2020 Fiscal Year Research-status Report
時間分解分光NIRSを用いたせん妄の前頭葉機能評価と病態に関する検討
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20K10461
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
小川 朝生 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (10466196)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
榎戸 正則 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 医員 (30613054)
岩田 有正 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 医員 (70870153)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | せん妄 / 認知精神心理学 / 医療安全 / コンサルテーション精神医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
せん妄は注意力障害を中核症状とし、種々の精神症状をともなう中枢神経系の機能障害の一形態である。せん妄は入院患者の約20%に出現し、治療中の事故や患者の意思決定を阻害する、家族の精神・身体的負担の要因になるなど、生命予後や治療成績、QOL、医療経済的負担の増加につながり、発症と重症化予防のための管理が必要である。せん妄は臨床症状から、脳の前頭葉を中心とする機能障害が想定されている。従来より、脳波検査においては、基礎律動の徐波化は知られており、せん妄の補助診断として臨床で広く用いられている。近年ではSingle-photon emission CT (SPECT)による血流評価もおこなわれ、前頭葉から頭頂葉にかけての低灌流が認められたとの報告がある。しかし、SPECTは安静を要する検査であるため、安静を保つことが困難なせん妄においては、臨床応用には限界がある。本研究は、高い時間分解能をもつ高感度光センサーの開発により世界で初めて絶対値評価が可能となった時間分解分光NIRSに注目し、急性の認知機能障害であるせん妄の脳機能活動の評価に時間分解分光NIRSを応用して経時的な評価を行い、せん妄発症並びに重症度と、脳組織酸素飽和度、脳組織内ヘモグロビン濃度の関係を明らかにし、せん妄の病態生理を明らかにすることを目的としている。 初年度の本年は、コホート調査に先立ち、測定系の確立を行った。せん妄の診断のついた患者を対象に、時間分解分光NIRSを用いて前頭部酸素化ヘモグロビン濃度、前頭部全ヘモグロビン濃度、脳組織内酸素飽和度の計測を行う評価系を構築し、実施可能性を検討した。10名を対象に安静時NIRSならびに、前頭葉課題施行時の負荷時NIRSを測定したところ、測定中のプローブは保持でき、遮光を行えば病室の条件下でも測定可能であった。全例で測定は可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、せん妄の診断、認知機能と時間分解分光NIRSによる評価との関連を探索的に検討することを目的に、マイルストーンを、(1)測定系の確立、(2)治療患者を対象としたコホート調査の実施、(3)時間分解分光NIRSとせん妄の診断、重症度、認知機能検査との検討、とにおいた。当初の計画では1年目は(1)の測定系の確立を目標としていたこと、本年度では測定系を確立し、その実施可能性を確認できたことから、進捗はおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、コホート調査に先立ち、測定系の確立を行った。病棟の条件下でも測定可能なことを確認できたことから、今後は当初の計画通りに、予定治療患者を対象としたコホート調査に進む予定である。現段階では、適確基準を1) 同意取得時において年齢が20歳以上の者、2) 当院に入院中の者、3) 米国精神医学会精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5: Diagnosis and Statistical Manual of Mental Disorder5)に基づき精神科医2名がせん妄のハイリスクと判断した者、4) インフォームド・コンセントが本人あるいは代諾者から得られた者とし、医学背景の他、せん妄の症状評価(DRS-98-R)、認知機能検査(word fluency test)、時間分解分光NIRSを経時的に収集し、primary endpointとしてtNIRS-1による酸素化ヘモグロビン濃度とせん妄の診断との関連を、secondary endpointとして酸素化ヘモグロビン濃度、脱酸素化ヘモグロビン濃度、総ヘモグロビン濃度、組織酸素飽和度とせん妄の発症、せん妄重症度との関連の探索的検討を計画している。計画書を作成し、倫理審査等必要な手続きを踏んだ後、実施する。 計画の遂行に際して、今後、COVID-19の感染拡大により、通常診療が制限され、対象者が減少する可能性、また、感染予防のために、臨床研究の実施が制限される可能性がある。感染拡大状況と予防体制を把握し予防に努めつつ、リクルート期間を確保する、病棟訪問は最小限度とする、複数名での訪棟を避け、測定者は1名に絞る等、制限下でも継続できる体制とし、可能な限りリクルートを継続できる体制とするほか、機器の使用期間についても上記事情を踏まえて調整を依頼する。
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Causes of Carryover |
コホート調査を実施することから、リクルートならびに測定のための補助業務を担う者の雇用が必要である。
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Research Products
(13 results)