2020 Fiscal Year Research-status Report
高齢者における免疫再構築症候群としてのカンジダ症の発現機序と治療法の開発
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20K10252
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Research Institution | Ohu University |
Principal Investigator |
清浦 有祐 奥羽大学, 歯学部, 教授 (90194951)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カンジダ症 / 免疫再構築症候群 / IL-1α / Candida albicans / Candida tropicalis / Candida glabrata |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫再構築症候群は、高齢者で多数出現する自己免疫疾患や悪性腫瘍患者に対する生物学的製剤の投与中止や免疫調節剤の投与で起こる。これは、急激な免疫抑制の解除で免疫機能が再構築されて、微生物感染に対する過剰な免疫反応が起こるものでカンジダ症も含まれる。本研究では、カンジダ症のマウスモデルを使用し、免疫再構築症候群としてのカンジダ症に特有の発症メカニズムを解明することを目的とする。 本年度は、以下の結果を得た。1. Candida spp.3菌種をマウスの口腔内に感染させた場合の各種臓器への付着性を明らかにした。舌への付着は C. albicans が C. tropicalis や C. glabrata よりも有意に高い値を示した。腸管内への定着は3菌種共に認められたが、脾臓中では C. tropicalis のみが、肝臓では C. tropicalis と C. glabrata が認められた。腎臓では3菌種共に認められた。2. カンジダ血症は、口腔内に定着した Candida spp.が腸管内に移行し、さらに腸管が傷害を受けることで起こると考えられる。そこで、上記3菌種を腹腔投与し病原性を比較した結果、C. albicans のみでなく、舌への定着性が弱い C. tropicalis も強い致死性を認めた。3. C. albicans, または C. tropicalis の加熱死菌を投与後に生菌を感染させた場合に、その致死性が強く増加した。この現象は Candida の菌体成分の投与によってマウスの免疫応答が高まり、炎症性サイトカイン産生亢進によるサイトカインストームが生じたためと考えられる。 免疫再構築症候群は抑制されていた免疫応答が抑制の解除によって急激に亢進するために起こると考えられているので、サイトカインストームも免疫再構築症候群の病態形成に関与すると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
保有する Candida spp. の3菌種を口腔カンジダ症を惹起すると共に致死性を発揮する C. albicans, 口腔カンジダ症を惹起しないが致死性を発揮する C. tropicalis, 口腔カンジダ症を惹起せず致死性も発揮しない C. glabrata の3菌種に分けることができた。次に、免疫再構築症候群をマウスで起こすために免疫抑制剤の投与時期を変化させてカンジダ症の発現に及ぼす影響を調べたが、投与時期を変化させてもカンジダ症の病態に大きな差異は認められなかった。実際の人の免疫再構築症候群では免疫抑制剤の長期投与が行われ、その突然の中断でこの疾患が起こるので、より長期間の投与が必要と考える。一方、免疫抑制剤の投与と異なる方法で免疫応答を高め、C. albicans 感染によるサイトカインの過剰産生を導くことでマウスの致死性が高まる結果が得られた。具体的には、マウスに C. albicans の加熱死菌を投与するとその後に生菌を投与した場合には、生菌のみを投与した場合よりも致死性が高まった。通常であれば、C. albicans の加熱死菌の前投与で C. albicans に対する免疫をマウスは獲得し、その後の生菌投与による致死性が減少するはずである。しかし、死亡率が上昇する逆の結果であった。この理由としては、加熱死菌による前処理が免疫細胞を活性化して、生菌感染によるサイトカイン、特に炎症性サイトカイン産生が急激かつ過剰に起きたためと考えられる。マウスに実験的なサイトカインストームを発生させることができたので、具体的にどのような種類のサイトカインの産生が起きたのか調べる。さらに、この実験的サイトカインストームを発症させる方法に再現性と確実性が認められれば、サイトカインストームのマウスモデルは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態解明にも役立つと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
マウスに C. albicans の加熱死菌を投与し、C. albicans の生菌を投与することで、マウスの死亡匹数が増加した。これは加熱死菌の投与に加えて生菌が感染したために免疫機能の過剰な高まりによるサイトカインストームが発生したためと考える。しかし、いかなるサイトカインが産生されたかは不明であるので、産生されたサイトカインを測定する。産生されたサイトカインを明らかにした後に、そのサイトカインに対する抗体を投与することで、サイトカインストームを抑制する。抗体の投与は数日連続して行うことでマウスの免疫機能を抑制することができる。その後に抗体投与をストップして、マウスにいかなる変化が起こるのか C. albicans の菌数、産生されるサイトカインの種類及びその量の増減を調べる。次の上記の方法をマウスの口腔内でも行う。すなわち、マウスの舌に C. albicans の加熱死菌を塗布し、その後に C. albicans の生菌を接種することで、生菌のみの接種に比較して加熱死菌の前投与が口腔カンジダ症の増悪を起こすか否かを明らかにする。具体的はマウスの舌症状の観察、舌組織中の C. albicans の菌数測定と病理組織像の解明、舌組織で産生されるサイトカインの種類とその増減を明らかにする。そのことによって、局所的なサイトカインストームによって口腔カンジダ症の増悪が起こるか否かも明らかにできる。さらに口腔カンジダ症がカンジダ血症に移行する可能性を明らかにするために、舌組織以外に小腸、胃、脾臓、腎臓中の C. albicans 菌数の測定、病理組織像の解明、産生されるサイトカインの種類とその量の増減も明らかにする。昨年度の実験結果からサイトカインストームのマウスモデルも確立できる可能性があるので、カンジダ症の発現におけるサイトカインストームの役割も明らかにする実験系を組む。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症による非常事態宣言及び研究環境の制約などが実験計画に影響した。その結果、実験計画とその実施時期の変更があった。そのため、令和2年度の使用金額が申請書記載額よりも減少した。しかし、実験結果としては有意義な結果が出ているので、遅れは取り戻せると考える。
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