2021 Fiscal Year Research-status Report
The pharmaceutical market and drug development prognosis in Japan.
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20K10328
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鈴木 岳之 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (90187740)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 洋 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 教授 (60286656)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 医薬品開発 / 医薬品市場 / 産業経済分析 / 薬価 / ライフサイクルマネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は医薬品市場に関する解析を、主に2つの観点から行った。 1)医薬品承認申請にかかわるドラッグラグを、特に日米間で比較検討した。その結果、これまで、日本においては、ドラッグラグが医薬品の臨床使用における大きな問題とされてきたが、承認過程におけるドラッグラグは医薬品全体としては実際はそれほど大きな差はなかった。しかし、開発から承認作業を開始するまでのラグは、まだ大きな隔たりがあることが明らかとなった。これの解消のためには、新薬創出加算などのインセンティブの導入により、日本市場への新規医薬品の早期投入の製薬企業にとっての有用性を明確化することが重要である。 2)医薬品を一つの商品としてみた場合の、日本におけるライフサイクルマネジメントに関する検討を行った。対象として、特にここ数年の医薬品市場で存在が大きくなったPD-1抗体薬(免疫チェックポイント阻害薬)に関して、上市後の市場動向と、適応拡大や薬価の変動(特に再算定)が医薬品の売り上げ及び使用量に及ぼす影響に関して詳細な検討を加えた。その結果、上市後の売り上げ拡大において、もっとも大きな要因となるのは適応拡大であることが明らかとなった。一方、適応拡大により臨床現場での使用量が大幅に増加することによる薬価の再算定が売り上げに与える影響も大きなものであった。高収益医薬品の競合薬発売に対応するためにも、適応拡大をあらかじめ念頭に置いた市場戦略が新薬開発型製薬企業にいては重要となることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も、初年度と同様、新型コロナウイルス感染症の影響により、対面ミーティングが制限された状況であったが、オンラインのミーティングを随時行うことにより、研究の遂行を行った。特に、本研究は非実験系のドライ研究のため、データベースの構築やその解析が研究の基盤となる。研究分担者や、指導学生などとデータファイルを即時的に共有できる環境を構築し、研究進捗に支障が出ない方策を工夫している。本研究は実学的な側面も多く含むため、アカデミアのみで実施するのではなく、製薬企業や臨床現場の医療従事者とのディスカッションも必須と考えており、そのような機会も作り出しており、オンラインの活用は研究計画の進展に追い風となっている。また、このような感染症の広がりは、医療現場の業務に対して大きな影響を与えており、コロナ禍前の状況とはかなり異なった医療体制が敷かれるようになった。しかし、がんや重篤な遺伝性疾患などに関しては患者状況は変わらず、現状で医薬品市場におけるそれらの薬物のプレゼンスには大きな変動はないと考えられる。 それらを考慮した場合、本研究の進捗状況は予定通りであり、最終年度も当初の計画に沿った研究が実施されてゆくことが想定される。
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Strategy for Future Research Activity |
計画最終年度の研究計画は、すでに述べたように、当初の計画から大きく変動することはない。 日本の医薬品市場の特殊性をもたらしている最も大きな要因である、薬価制度に関してさらに検討する。申請時に製薬会社が見積もった売り上げ予測値(公開データとして取得可能)と、実際の売り上げ推移を経時的に検討する。また、医薬品の領域別の薬価の変動に関して、実際の臨床現場での使用状況を合わせて検討する(鈴木、中村)。引き続き、制度的な面からの検討事項として、薬品に対する薬価の大幅な切り下げ制度が新薬創出、あるいは医療費削減に本当に貢献しているのか、また、製薬企業の収益性や、新薬開発方針にどのように影響しているのかを検証する(鈴木)。薬価を大きく切り下げる再算定制度は、該当製薬会社の収益を大きく減少させ、研究開発費回収の遅延をもたらしている可能性がある。この制度の実効性と、特に内資系製薬企業の財政面での体力に及ぼす影響をさらに検討する(鈴木、中村)。また、構築したデータベースを用いて承認時の薬価決定の際の重要な因子である、開発企業による医薬品売り上げ予想の妥当性を、ここ10年程度発売された新薬に関して網羅的に検証し、薬価決定の過程の妥当性に関して検討する(鈴木)。特に、適応拡大などにより、売り上げが大きく上方に乖離した医薬品の特性と、市場に及ぼす影響、さらに、医療財政に対する影響を考察する。 我々の先行研究では、製薬会社に対するインセンティブである新薬創出加算は制度として機能しているものの、その恩恵はより外資系メガファーマに与えられている結果となっており、内資系企業の新薬創出に大きく貢献しているとはいえないことが明らかとなっている。本研究では、この制度の妥当性や、より新薬創出につながるような新たな制度構築のためのシミュレーションを検討する(鈴木)。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症のため、出張ができず、また、対面ミーティングの実施もほとんど行わなかった。さらに、医療状況の劇的な変化により、最新のデータベース導入を優先した結果の予算執行となった。
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Research Products
(2 results)