2020 Fiscal Year Research-status Report
銀ナノ粒子による肺がん細胞のプログラム細胞死の解明
Project/Area Number |
20K10454
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
宮山 貴光 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (20620397)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / 肺がん / オートファジー / インフラマソーム / 小胞体ストレス / サルブリナル / NLRP3 / eIF2α |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究事業計画に基づき、初年度は、NOD-like receptor protein 3(NLRP3)依存性のインフラマソーム経路とPKR-like endoplasmic reticulum kinase(PERK)依存性小胞体ストレス経路が、それぞれオートファジーと協働する分子基盤を調べた。 ヒト肺がんのモデル疾患細胞として、A549肺胞上皮線がん細胞を用いた。初めに、60 nm サイズの銀ナノ粒子を細胞に処理し、インフラマソームの第1反応段階で誘導されるIL-1b mRNA、IL-18 mRNAをリアルタイムPCRで評価した。インフラマソームの誘導物質としてlipopolysaccharide(LPS)を用いた。LPS処理群ではIL-1b mRNAとIL-18 mRNAはともに増加した。一方、銀ナノ粒子処理群ではともに減少した。オートファジーの阻害剤であるbafilomycin A1と銀ナノ粒子をそれぞれ細胞に処理し、第2反応段階で誘導されるNLRP3とオートファジー因子であるSQSTM1/p62、LC3B-IIをwestern blottingで定量したところ、いずれの処理群でも、SQSTM1/p62とLC3B-IIは増加したが、NLRP3は増加しなかった。 次に、PERK依存性小胞体ストレス応答の因子として、最上流で機能するリン酸化eIF2αと最下流で機能するGRP78をwestern blottingで定量したところ、銀ナノ粒子処理群においてリン酸化eIF2αとGRP78は増加した。また、SQSTM1/p62とLC3B-IIも増加した。そこで、eIF2αの脱リン酸化阻害剤であるサルブリナルを併用し、細胞内に小胞体ストレス応答を意図的に増加させたところ、リン酸化eIF2αとGRP78はさらに増加し、SQSTM1/p62とLC3B-IIの増加に変化は認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行により、所属機関の休業など予期せぬ事態に見舞われたが、銀ナノ粒子がA549肺胞上皮腺がん細胞のNLRP3依存性インフラマソームを初期段階で止めてしまう可能性を見出すという新しい知見を得た。これにより、小胞体ストレス応答への解析にも波及し、PERK経路依存性小胞体ストレスとオートファジーがそれぞれ独立してプログラム細胞死を司る現象をとらえており、現在解析中である。 本研究成果に関連する現象は、ほかの細胞死誘導物質でも同様に見出しており、現在、論文投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
銀ナノ粒子は肺がん細胞のオートファジー・リソソーム系を阻害することで細胞死を誘導することをこれまでの研究成果のなかで明らかにしてきた。しかしながら、オートファジー・リソソーム系を遺伝子改変で再活性化しても、細胞死を完全に抑制できないことから、プログラム細胞死を誘導する機構はオートファジーの阻害だけでは説明することはできない(Miyayama, T., et al., Toxicology in Vitro, 2018)。 近年の報告から、正常なヒト肺細胞は持続的なインフラマソームの発現によって発がん性を生じること(Gao M., et al., Ecotoxicology and environmental safety, 2019)、肺がん細胞において、インフラマソームの活性を阻害すると細胞増殖や転移性が減少することが報告されている(Zou J., et al., Biomedicine and pharmacotherapy, 2018)。また、肺がん細胞における抗がん剤開発の新たなターゲットとして、小胞体ストレスとオートファジーの協働に着目した研究報告がある(Munoz-Guardiola, P., et al., Autophagy, 2020)。 上記に示した研究背景の中、銀ナノ粒子で誘導されるA549肺胞上皮線がん細胞の細胞死のメカニズムにおいて、引き続き、PERK非依存性小胞体ストレス経路やNLRP3非依存性インフラマソーム経路とオートファジーとの協働性および独立性について研究を遂行していく予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により、所属機関の休業や本来予定されていた学会、研究会への参加が、すべて中止、延期、あるいはオンライン会議に変更になったため予定使用額に差異が生じた。2021年度以降においては、新型コロナウイルス感染症の感染予防対策の構築により、研究計画通りに研究活動が遂行できると予想され、使用額の差は解消されていくと考えている。
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