2020 Fiscal Year Research-status Report
Bookmarking function of p63, a nuclear marker of oral carcinomas
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20K09927
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Research Institution | Kanagawa Dental College |
Principal Investigator |
加藤 伊陽子 神奈川歯科大学, 歯学部, 特任教授 (20333297)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | TP63 / 口腔癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
TP63(p63)遺伝子はがん抑制遺伝子TP53(p53)ファミリーの一つであるが、p53と類似の転写活性化能を持つタンパク質アイソフォーム(TA-p63)の発現はごくわずかで、その活性を持たないアイソフォーム(ΔN-p63)を強く発現する。p63は口腔、皮膚、尿路上皮などの重層上皮の組織発生に必須で、悪性度の低い口腔、咽頭・喉頭の癌で高発現するが、浸潤癌ではその発現は消失する。研究代表者らは主要p63タンパク質ΔN-p63-αがp300タンパク質と結合し、Wnt/β-cateninによる遺伝子発現を活性化することを示した。p300はヒストンをアセチル化するとともに種々の転写因子を集合させるので、p63がp63自身の標的配列に結合すると、p300とも会合して転写誘導に係る調節領域のヒストンにマークをつけると考えられる(ブックマーキング機能)。本研究ではp63-p300の分子会合の機構と重要性を明らかにする。 2020年度は、この分子会合に関わるドメイン構造を一般的な培養細胞で解析するため、二つの分子および各ドメインを発現するプラスミドを設計、構築した。p63各アイソフォームcDNAにHAやFlagなどのタグを付加し高レベル発現ベクターに連結した。p300に関しては、分子が大きいので五つのドメインに分割し、タグ付きドメインとして発現ベクターに連結した。この際、核移行シグナルNLSがp300のN末端にあるので、中央部およびC末端ドメインの発現においてもこのNLS配列がN末端に付加されるよう工夫した。HeLa細胞に発現ベクターを導入し、種々の抗体を使用して設計どおりタンパク質が発現されていることを確認した。さらに免疫沈降を実施し、タンパク質の検出に用いる抗体や実験条件を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に沿って下記の3項目で研究を実施した。 [p63発現ベクターの構築] すでに保有していたp63各アイソフォームのクローンを用いてタンパク質相互作用を検出する実験を行ったが、p300との共沈を明確に検出するためには発現量がやや少なかった。そのためp63の4つのアイソフォームを新しく高発現ベクターに連結し、それぞれHAタグ付きタンパク質としても検出できるようにした。HeLa細胞に作成したプラスミドをトランスフェクトし、産生タンパク質を検出した。高レベル発現を確認するとともに、検出に使用できるタグ抗体とp63抗体を調べた。 [p300セグメント発現ベクターの構築] p300は高分子で分子生物学的に扱いにくいが、大きく分けて6つの機能ドメインからなるため、いくつかに分割して発現させた。本年度は一部を除きほぼ全域をカバーする4つのベクターが作成できた。免疫沈降を効率よく行うためFlag×3のタグを付けた。Bromoドメイン配列を含むプラスミドの作成では、いくつかの設計で連結を試みたが、コピー数の減少や連結プラスミドが得られないなどの問題が生じた。このドメインはヒストンH4acに結合することが知られ、p63と直接結合する可能性は低いと予想し、他のドメインを先行させて実験を進めた。 [p63-p300分子結合の解析] 上記のベクターを使用して、ΔN-p63-αとp300の各ドメインとの相互作用を解析する実験を開始した。暫定的な実験結果ではあるが、ΔN-p63-αがp300のN末端にある二つの機能ドメインのいずれにも結合する可能性は低いことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の成果をもとに次の事項について研究を継続し、発展させる。 (i) p300の各ドメイン発現ベクターに関して、さらに構造を分割するなどしてp63結合能を解析し、徐々に結合に必要な配列を狭めていく。p63結合部位が推定できるようになったら、その配列を欠失させたp300変異体を作成して、必要な構造を確認する。 (ii) p63のα領域では、多様なタンパク質との相互作用が予想されているSAMドメイン構造のほか、TAの機能を阻害するTIDドメインなどが知られている。種々の欠失変異体を作成し、p300と結合する配列がαのどの部位にあるのかを明らかにする。適切な培養細胞にp63および変異体を導入し、遺伝子発現の変化とともに細胞分化との関係を調べる。 (iii) p63にコードされるアイソフォームのなかで、当初の計画では主要タンパク質ΔN-p63-αのC末端にあるα領域に注目し、α-p300結合の解析を目指していた。しかし、発現レベルは低いものの、トランスアクチベーション(TA)ドメインを持つアイソフォーム(TA-p63)はp53と類似の機能を持つタンパク質であり、N末端のTAドメインにはαドメインとは意義の異なるp300結合配列があるはずである。p63ではTAドメイン-p300複合体形成について明らかされていないので、2021年度以降、本研究で平行して解析する。αドメインとTAドメインはそれぞれp300の異なる部位に結合する可能性が高い。これによって、p63によるブックマーキング機能は直接的転写活性化能であるトランスアクチベーション機能とは異なることを明確にする。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由: 大筋では予定通り研究を進めたが、消耗品費で1パーセント程度の差額が生じた。 使用計画: 今後の使用計画に大きな変更はない。繰越額は次年度に消耗品費用に充てる。
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