2022 Fiscal Year Research-status Report
涙液油層機能を維持する生理活性脂質の応用をめざした基礎研究と臨床基盤の確立
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20K09794
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
横井 則彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60191491)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 涙液油層 / マイボーム腺脂質 / ゴマ油 / 涙液各層の相互作用 / 界面化学 / 油層伸展 / 深層学習 / 涙液層破壊パターン |
Outline of Annual Research Achievements |
マイボーム腺機能不全(MGD)の治療として、非極性脂質が豊富な植物油の補充があり、これまで、研究協力者と連携して、植物油の中でもゴマ油に注目して研究を進めて来た。ゴマ油は、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸を40%含む)と多価不飽和脂肪酸(リノール酸を42%含む)を含み、抗炎症作用や抗酸化作用も有する利点がある。これまでの研究で、ゴマ油がマイボーム腺脂質層の非極性脂質層を補完し、その弾性特性を安定化させることが分かったため、2022年度は、ゴマ油を含む既存の点眼液とマイボーム腺脂質の相互作用を調べた。方法としては、ラングミュアトラフを用いて、マイボーム腺脂質とゴマ油を含む市販の点眼液の膜特性を表面圧・面積等温線(surface pressure/area isotherm)で調べ、膜表面をブリュースター角顕微鏡によって観察した。今回の点眼液には、ゴマ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシ40ステアリン酸、ポロクサマー407、メントールを含んでいたが、点眼液のフィルムとマイバムのフィルムがそれぞれ、hysteresisのないloop を描くこと、これらの混合物は、マイボーム腺脂質層の厚みと表面圧の増加をもたらすこと、ラングミュアトラフで調べたストレス緩和曲線から粘弾性特性が保たれること、混合物になると、よりマイバムの伸展性が増すことが示された。すなわち、ゴマ油を含む市販の点眼液でも、マイボーム腺脂質の構造や機能を補完し、MGDの治療に使える可能性があることが示された。一方、新しく着手した非侵襲的涙液層動態解析法の研究においては、深層学習の一手法であるsemantic segmenationを用いることで、ビデオケラトグラフィーを用いて、フルオレセインの破壊パターンと同等の涙液層の破壊パターンを描くことができ、ドライアイのサブタイプ分類ができる可能性が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、研究協力者であるGeorgiev博士の協力のもと2021年度に得た知見をもとに、植物油であるゴマ油を含む点眼液とマイボーム腺脂質との相互作用の研究に取り組み、ゴマ油を含む市販の点眼液によっても、マイボーム腺脂質の構造や粘弾性特性に補完的な効果が得られる可能性を示すことができた。そして、本知見は、植物油とマイボーム腺脂質/涙液油層の組み合わせが、涙液層の安定性に与える影響を明らかにしてゆく上で、あるいは、マイボーム腺機能不全(MGD)の治療を考えてゆく上で、今後、大きな基礎的知見になると考えられた。2022年度も、コロナ禍で、研究協力者とのリアルでの交流がかなわぬ中、Georgiev博士とオンラインミーティングや電子メールのやり取りは行うことできた。そのため、深い議論を行うには。限界があったが、これまでのマイボーム腺脂質/涙液油層についての共同研究をさらに発展させることはできた。一方、2022年度は、臨床的視点から、涙液油層の上方伸展に基づく、ドライアイの病態生理の理解をさらに深め、涙液油層が涙液層の安定性に与える影響を解析したり、ドライアイのサブタイプ診断を行ってゆく上で役立つ新しい非侵襲的涙液層動態解析法の開発の研究をさらに進めることができた。ビデオケラトグラファーと人工知能を用いた診断システムは、企業との連携で、深層学習を用いることで、ドライアイのサブタイプ分類の方法へと発展させることができ、大きな成果が得られている。コロナが収束してきた今後は、両研究の方向で、涙液油層機能についての基礎研究と臨床基盤の確立をめざした研究のまとめを行いたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの研究のまとめとして、研究協力者の協力のもと涙液中の内因性、外因性のさまざまな分子がマイボーム腺脂質/涙液油層の構造や粘弾性特性に及ぼす影響をさらに検討してゆくとともに、それらの検討結果を考慮に入れながら、涙液油層の粘弾性特性や動態特性を決定する脂質分子の候補の検索に研究を進めてゆきたい。また、涙液油層が涙液層の安定性を決定するメカニズムについてさらに研究を進め、それらを総括してゆきたい。また、2020~2022年度を通じて、手がかりが得られた涙液油層動態に基づく、新しい非侵襲的涙液層動態解析法の開発についてもさらに研究を進め、涙液層の形成や破壊における涙液油層のin vivo での役割を明らかにしてゆきたい。ここで得られるin vivoでの成果は、ドライアイの病態解析を今後さらに進めてゆく上で役立つとともに、in vitro で得られた基礎研究の成果と合わせることで、涙液油層の本質的機能を深く知ることにつながると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で研究協力者との議論が十分に行えなかった経緯があり、次年度に延長により使用する額が生じた。コロナも収束し、次年度は、最終年度として、これまでの研究を総括し、研究協力者とも十分に議論を重ねて、これまでの研究を総括する予定である。論文投稿費用、追加研究の物品費、旅費、その他に、助成金を使用する計画である。
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