2020 Fiscal Year Research-status Report
角膜神経のドライアイ疼痛症状に関与するメカニズム解明と治療応用
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20K09812
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
崎元 暢 日本大学, 医学部, 兼任講師 (20465272)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 角膜神経 / 培養三叉神経節細胞 / 角膜知覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、マウス三叉神経節初代培養モデルの確立を目指した。マウス三叉神経節初代培養を行ったとする論文は海外誌に幾つか散見されるが、いずれも細胞が未熟であったり細胞数が少ないなどの問題があった。我々は、新生児マウス(6~7匹)から三叉神経節を摘出し、神経培地を用いた分散法で三叉神経節細胞の初代培養を試みた。結果、数本の神経突起からなる入力系と、1本の軸索からなる出力系を有する成熟した培養三叉神経節細胞を継続的に生着させることに成功した。 次に、このマウス三叉神経節初代培養モデルを用いて、侵害受容器(知覚神経の種類に該当する)であるTRPファミリーの分布について、特に角膜知覚(特に痛覚)に関連するTRPV1(アゴニスト:カプサイシン)、涙液浸透圧感知や涙液分泌を司るTRPM8(アゴニスト:メントール)に着目し検討を行った。具体的には、TRPファミリーアゴニストを投与することでの神経細胞興奮をみることで、全神経細胞中のTRPV1+細胞、TRPM8+細胞の割合を調べた。蛍光顕微鏡下に設置した培養皿に対し、細胞内Ca2+動態をモニタリングする蛍光プローブであるFura2-AMを投与したのち、TRPファミリーアゴニストを追加し、緑色に発色励起した細胞を細胞興奮と捉え連続的に写真撮影し、評価するというものである。その結果、TRPV1+細胞、TRPM8+細胞ともに全細胞の約4割を占めておりこれはRT-PCRなどを用いた既報における報告と矛盾のないものであった。更に、我々のこのマウス三叉神経節初代培養モデルがFura-2AMを用いた検討に耐えうるものであることも証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年、ドライアイなどの角膜疾患において角膜知覚の研究が重要視されているが、適切な実験的モデルが乏しいのが従前からの問題であった。マウスの三叉神経節細胞の初代培養は他の動物種と比較して困難であると考えられていた。先述したように、マウス三叉神経節初代培養を行ったとする論文は海外誌に幾つか散見されるが、いずれも細胞が未熟であったり細胞数が少ないなどの問題があった。我々は、新生児マウス(6~7匹)から三叉神経節を摘出し、神経培地を用いた分散法で三叉神経節細胞の初代培養を試みた結果、数本の神経突起からなる入力系と、1本の軸索からなる出力系を有する成熟した培養三叉神経節細胞を継続的に生着させることに成功した。マウス三叉神経節培養において、成熟神経細胞を示すことができた報告はなく、大きな成果だと考えている。 それに加えて、今回確立したマウス三叉神経節初代培養モデルが、様々な刺激試験などに用いることができるかどうか、神経細胞興奮を確認する際に頻用されるFura-2AMを用いた検討を行った。その結果、蛍光顕微鏡下でマウス三叉神経節細胞にFura-2AMを加えた状態でTRPV1アゴニストであるカプサイシンとTRPM8アゴニストであるメントールを加えることで三叉神経節細胞が発色・興奮することを確認できた。その割合は全細胞中それぞれ約4割ずつであり、これらの結果はマウス三叉神経節初代培養モデル・Fura-2AMを用いた検討においては初めてのものであるとともに、我々が確立したマウス三叉神経節初代培養モデルが今後様々な神経研究に有用であることを示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
ドライアイにおける疼痛を引き起こすと考えられる侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛について今後検討していく。侵害受容性疼痛については、TRPファミリーのなかでTRPV1に着目する。我々が確立したマウス三叉神経節初代培養モデルを用い、TRPV1アゴニストであるカプサイシンを添加した三叉神経節細胞に対して、各種ドライアイ治療薬(ジクアホソル、レバピミド、シクロスポリン)や神経興奮に関わる作用が未知の様々な既存薬、さらにTRPファミリー拮抗薬も併せて添加し、これら薬剤の神経興奮促進または抑制作用をFura-2AM/プレートリーダーを用いて確認する。すなわち、侵害受容性疼痛に関わるポリモーダル侵害受容器であるTRPV1陽性三叉神経節細胞において、ドライアイ治療薬をはじめとした各種薬剤に神経興奮抑制効果つまり疼痛抑制効果があるかを実証する。 また、神経障害性疼痛については炎症性サイトカイン/サイトカイン受容体がそれぞれ関与しているとの仮説から、マウス三叉神経節細胞初代培養モデルやノックアウト(KO)マウスを用いたin vivo角膜神経障害モデルを用いて検討し、TRPファミリー拮抗薬による三叉神経節細胞神経興奮抑制効果、炎症性サイトカインを抑制することでの神経障害性疼痛抑制効果をそれぞれ明らかにし、将来のドライアイ症状治療への応用を検証する。具体的には、炎症性サイトカインを灌流した状態の培養神経細胞に各種ドライアイ治療薬を添加し、神経突起の伸長・分岐数などを確認しドライアイ治療薬が炎症性サイトカインによる神経障害を抑制できるかを検討していく。
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