2020 Fiscal Year Research-status Report
涙液油層機能を維持する生理活性脂質の応用をめざした基礎研究と臨床基盤の確立
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20K09794
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
横井 則彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60191491)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 涙液液層 / 涙液油層 / 分泌型ムチン / 涙液各層の相互作用 / 界面化学 / 油層伸展 / ドライアイ病態生理 / 非侵襲的涙液層検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、研究協力者のGeorgiev博士の協力のもとに、涙液の分泌型ムチンと類似した特性を持つ高分子ポリマーが涙液液層の構造や液層の表面を被覆する油層の挙動に影響を与えうるか否かを検証することを目的として、in vitroでの実験(1)、(2)を行った。すなわち、(1)高分子ポリマーの涙液の水分への影響を涙液の水分蒸発後のシダ状結晶パターン(Ferning pattern: 健常な涙液コロイドの特徴構造)から検討し、(2)高分子ポリマーとヒトのマイボーム腺油膜との相互作用を油膜の粘弾性特性および油膜の厚みの観点から検討(ラングミュアトラフを用い、瞬目を模した油膜の変形挙動で油膜の粘弾性特性を評価し、ブリュースター角顕微鏡で油膜の厚みを観察)した。高分子ポリマーとしては、ヒアルロン酸(HA)、架橋ヒアルロン酸(CHA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ジェランガム(GG)を用い、濃度は、0.0001%、0.001%、0.01%、0.05%、および、0.1%とした。その結果、実験(1)から、シダ状結晶パターンの形成能は、CHA (≧0.001%) > HA (≧0.01%) = CMC (≧0.01%) > GG (≧0.05%)の順に強いこと、実験(2)から、高分子ポリマーは、マイボーム腺油膜の粘弾性特性を増強し、厚みを増加させることが示された。特に、架橋ヒアルロン酸での効果が大きく、濃度に依存してシダ状結晶はより良好に形成され、マイボーム腺油膜の厚みは厚くなり粘弾性特性は増強した。以上より、内因性または外因性の高分子ポリマーが、涙液液層と油層の構造ならびに液層と油層の相互作用を増強する可能性が示され、ドライアイの治療を考える上での新しい視点が得られた。2020年度は上記共同研究に加えて、臨床的見地からドライアイの病態や涙液層の動態検査に関する研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、研究協力者であるGeorgiev博士の協力のもと涙液中の高分子ポリマーが涙液の液層の構造および涙液油層の構造や粘弾性特性にポジティブな効果を与える可能性を示すことができた。涙液油層の伸展が液層の水分量に依存して促進されることは、我々の過去の研究で明らかにされていたが、液層に含まれる高分子ポリマーも油層の伸展挙動を制御していること、および、それがポリマーの種類に依存することを初めて明確に示すことができた。そして、この事実は、今後、マイボーム腺脂質/涙液油層が涙液層の安定性に与える影響を明らかにしてゆく上で、大きな基礎的成果の1つになると思われる。2020年度は、コロナ禍で海外交流がかなわぬ中、研究協力者であるGeorgiev博士との議論がオンラインミーティングや電子メールに終始したため、涙液油層の基礎研究において、次の研究につながるさらに深い議論を行うことが十分にはできなかった。しかし、上記のようにこれまでのマイボーム腺脂質/涙液油層についての共同研究を発展させることはできた。一方、2020年度は、臨床的視点から、ドライアイの病態生理の理解を深めるとともに、涙液油層が涙液層の安定性に与える影響を解析してゆく上で今後大いに役立つことが予想される新しい非侵襲的涙液層動態解析法の研究に着手し、そのシステムの開発に新しく取り組むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究協力者であるGeorgiev博士の協力のもと涙液中の内因性、外因性のさまざまな分子がマイボーム腺脂質/涙液油層の構造や粘弾性特性に及ぼす影響をさらに検討してゆくとともに、その検討結果を考慮に入れながら、涙液油層の粘弾性特性や動態特性を決定する脂質分子の候補の検索を進め、涙液油層が涙液層の安定性を決定するメカニズムを探る予定である。また、2020年度に手がかりが得られた涙液油層動態に基づく、新しい非侵襲的涙液層動態解析法の研究を推し進めながら、涙液層の形成や破壊における涙液油層のin vivo での役割を明らかにしてゆく。ここで得られるin vivoでの成果は、ドライアイの病態解析を今後さらに進めてゆく上で役立つとともに、in vitro で得られた基礎研究の成果と合わせることで、涙液油層の本質的機能を深く知ることができると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で、研究協力者の施設を訪問して、実験結果や今後の研究推進のための議論が十分に行えず、かつ、現場での実地研究を共に行うことができなかったため、そのための旅費や経費が発生しなかった。加えて、国際学会や国内学会がオンラインで行われたため、そのための旅費の発生がなかった。コロナ後は、それらのための旅費や研究経費を予定しているが、コロナ禍の状況が変化する現状において、綿密な計画を立てにくい状況にあり、基礎研究と臨床研究の二つの方向から研究を推進する過程で助成金を最大活用する予定である。
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Research Products
(4 results)