2020 Fiscal Year Research-status Report
生体硬組織に接着する吸収性素材の設計開発と保存修復・歯内療法・歯周治療への応用
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20K09950
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Research Institution | Kyushu University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
中村 真理子 九州保健福祉大学, 臨床心理学部, 教授 (90284067)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 靖弘 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (90281162)
阿部 薫明 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (40374566)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生体硬組織 / 接着 / 歯内療法用材料 / 生体安全性 / 歯周外科 / 根管充填用シーラー / 湿性組織 / ポリカルボン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯質表面における分子の挙動と分子構造の関係性を明らかにし,生体硬組織の無機成分であるアパタイトに化学吸着する分子構造の理論を構築することを,令和2年度の目的とした。まず,アパタイトに化学吸着する分子と歯質表面を脱灰する分子とで,どのような構造上の違いがあるかを検討した。歯質接着では低分子と高分子が用いられているが,両者を比較した場合,低分子の方が歯質表面を脱灰するものが多い。これは,グラスアイオノマーセメントの主成分であるポリカルボン酸などの高分子には,カルボキシ基すなわち酸性の官能基が多数存在するため,「多足類」のように歯質表面に「ひっつく」ことによると考えられる。つまり,カルボキシ基のような酸性官能基が,アパタイト表面に存在するカルシウムとイオン結合し,一部乖離しては別の酸性官能基がイオン結合するという平衡状態を保っているものと考えられる。また,ポリカルボン酸の一種であるポリアクリル酸との比較結果を見ても,分子量がある程度大きく,溶解できるぎりぎりの大きい分子の方が,比較的小さい分子量のポリアクリル酸よりも化学的に結合する傾向が強かった。ポリカルボン酸においても,歯質表面を全く脱灰せず結合している訳ではない。一部脱灰して,表面にゲル状の層を形成していることが透過電子顕微鏡による歯質接着界面の解析結果から明らかになった。アパタイトから放出されたカルシウムイオンがポリカルボン酸と反応してゲル化することにより,歯質表面に粘着することも,化学的に結合するための準備段階となっていると考えられる。また,ポリアクリル酸よりも,アクリル酸90wt%とマレイン酸10wt%の共重合体の方が,化学的な結合能が高かった。これは,単位ユニットで比較した場合,酸性官能基であるカルボキシ基の数が多いことに加え,カルボキシ基の位置も関係していると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歯質表面における分子の挙動と分子構造の関係性を明らかにし,生体硬組織の無機成分であるアパタイトに化学吸着する分子構造の理論を構築することを,令和2年度の目的とした。まず,アパタイトに化学吸着する分子と歯質表面を脱灰する分子とで,どのような構造上の違いがあるかを検討した。歯質接着では低分子と高分子が用いられているが,両者を比較した場合,低分子の方が歯質表面を脱灰するものが多い。これは,グラスアイオノマーセメントの主成分であるポリカルボン酸などの高分子には,カルボキシ基すなわち酸性の官能基が多数存在するため,「多足類」のように歯質表面に「ひっつく」ことによると考えられる。つまり,カルボキシ基のような酸性官能基が,アパタイト表面に存在するカルシウムとイオン結合し,一部乖離しては別の酸性官能基がイオン結合するという平衡状態を保っているものと考えられる。また,ポリカルボン酸の一種であるポリアクリル酸との比較結果を見ても,分子量がある程度大きく,溶解できるぎりぎりの大きい分子の方が,比較的小さい分子量のポリアクリル酸よりも化学的に結合する傾向が強かった。ポリカルボン酸においても,歯質表面を全く脱灰せず結合している訳ではない。一部脱灰して,表面にゲル状の層を形成していることが透過電子顕微鏡による歯質接着界面の解析結果から明らかになっている。アパタイトから放出されたカルシウムイオンがポリカルボン酸と反応してゲル化することにより,歯質表面に粘着することも,化学的に結合するための準備段階となっていると考えられる。また,ポリアクリル酸よりも,アクリル酸90wt%とマレイン酸10wt%の共重合体の方が,化学的な結合能が高かった。これは,単位ユニットで比較した場合,酸性官能基であるカルボキシ基の数が多いことに加え,カルボキシ基の位置も関係していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度である令和2年度は,我々が独自に行ってきた生体硬組織/材料ナノ界面解析技術と分子挙動解析技術を駆使して網羅的に解析し,「湿性象牙質・骨」に接着する分子の理論構築を目指した。具体的には,分子構造が生体硬組織への接着特性に及ぼす影響の解析と理論構築するため,低分子(モノマー)から高分子まで様々な分子を網羅的に解析した。その知見を基に,一部,次年度に引き継ぎながら「濡れた生体硬組織」に接着する分子の構造について理論構築を進めた。 次年度である令和3年度は,令和2年度に引き続き,「湿性象牙質・骨」に接着する分子の理論構築を目指す。2価のカルボン酸であるジカルボン酸を中心に,カルボキシ基の位置と接着や脱灰などの特性を考える。シュウ酸(エタン二酸),マロン酸(プロパン二酸),コハク酸(ブタン二酸)などの分子を用いて,構造上,2つのカルボキシ基が接近している場合で接着・脱灰の特性がどのように変わるのかを考える。また,幾何異性体であるマレイン酸とフマル酸でどのように変化をするのかを明らかにすることにより,高分子中の酸性官能基の位置について考察を進めていく。さらに,理論的な分子設計を行うためにこれまで集積してきた上記の基礎的知見を基に,「湿性象牙質・骨」に接着する分子設計・合成を行い,その性能評価を行う。皮下や骨内に埋植し,組織学的な評価を行うとともに,体内埋植であることを考慮し,内毒素であるエンドトキシンの除去法についても考える。 最終年度である令和4年度は,令和2年度と令和3年度の知見を基に試作した分子をキーマテリアルとし,保存修復,歯内療法,歯周治療各分野への応用に取り組むことを予定している。保存治療における革新的な技術開発につながることが期待される。
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Causes of Carryover |
機器使用料が当初予定したいたより少額であったため繰越金が生じた。繰越金は実験用消耗品購入に使用する予定である。
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