2021 Fiscal Year Research-status Report
シナプスタンパク質CAST/ELKSの欠損による網膜変性の作用機序解析
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20K09769
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
萩原 明 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 准教授 (70402849)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 網膜 / 水平細胞 / リボンシナプス / AAV |
Outline of Annual Research Achievements |
<研究の目的> 本研究では、外界からの光情報を脳に伝える重要な感覚器である網膜において、視覚機能の低下に相関する網膜神経細胞の変性、特に視細胞リボンシナプスの異所性局在のメカニズムを詳細に解析し、網膜変性疾患の原因解明や治療法開発に貢献することを目的としている。主に申請者らが先に報告した、プレシナプスタンパク質CAST/ELKSの欠損マウスにおける、リボンシナプスの異所性局在や、電子顕微鏡の3次元立体再構築法による、リボンシナプス・双極細胞・水平細胞が構築するTriad構造の変性に着目し、その作用機序を解明する。 <2021年度研究実施内容> 視細胞からのシナプス伝達や網膜神経回路の調節に水平細胞からの抑制性入力が重要な役割を担っており、先の解析でも水平細胞の変性が観察されていた。そこで、本研究ではCAST/ELKSをはじめとする各種神経伝達関連タンパク質の水平細胞特異的な欠損マウスを作成し、解析を行った。その結果、CAST/ELKSを水平細胞特異的に欠損させたマウスでは顕著な変化は見られず、視細胞リボンシナプスからの入力低下が水平細胞を変性させていたことが示唆された。 また、網膜の各種神経細胞を特異的に標識する方法の開発に関しては、網膜にAAVを感染させる方法を確立し、セロタイプや細胞特異的プロモーターの検証作業を進めており、いくつか有用な候補を見出している。今後、これらの標識法を用いて、免疫染色では難しかった個々の神経細胞の形態や動態解析などに応用する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<シナプスタンパク質の水平細胞特異的欠損マウスの解析> 先の解析では、すべての細胞でCASTが欠損されており、水平細胞が変性した要因として、(1)水平細胞のCAST欠損によるもの、または(2)視細胞におけるCAST欠損によるシナプス入力の変性による2次的な影響によるもの、の大きく2つの作用が示唆されていた。そこで、本研究では水平細胞特異的な欠損マウスを作成し、網膜の形態学的観察を行った。その結果、水平細胞特異的に欠損させたマウスではリボンシナプスの異所性局在を含めた形態学的な変性は認められず、CAST欠損マウスで見られた水平細胞の変性は視細胞からの入力依存的な形態変化であることが示唆された。 <網膜神経細胞の特異的な標識法> 網膜を構成する各種神経細胞の形態やまた将来的にその動態をライブイメージング法で解析するため、視細胞からの入力を受ける双極細胞並びに水平細胞を蛍光タンパク質によって標識する方法を確立する。アデノ随伴ウィルス(AAV)のセロタイプや発現ベクターのプロモーターを検証し、水平細胞への標識には、水平細胞でCreを発現するマウスにFlex型のAAVを発現させる方法が有用であることがわかってきた。また双極細胞に関しては、プロモーターの改良などを含め引き続き検証を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2022年度は、これまでの成果を学会発表並びに原著論文という形で発表し、また細胞特異的な標識法を確立することで、より挑戦的な課題となる動態観察への応用を推進する。 <シナプスタンパク質の水平細胞特異的欠損マウスの解析> 本研究課題で行った水平細胞特異的な欠損マウスの形態学的解析により、水平細胞のCASTやELKSは視細胞シナプスの異所性局在や視覚機能への関与は低いことがわかった。一方、水平細胞は視細胞から双極細胞へのシナプス伝達を抑制的に調節する重要な役割を担っており、今後はCAST/ELKSに限らず他のシナプス関連タンパク質などに関しても各種floxマウスと水平細胞特異的Cre発現マウスとの交配を行い、網膜神経回路における水平細胞の機能や視覚機能との関係を解析する研究へと発展させる。 <網膜神経細胞特異的な標識法を用いた形態観察> 網膜の神経細胞はそれぞれ特徴的な形態と分子を発現していることから、特異的なプロモーターを利用した発現ベクターで、蛍光タンパク質等を発現させることでより詳細な解析が可能となる。形態観察では主に、網膜を薄切した切片を用いた解析を行ってきたが、水平細胞などは側方抑制のために広く樹状突起を伸長しており、その全体像を十分に観察することができていなかった。そこで、近年開発されてきた組織の透明化法を特異的に標識された網膜に応用し、薄切せずに観察することで、各水平細胞が支配している領域の広さなどの全体像を把握する観察法を確立する。
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Causes of Carryover |
本研究申請者は、2021年度より東京理科大学・理工学部・応用生物科学科に移動し、独立した研究室の運営を始めている。この移動に伴いマウスの移設に時間を要したこと、およびコロナ禍で出張を伴う学会参加を見送ったことなどから、2021年度に使用しなかった研究費を2022年度に繰り越すこととした。繰り越し分は、2022年度に現地開催されるNeuro2022学会への(演題採択済み)旅費や、研究をさらに発展させるための物品費として使用する。
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