現の検討では、炎症・免疫関連遺伝子の発現はほぼ一様に増加していたが、RNA-seqのデータを再検討したところ、シナプス情報伝達に関する遺伝子発現については、発現が増加する遺伝子と、減少する遺伝子の両者を検出していた。具体的には“Neuroactive ligand-receptor interaction” の機能的遺伝子パスウェイに属する遺伝子については8種類の発現増加遺伝子と、21種類の発現減少遺伝子を検出していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の2022年度までの進捗状況として、まず2020年度の実施状況報告書に記した様に、1年齢の雄C57BL/6Jマウスの聴力が若年マウスにくらべて加齢性難聴を呈することを、我々の実験室でも聴性脳幹反応検査を用いて確認した。そして蝸牛での遺伝子発現を次世代シークエンサー(RNA-seq)で網羅的に解析して、1年齢と若年マウスの蝸牛で比較することにより、加齢性難聴を発症した蝸牛では、炎症・免疫反応にかかわる遺伝子群の発現が大幅に変動することをしめした。当初の研究計画にもあった様にこれらの炎症・免疫反応にかかわる変動遺伝子には28種類の炎症性サイトカインとそのレセプターをコードする遺伝子がふくまれていた。また2021年度の実施状況報告書に記した様に、これらの発現データをより定量性の高い、リアルタイムRT-PCRの実験で確認した。具体的にはCasp1, IL18r1, IL18rap, IL1B; Card9, Clec4e, Ifit1, Ifit3, Tlr9の発現が、1年齢の蝸牛では若年マウスの蝸牛に比べて有意に増加していると確認した。さらに2022年度には1年齢の蝸牛において、IL-18 receptor 1やIL-1betaといった、炎症性サイトカインとそのレセプターが蝸牛らせん靭帯、らせん板縁、コルチ器、らせん神経節とでいった各構造に幅広く発現していることを示した。以上の様に当初の研究計画に沿って、加齢性難聴を呈するマウスの蝸牛では、サイトカイン遺伝子をはじめとする、炎症・免疫反応にかかわる遺伝子群の発現が増加していると示した。以上より当研究計画はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の末までに、加齢性難聴を呈する一年齢マウスの蝸牛では、サイトカイン遺伝子をはじめとする炎症・免疫関連遺伝子の発現が増加するとしめした。また、IL-18 receptor 1やIL-1betaといった、炎症性サイトカインとそのレセプターは蝸牛内に広範囲に発現していた。 次のテーマとして、こういった炎症・免疫反応が蝸牛の老化の原因にかかわるメカニズムなのか、あるいは老化の結果としてもたらされる反応なのか考察する。具体的には、これまでに聴力を検討した1年齢に加えて、6ヵ月齢でも雄C57BL/6Jマウスの聴力を検討する。次にリアルタイムRT-PCRを用いて免疫関連遺伝子Casp1, IL18r1, IL18rap, IL1B, Card9, Clec4e, Ifit1, Ifit3, Tlr9の発現をそれぞれ若年マウス、3ヵ月齢、6ヵ月齢、9ヵ月齢、12ヵ月齢で検討する。2022年度までに報告した様にこれらの遺伝子群の発現は、1年齢では若年マウスにくらべて有意に増加していると判っているが、この発現量増加が蝸牛の加齢の過程でいつ頃からみられるかを明らかにする。そして加齢性難聴発症のタイミングとの関係を検討することにより、これらの発現量増加が難聴発症の前から認められ、加齢の原因に関与する可能性があるのか、あるいは難聴を発症した後になって初めて認められ、むしろ結果としてもたらされる現象なのかを考察する。 さらに、加齢にともなう炎症・免疫反応が蝸牛のどの様な構造でみとめられるのか、マクロファージのマーカー(Iba1蛋白)の免疫染色でも検討する。これらの検討により、加齢性難聴の原因にかかわると推測される免疫関連遺伝子が明らかになれば、その機能を研究することは、加齢性難聴の予防指針などにつながりうる。
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Causes of Carryover |
2022年度の研究実績の概要で報告した成果は、マウス蝸牛組織からの免疫染色によるデータと、遺伝子発現解析(RNA-seq)によるものからなる。免疫染色については我々の実験室で日常的に行っているもので、特に試薬の買い替えなどは必要なかった。また遺伝子発現解析については2022年度にはデータ解析をおこなった。データ解析に必要なパーソナルコンピューターやソフトウェアは我々の研究室にすでに装備しており、備品の購入などは必要なかった。これらの実験・データ解析はとどこおりなく行われ、特に反復実験の必要もなかった。そのため次年度使用が生じた。2023年度には引き続き、加齢性難聴マウスにおける実験に必要な経費(マウス購入費用・試薬・受託実験解析など)や、当研究に関係する情報収集・成果発表の学会の旅費(日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会、耳科学会、聴覚医学会など)、論文発表のための英文校正費・出版費に予算を使用すると計画する。
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