2020 Fiscal Year Research-status Report
法薬毒物分析を指向した分子認識が可能な電気化学発光システムの開発
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20K10553
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高橋 史樹 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (40754958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 継業 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (40252118)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 分子インプリントポリマー / 電気化学発光 / GC-MS / リドカイン / 薬毒物 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気化学発光(ECL)は高感度分析法として着目されている一方,選択性が比較的低いことが問題視されていたため,生体試料などの実試料分析への適用は限定的であった。本研究では,鋳型分子に対する特異的な吸脱着挙動を示す分子インプリントポリマー(MIP)に着目し,規制薬毒物分析を指向した特異的なECL検出法の確立を試みた。令和2年度では以下の項目を実施した。 MIPの基礎的な合成法について検討するため,沈澱合成法を用いたポリマーの調製を行った。アミドおよびアミン骨格を有する化学種は,法科学分析における薬毒物の基本骨格に含まれることが多い。そこで,双方の骨格を有するリドカインを代表化学種として鋳型分子に用いたMIPの合成を行った。機能性モノマー,架橋剤およびラジカル反応開始剤を用いて,リドカインを鋳型分子としたポリマーを合成した。そのポリマーを十分に鋳型分子を取り除いたものをMIPとした。MIPをリドカイン溶液中に浸漬させ,再び有機溶媒で溶解させた溶液中に含まれるリドカインをGC-MSによって定量的に評価した。合成したMIPの性状は反応溶媒の種類に依存し,ジメチルホルムアミド中ではゲル状のポリマーが形成し,リドカインは再吸着されなかった。一方,アセトニトリル溶媒中では粉末状のMIPを合成でき,リドカインが再吸着することが分かった。 一方で,鋳型分子を含まない非分子インプリントポリマー(NIP)についても同様に合成し,MIPと比較検討したところ,リドカインはNIPに対しても非特異的に吸着することが分かった。リドカインはMIP中の分子インプリント空間のポリマー構造中に分子間力によって吸着していることが示唆され,薬毒物の選択検出の妨害となることが分かった。そこで,選択性の向上を試みるため,リドカインの再吸着後に洗浄液について条件検討を行ったところ,洗浄中の酸濃度および有機溶媒量を調整することで非特異的な吸着の影響を除去できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薬毒物の基本骨格に含まれる場合が多いアミド結合およびアミノ骨格を有するリドカインを鋳型分子の代表化学種に用いて,効果的な再吸着および洗浄効果の条件を確認している。この再吸着(固定化)の過程を明確にするため,Schatchard plotによってMIPのリドカインの吸着量を定量的に評価した。合成したMIPのリドカインの最大吸着量は,約1 μg/gと見積もられ,一般的なMIPの吸着量の関係と比較して小さな値を示した。合成したMIPへのリドカインの絶対量は条件検討によって導き出された洗浄液の条件下では,一部が溶液中に分配したと考えられた。しかし,非特異的に吸着している分子インプリント空間以外に吸着しているリドカインは結合強度が弱いため,効果的に除去できることが分かった。そこで,分子インプリント空間が類似の化学構造を有するテトラカインおよびプロカインの再吸着挙動について調査したところ,選択的にリドカインを検出できることが分かった。 現在合成したMIPを用いて,ECLによる簡便な分析法に展開するため,カーボンペースト電極による検出を行った。リドカインを鋳型分子としたMIPをカーボンペーストと混合した電極について,リドカイン溶液に浸漬させることで再びリドカインを再吸着させた。その電極を洗浄した後,ECLエミッターであるトリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム(II)錯体を含む溶液中で電位を印加したところ,明瞭にECL応答を示すことが分かった。このECLは類似の麻酔薬の成分に対し選択的であった。MIPと鋳型分子との間の結合について,反応速度および熱力学的な安定性を含めて基礎的な情報を調査するため,計算化学的な手法も組み合わせて検討している。併せて,実際の医薬品中の薬毒物分析に向けた濃縮法としての利用および実際の生体試料中の薬毒物分析への応用を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に得られた基礎的な知見に基づき,以下の項目について研究を推進する。 (1)種々の薬毒物を鋳型分子としたMIPの合成 種々の薬毒物を鋳型分子として,引き続きMIPを調製する。ECL検出の際,選択的な検出が困難であった覚醒剤であるメタンフェタミン,麻薬成分であるコデイン,コカインを鋳型分子としたMIPをそれぞれ合成する。合成したMIPについて,GC-MSおよびLC-MS/MSによってそれぞれの薬毒物の再結合挙動を定量的に調べることで,最適なMIP合成法を確立する。この際,鋳型分子を含まないNIPについても比較評価することで,特異吸着量に関する相補的な情報を得る。加えて,グラフト重合法による温和な条件でのMIP合成も検討することで,薬毒物スクリーニングに向けた前処理技術として確立するため,詳細な解析と評価を行う。 (2)MIPと組み合わせたECL法による薬毒物検出 MIPをカーボンペーストと混合し,電極として用いることで選択的なセンサとしての利用を試みる。現在,局所麻酔薬であるリドカインのECL測定が達成されているため,上記(1)で合成した種々のMIPについても同様に評価する。再結合条件と結合プロセスの解析を電位掃引法およびポテンシャルステップ法を用いて基礎的な知見を得る。併せて,電子顕微鏡による形態観察および赤外・ラマン分光測定を行うことでMIPへの目的化学種の結合状態や構造を正確に決定する。ただし,電極上へ修飾されたMIPは電気化学的な抵抗を示し,ECL強度が逆に減少する可能性がある。その際は電気化学インピーダンス測定および電気化学水晶振動子計測を行うことでMIPが電気化学挙動におよぼす影響を調べる。得られた基礎的知見に基づき,検出時のS/N比を劇的に向上できる電位変調法を利用したECL測定法と組み合わせる予定である。 上記の分離分析を含めた方法について,基礎的な検討を行うとともに,結果を取りまとめた上で学会発表および論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染状況の関係で,当初計画の学会発表がオンライン開催されたことに伴い,旅費について残額が発生した。令和3年度以降の学会発表としての旅費に充当する予定である。
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