薬毒物抽出時におけるピットホール（酸化還元機構）の解明と最善なる回避法の構築

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K10556
• Research Institution: Hiroshima University
• Principal Investigator: 奈女良 昭 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (30284186)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 薬物分析 / 分析化学 / 法中毒 / 酸化

Outline of Annual Research Achievements

本研究は、薬物抽出・精製過程での物理化学的変化に対し、“どの工程で、どのような機構で化学変化を起こすのか？“、また“どのような環境で保存すれば、どの位の期間安定に存在するのか？”の問いに対して「溶媒の種類」、「溶媒の組み合わせ」、「抽出に使用する充填剤」、「温度」、「保存期間」などの物理化学的な因子の詳細を明らかにし、正確な薬物濃度を提供しうる方法の構築を目指すものである。
本年度は、前年度に続き、化学変化を起こす薬物の構造特異性（構造確認）とその生成機構の解明について重点的に検討を行った。まず、化学変化を起こす薬物の特定について検討を行った結果、分子内に３級アミンを持つ薬物が酸化されてN-oxideに変化していることが確認された。また、化学変化を起こす抽出法や有機溶媒の組み合わせについて検討した結果、珪藻土を用いた液液抽出で、かつ抽出溶媒に酢酸エチルを使用した場合に酸化が顕著であることが判明し、薬物の物理化学的変化は濃縮乾固時に起こることがほぼ確定できた。既に酢酸エチルには酸化物の混在が知られているが、N-oxide体の生成は報告されてないことから、既存の酸化機構とは異なると推察された。新品の試薬や酸化剤除去を行った酢酸エチルを用いての検討も行ったが、酸化剤の影響を排除することはできなかった。抽出溶媒としてジクロロメタンなどを使用した場合には、N-oxide体の生成は確認できなかったことから、これらの溶媒の使用も候補ではあるが、塩素系溶媒は使用が避けられることから、抽出溶媒選択は今後の検討課題の一つである。そこで酸化防止剤について検討した結果、アスコルビン酸を添加することで酸化が抑えられることが判明した。現状の最適な手法としては、試料0.1mLを使用して抽出し、濃縮乾固時にアスコルビン酸（0.1M）20μLを添加することで酸化防止が可能となった。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

化学変化を起こす薬物種が予想以上に多く存在し、全ての特定には時間を要している。また、入手でできない薬物もあるため今後の課題の一つである。

Strategy for Future Research Activity

今後は、これまでの結果（化学変化した薬物の種類と化学構造の解明）を参考にして、（１）化学変化の防止策の検討、（２）実試料を用いた防止策の効果の検証を重点的に検討し、“どの位の温度で保存すれば、どの位の期間安定に存在するのか？”また、“どの工程で、どのような機構で化学変化を起こすのか？”を明らかにし、薬物中毒の判断材料として正確な情報を提供しうる方法の構築を行う。現状では、濃縮乾固時にアスコルビン酸を添加することで酸化を回避できるが、本研究の対象としたN-oxide体についての議論がある論文などでは、体内での代謝ではなく二次的に生成した可能性を指摘・啓発できるように論文化を試みる。
また、試料保管中の変化については、使用する溶媒や生体試料（尿、全血および血清）に添加する必要があり、短期間での結果が得られ難いことから、定期的かつ継続的に薬物の変化の検証を行う。 さらに、化学変化防止策の講じられた前処理・分析法を使用して、実鑑定試料中の薬物スクリーニングを実施し、必要に応じて改善を加えてブラッシュアップする。