2022 Fiscal Year Research-status Report
遺伝性がんサーベイランスの利益不利益バランス評価と社会的・財政的負担に関する研究
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20K10331
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
濱島 ちさと 帝京大学, 医療技術学部, 教授 (30286447)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遺伝性がん / サーベイランス / Li-Fraumeni症候群 / 利益不利益バランス / 診療ガイドライン / 科学的根拠 / 疾病登録 / 選好/価値観 |
Outline of Annual Research Achievements |
●遺伝性疾患には希少疾患が多く、通常の診療ガイドラインの作成方法が応用できない場合が多い。一方で、希少疾患においても科学的根拠に基づき、診療の標準化は望まれている。科学的根拠が限られている希少疾患の診療ガイドライン作成に必要な条件として、1)質的研究を活用し、患者の価値観や選好、公平性、受容性、実行性を評価すること、2)系統的方法により専門家の知見を収集し活用すること、3)患者登録データの活用 4)間接的な証拠の利用を提案されている (Pai M, et al. Rare Diseases 2015)。 ●Paiらは希少疾患の診療ガイドライン作成における該当の有無を検討した結果、専門家の知見や間接的な証拠はすべてに活用されていたが、疾患登録や質的研究の採用はガイドラインにより異なっていた。 ●Li-Fraumeni症候群のサーベイランスガイドラインはAmerican Association for Cancer Research(AACR)、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)、UK Cancer Genetic Group、厚労科学研究熊本班から公表されている。これらのガイドラインについて、上記4条件について検討した。いずれも専門施設で行われた先行研究を科学的根拠としているが、そのアウトカムは最終結果ではなく、中間結果のがん検出率である。IARC疾患登録ベースはサーベイランス情報を収集されておらず、診療ガイドラインには利用されてない。各自の施設での独自の追跡による研究が主体となっている。症例数の多いカナダの研究では生存率比較を行った。一部のガイドラインでは患者の心理的影響や不利益を検討していたが、推奨の根拠としてどのように結びつくのか不明であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
●遺伝性がんサーベイランスガイドラインについて、作成情報を含めた網羅的な国内の情報を収集するため、ヒアリング調査や国内・国際学会への出席を予定していたが、コロナ禍にあって国際的な情報収集が困難であった。主たる方法をインターネット検索や論文検索に切り替えて、情報収集を行った。さらに、情報収集の効率化を図るために、初年度は遺伝性がんサーベイランスも対象疾患はLi-Fraumeni症候群を対象とし、2年目にはBRCA1/2、リンチ症候群を追加した。 ●遺伝子疾患の諸外国プログラム情報を集積することにより、通常の診療ガイドラインとは異なる疾患特異性やサーベイランスに資する医療資源の相違から、マネジメントの方針の相違点が明らかになった。本年度は診療ガイドライン作成に至るプロセスを重視し、関連する情報の収集を行い、Li-Fraumeni症候群のサーベランスガイドラインを対象として、希少疾患の診療ガイドライン作成の問題点を検討した。 ●初年度から、先行して行っていたLi-Fraumeni症候群のサーベイランスに関するシステマティックレビューでは、新たなガイドラインや報告が相次いだことから追加検索を行い、その結果に基づき、研究の質評価とメタアナリシスを再検討することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
●遺伝性疾患サーベイランスの診療ガイドライン作成では通常の診療ガイドラインとは異なり、ランダム化比較対照試験による確固たる科学証拠を求めることはできない。専門施設における追跡結果から全身MRIによるサーベイランスの成績は報告されているが、患者の選考や価値観、全身MRIの不利益の評価は不十分であった。今後は、希少疾患の診療ガイドライン作成に応用可能な質的研究のあり方が検討される必要がある。 ●ゲノム医療の進化と共に遺伝子検査の機会の拡大が今後予想され、ハイリスク者としてラベリングされる人の増加が予測される。遺伝性がんハイリスク者の遺伝子カウンセリングはあるが、その後のフォローアップ体制は明確ではない。リスクはあっても社会的には健康者に過剰なサーベイランスを提供することは、がん検診と同様の不利益があり、社会的にも損失となりうる。遺伝性がんサーベイランスの利益を科学的に評価し、利益と不利益のバランスを検討することは、遺伝性がんハイリスク者への適切な対応を提供することができる。 ●遺伝性疾患特有の疾病負担や自然史などの疾患特異性に配慮し、遺伝性がんサーベイランスの利益と不利益のバランス評価方法を検討し、ガイドライン作成の応用を目指す。さらに、プログラムの受容可能性や社会的・財政的負担を調査し、政策導入への基本条件を検討する。 【次年度以降の計画】 ●Li-Fraumeni症候群の評価研究のシステマティックレビューを完了しメタアナリシスを再検討する。 ●Li-Fraumeni症候群について、サーベイランスの利益(有効性)、不利益、費用、価値観及び疾病負担(有病率、自然史など)の観点から政策導入についての調査を行い、遺伝性がんサーベイランスプログラムに関する意思決定要因の優先順位を検討する。
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Causes of Carryover |
●遺伝性がんサーベイランスガイドラインについて、作成情報を含めた網羅的な情報を収集するため、国内外での情報収集のため、ヒアリング調査や国内・国際学会への出席を予定していたが、コロナ禍にあって国際的情報収集が困難であった。主たる方法をインターネット検索や論文検索に切り替えて、情報収集を行った。 ●今年度は、希少疾患の診療ガイドラインの作成方法の検討を追加して行った。希少疾患に関する診療ガイドラインの報告は限られており、情報収集に時間を要した。2022年度後半からは、学会出席などが可能となり、不足する情報を補うことができた。 ●初年度から、先行して行っていたLi-Fraumeni症候群のサーベイランスに関するシステマティックレビューでは、追加検索を行い、その結果に基づき、研究の質評価とメタアナリシスを再検討することとした。初年度の評価を継続的に更新したため、論文化に遅延が生じた。
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Research Products
(8 results)