2022 Fiscal Year Research-status Report
急性感音難聴の遺伝子医療に向けた、内耳におけるマスター転写因子の実験研究
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20K09756
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
高原 潤子 岡山大学, 医学部, 技術専門職員 (80448224)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 蝸牛 / 音響外傷 / 次世代シークエンサー / RNA-seq / DNAマイクロアレイ / リアルタイムRT-PCR / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究のこれまでの検討にもとづき、音響外傷による難聴発症時の蝸牛では、転写因子Atf3やStat4が炎症・免疫機能に関連する遺伝子群の発現をコントロールしていることが考えられた。次に難聴発症後早期の3時間に、Atf3やStat4以外の転写因子の発現が変動していないかどうか、スクリーニングをおこなった。難聴発症後3時間後の蝸牛では、RNA-seqとDNAマイクロアレイの実験により、273の遺伝子の発現が変動していた。これらの機能をデータベース解析したところ、転写因子にかかわる遺伝子が多数含まれていた。転写因子に特に密接にかかわる“Transcription factor activity, sequence-specific DNA binding”のキーワードにかかわる遺伝子には、難聴発症時に発現が増加する遺伝子が9遺伝子(Atf3, Dbp, Fos, Fosb, Fosl1, Helt, Maff, Nr1d1, Nr1d2)、発現が減少する遺伝子が16遺伝子(Arntl, Cdkn2a, Elf5, Eomes, Lbx1, Nkx2-2, Nkx6-2, Npas2, Olig1, Olig2, Pax6, Ppara, Rfx4, Sox3, St18, Tbx5)あった。これらの遺伝子について、より定量性の高い、リアルタイムRT-PCRの実験で発現を確認した。その結果Atf3, Dbp, Helt, Maff,Nr1d1の5つの転写因子については難聴発症3時間後に発現が増加することが確認された。これらの内Atf3については、難聴発症後12時間後にも発現が増加していることがリアルタイムRT-PCRで確認された。他の4者については、上記のスクリーニング実験において難聴発症後12時間後の増加は認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の交付申請書に記した研究目的は、急性感音難聴発症時のマウスの蝸牛において、多数の炎症・免疫関連遺伝子群を中心的に制御するマスター転写因子を探索 ・同定することである。また、この際転写因子Atf3やStat4に注目した解析を行うことを計画した。Atf3やStat4はともに、蝸牛以外の組織では炎症・免疫関連遺伝子を制御すると報告されている。 当研究では2020年度までに、難聴発症3時間および12時間後にAtf3の発現がコントロールの8倍以上までに著増することをしめした。また、この際Atf3の発現は蝸牛のコルチ器(有毛細胞・支持細胞)でみられることを示した。これまで難聴発症時の蝸牛において、炎症・免疫反応は蝸牛外側壁でおこると報告されていたが、我々のAtf3のデータは、蝸牛感覚上皮(有毛細胞・支持細胞)に炎症・免疫反応が存在すると示した点でも意義がある。また当研究では2021年度までに、難聴発症12時間後にStat4の発現が減少する傾向があることや、Stat4は蝸牛のコルチ器やらせん神経節に弱く発現しているというデータを得た。以上の様に当研究では研究目的にそって、難聴発症時の蝸牛において、転写因子Atf3やStat4に関するデータを取得し考察を深めることができた。 さらに2022年度までに、難聴発症3時間後の遺伝子発現解析によって、Atf3やStat4以外にも難聴発症時に機能を発揮すると考えられる転写因子の候補を同定することがきた。具体的にはそういった転写因子として、Dbp, Helt, Maff,Nr1d1が列挙される。以上のことより、当研究計画は当初の目的に沿って、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の当報告書(実施状況報告書)で述べた様に、これまでに当初の研究目的にそって難聴発症時に機能を発揮すると考えられる転写因子(Atf3,Stat4)のデータを得ることができた。これらの転写因子は難聴発症早期(3-12時間)に発現が増加し、他の遺伝子群の発現をコントロールするものと考えられる。 さらに考察を広げるため、今後は難聴発症早期(3時間)にこれらの転写因子以外には、どの様な機能の遺伝子の発現が変動しているかも検討する。具体的には難聴発症3時間後に剖出した蝸牛組織からRNAを抽出し、発現量がコントロールの2倍以上あるいは1/2以下に変動している遺伝子を、RNA-seqおよびDNAマイクロアレイで検出する。検出した発現変動遺伝子群の機能を、web上のデータベース(David Bioinformatic Resources)で解析する。特に機能的に有意義であると考えられた遺伝子群について、より定量性の高い、リアルタイムRT-PCRで難聴発症3時間後の発現量を確認する実験を行う。 これまでの検討では難聴発症3時間後には、神経情報伝達にかかわる遺伝子群の発現が変動すると示唆されているので、これに注目した解析を行う。 また、当研究で対象にした転写因子Atf3については、感覚上皮(有毛細胞・支持細胞)でその発現がみられることが明らかになった。今後は難聴発症時に感覚上皮(有毛細胞・支持細胞)で、炎症・免疫反応がどの様に惹起され、これにかかわる遺伝子発現がどの様にコントロールされているか明らかにする。この目的のためには、蝸牛組織からきわめて微細な感覚上皮を剖出してRNAサンプルを抽出し、遺伝子解析を行う実験系を確立することが必要であり、今後はこの実験系確立に着手する。
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Causes of Carryover |
2022年度の“研究実績の概要”で報告したデータは、RNA-seqやDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析とリアルタイムRT-PCRによるものである。網羅的遺伝子発現解析については、2022年度にはデータ解析が中心であった。データ解析に必要なパーソナルコンピューターやソフトウェアなどの設備は我々の研究室に装備しており、備品に関する支出などはなかった。またリアルタイムRT-PCRも我々の研究室で2021年度以前から継続して行っている実験で、実験試薬の買い替えなどは必要なかった、またこれらは滞りなくスムースに行われ、とくに反復実験なども必要なかった。そのため次年度使用が生じた。今後の使用計画としては、引き続き遺伝子発現解析の実験に必要な経費(マウス購入・飼育管理料、実験試薬、受託遺伝子解析など)や研究成果の発表などのための学会参加の旅費、論文発表のための英文校正費用・出版料などに経費を用いる。
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Research Products
(3 results)