2021 Fiscal Year Research-status Report
バンク事業の進む歯髄幹細胞の臨床応用に向けたメッセージの発信
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20K10019
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
大越 章吾 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (70231199)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中原 貴 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (10366768)
石川 博 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (30089784)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 歯髄細胞 / 間葉系幹細胞 / 肝細胞 / ヒト特異的プライマー / 組織生着率 / 歯の細胞バンク / 免疫不全ラット / 再生医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell; MSC)は多くの細胞系統に分化し、有力な再生医療の細胞資源であることが知られている。更に、歯の歯髄細胞は自然脱落した乳歯や抜去智歯から得られるため、骨髄採取などに比較して費用や侵襲性が少なく、特に優れた細胞資源である。申請者が所属する日本歯科大学では2015年より歯の細胞バンク事業がスタートしている。 申請者らは、歯髄MSCが肝細胞の形態を有し、アルブミン産生能やアンモニア代謝能、肝細胞特異的な転写因子のHepatocyte nuclear factor 4α (HNF-4α)を特異的に発現する細胞に分化することを示した。ラットの肝障害モデルに細胞投与を行うと肝障害の程度が改善した(Hara et al. J. Hard Tissue Biology. 2020)。 歯髄MSCの重症肝炎抑制効果に関しては、1.歯髄MSCから誘導された肝細胞様細胞(Hepatocyte-like cell:HLC)が直接障害肝に生着することで組織修復に関わる。2.HLCが免疫抑制物質等を血中に放出し、それらが遠隔的あるいはParacrine的に肝炎を抑制する、等の機序が考えられている。 この観点から申請者らは特に1の機序に着目し、ヒト特異的PCRプライマーを用いたReal Time PCRにより、ヌードラットに移入したHLCの体内動態を追跡した。その結果、門脈から移入したMSCは肝障害の有無にかかわらず急速にラット体内から消失し(3時間で生存率2%)、肝炎抑制効果にHLCの直接障害肝生着効果は乏しいことがわかった(Simamura, et al. J Oral Bioscieces , 2021)。この結果よりHLCの肝障害改善機序は1のHLCの障害肝への生着より、2の免疫抑制物質を介した機構が主であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
免疫不全モデルラットへ投与されたHLCsを特異的に検出する方法として、ヒトGAPDHを特異的に検出するプライマーを使用し、逆転写・リアルタイムPCRを施行した。また、RNA濃度希釈実験より、その検出限界を検討した。更に免疫不全モデルラットへ5x105 のHLCsを門脈内投与した場合と、尾静脈投与した場合の、肝および肺における細胞動態を定量的に解析した。また免疫不全モデルラットにConcanavalin AとD-galactosamineを投与し、肝障害モデルラットを作成した。肝障害モデルラットへHLCsを尾静脈投与した場合の細胞動態を解析し、対照群と比較した。 結果、1.上記プライマーを使用した逆転写・リアルタイムPCRでは、ラットRNA100ng中で最低ヒトRNA0.1pg(1:106)を、特異的に検出することが可能であった。2.門脈内投与した場合、肝におけるHLCsは、投与3時間後において、投与直後の2%の量に減少していた。3.尾静脈投与した場合、多くのHLCsは肺から検出された。その量は投与直後および投与3時間後では変化はなかったが、投与6時間後において約10%に減少していた。 我々の用いた逆転写・リアルタイムPCRは、ヒト特異的なmRNAを検出するものであり、免疫不全モデルラット体内での生存HLCs量を反映すると考えられる。免疫不全モデルラットへ投与されたHLCsは、早期に体内から消失することが示された。しかし、肝障害モデルラットでは、肺でのHLCsの生存が延長していた。肝障害があっても、肝にHLCsが生着しやすいという結果は得られなかったが、肺に生存しているHLCsから放出される液性因子が肝障害改善に関与する可能性が推察された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から更に歯髄MSCを効率よく多系統の細胞に選別、分化させるシステムの確立は可能かという問題に取り組んでいく。 これまでMSC分画を精製する表面マーカーとしてCD73、CD105、CD90などが示されているが未だ明確なものはない。歯の細胞バンクの実用化に際し、増殖・分化能に優れたMSCを効率よく精製できる細胞表面マーカーを明らかにできれば、多彩な細胞への分化ステップを円滑に行えると考えている。このためFACS装置を用い特異的な表面マーカーを有するMSCをEnrichして、それらがどのような細胞分化を遂げるか解析する。 更に歯髄MSCの抗炎症作用の機序は何かという問題に取り組んでいく。 申請者らは上述のように、炎症を改善するのはサイトカインなどによるParacrine的な抗炎症作用が主体であると考えている。では、どのようなサイトカインが主体となって抗炎症作用を発揮しているのだろうか?それが明らかになればバンク化された歯髄細胞が再生医療資源としてどのような効果を発揮し、どのような疾患に有用なのかという臨床応用のメッセージを発信できると考えている。
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Causes of Carryover |
研究結果を見てから消耗品を決め購入しているため繰越金が生じたが、今現在の実験は順調に進行しているため、本年度に必要な試薬・消耗品を購入予定である。
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