2021 Fiscal Year Research-status Report
免疫・骨代謝の賦活化による治癒促進を狙った新しい根管治療パラダイムの構築
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20K09952
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊藤 祥作 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (90360495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 真土 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (40448105)
成瀬 陽菜 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (60823515)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 根管貼薬剤 / 炭酸カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,炭酸リチウム根管貼薬の有効濃度の検索および生物学的安全性について検証を行った。10 週齢雄の Wistar 系ラットに対し,根尖性歯周炎を惹起させ,それに対する感染根管治療を実施した。そして, 0.001%,0.01%,0.1%,1% 炭酸リチウム配合根管貼薬剤を貼薬した。マイクロ CT 撮影および根尖病変体積の測定をおこなったところ,露髄後 4 週において根尖病変体積は,いずれの群間においても有意差は認められず,ほぼ同じ大きさの病変が形成されていた。そして,根管貼薬後 4 週において, 0.01% 以上の用量では,0.001% 炭酸リチウム群と比較して,病変体積の縮小効果が有意に大きいことが明らかとなった。これらのことから,炭酸リチウムの濃度が 0.01% 以上であればほぼ同等の治癒促進作用を示し,炭酸リチウムの濃度が 0.001% では 0.01% 以上の場合と比較して,根尖病変の治癒促進作用が低下することがわかった。次に,生物学的安全性について検証を行った。10 週齢雄の Wistar 系ラットを炭酸リチウム根管貼薬群と全身投与群の 2 群に分け,根管貼薬群には12% 炭酸リチウム配合根管貼薬剤を貼薬し,全身投与群には 74 mg/kg(2 mEq/kg)の用量となるよう,炭酸リチウムを生理食塩水に溶解して腹腔内に投与した。処置を施したラットから,1,3,6,12,24,48,72 時間の時点で鎖骨下静脈より血液を採取した。血清成分をリチウム測定キットを用いて血中内濃度を算出した。腹腔内投与群では血中リチウムイオン濃度は投与後 1 時間から 3 時間で約 2 mM まで一過性に上昇し,その後は徐々に低下し続けた。そして,12% 炭酸リチウム貼薬群では,測定をおこなった 72 時間を通して,血中からリチウムイオンはほとんど検出されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,炭酸リチウム根管貼薬の有効濃度の検索および生物学的安全性について検証を行う事を目標としていた。そして研究を進めて行ったところ,根管貼薬後 4 週において, 炭酸リチウム根管貼薬の0.01% 以上の用量では,0.001% 炭酸リチウム群と比較して,病変体積の縮小効果が有意に大きいことが明らかとなった。これらのことから,炭酸リチウムの濃度が 0.01% 以上であればほぼ同等の治癒促進作用を示し,炭酸リチウムの濃度が 0.001% では 0.01% 以上の場合と比較して,根尖病変の治癒促進作用が低下することを明らかにした。また,12% 炭酸リチウム貼薬群では,測定をおこなった 72 時間を通して,血中からリチウムイオンはほとんど検出されないことも明らかにした。以上のことから,当初予定していた目標まで本年度は達成できたと判断し,進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究目標は,炭酸リチウムの治癒促進のメカニズムについて解析を行う予定である。根尖性歯周炎をはじめとする創傷の治癒過程では,炎症状態の遷延を抑制する抗炎症状態に移行すると報告されており,さらにその移行に際しては,M1 タイプから M2 タイプへのマクロファージの分極や制御性 T 細胞の存在が関与するとされている。さらに,Wnt/β-catenin シグナル伝達経路はこうした創傷治癒に関わる免疫応答に関与しているとの報告もある。M1 マクロファージは炎症初期において優位となるマクロファージであり,LPS や TNF-α,IFN-γ 等によって分化が誘導され,IL-1β,IL-6,iNOS 等炎症反応を誘発するサイトカインを産生し, Th1 細胞やTh17 細胞を誘導する働きをもつ。一方で,M2 マクロファージは IL-4,IL-10,IL-13 などによって分化が誘導され, IL-10,TGF-β 等を発現し,Th2 細胞や制御性 T 細胞を誘導する働きをもつ。制御性 T 細胞は免疫自己寛容の維持に関与する免疫細胞であり,マスター転写因子である Foxp3 により分化し,マクロファージやリンパ球等の働きを抑制する。そこで,炭酸リチウム根管貼薬後 1 週から 4 週の組織試料にM1マクロファージやM2マクロファージそして制御性 T 細胞のマーカー分子にて免疫組織化学染色を行ない,これらの細胞の発生時期および局在について明らかにすることを予定している。
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Causes of Carryover |
COVID-19によるパンデミックのため,資料収集のために計画していた学会への旅費を計上できなくなったため研究費の余剰が生じてしまった。また,大阪においては,まん延防止等重点措置が発出され,研究活動に制約が生じたため,当初の計画より使用する研究費が減少した。次年度においてもCOVID-19の影響による旅費の計上が難しい事態になる可能性があるが,次年度は,順調に研究費を行使してゆきたい。
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Research Products
(5 results)