2020 Fiscal Year Research-status Report
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を標的とした抗体ファージライブラリーの構築と検出法開発
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20K10557
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
笹尾 亜子 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (80284751)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 / 組換え抗体 / 免疫学的検出法 / 法医中毒学 / 薬物スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
法医解剖や検屍・検案時の死因診断において、その死因に薬物が関与したかどうかを確認する事は極めて重要である。現在、その検査手段として免疫学的検出法を用いた簡易薬物検査キットが幅広く利用されている。免疫学的検出法は、簡便に対象薬物を検出できるため急を要する現場では最適なスクリーニング法である。 一方、近年の国内における薬毒物中毒発生状況を見ると医薬品による中毒死が年間約400件発生しており、その約8割に睡眠剤などの向精神薬が関与している。しかし、これら向精神薬は副作用軽減を目的とした新薬の開発が進んでおり、多くの新薬に簡便な検査法がない。特に、現在処方される頻度が高いものの簡便な検査法がない新規薬物として、ゾピクロン、ゾルピデムなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が挙げられる。これら睡眠薬は依存性を生じにくい事、脱力・転倒などの副作用を起こしにくい事から、ベンゾジアゼピン系睡眠薬よりもその処方量が増加している これまで我々は、新規薬物に対する免疫学的簡易検出法を組換え抗体技術を利用して提供する体制作りを行ってきた。特に、抗体検索に有用な抗体ファージライブラリーの構築は、迅速な薬物検出法の構築に大いに貢献できる。そこで我々は、本研究課題において非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を標的とした抗体ファージライブラリーの構築とその検出法の開発を研究目的とした。 本年度は、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中からターゲットとする薬物の選定を行い、免疫抗原とするその類似化合物をどのように設計するかを決定した(1)抗原化合物の選定)。その後、類似化合物の合成を行って免疫抗原(キャリアタンパク質との複合体)を調製した(2)免疫抗原の調製)。さらに、調製した複合体を免疫抗原としてマウスへ投与を行った(3)マウスへの免疫)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に対する免疫学的簡易検出法を組換え抗体技術を利用して提供する事を目的としている。本年度は以下の検討を行った。 1)抗原化合物の選定:数種の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬について、国内や海外における処方状況、中毒発生状況などについて調査を行った。その調査結果を勘案し、ザレプロンをターゲット薬物とする事とした。また、ザレプロン代謝物への反応性も考慮した免疫抗原となるようザレプロン類似化合物の設計を行った。 2)免疫抗原の調製:ザレプロン類似化合物とキャリアタンパク質の複合体である免疫抗原を調製した。ザレプロン類似化合物については研究協力者の指導の下で合成し、約1.6 gの目的化合物を得た。さらに、この化合物に一級アミンを導入するよう化学修飾した化合物0.04 gを得た。これらザレプロン類似化合物と数種のキャリアタンパク質(牛血清アルブミン、オボアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン)をリンカーで化学的に結合させた複合体を調製した。薬物とタンパク質の結合は分光光度法で確認し、その結果、タンパク質1分子当たりに約4~6分子の薬物が結合している事を確認した。 3)マウスへの免疫:2)で調製した3つの免疫抗原について、雌性マウス各5匹に常法に従って投与を行った。つまり、免疫抗原とアジュバントを混合してマウス皮下に投与し、隔週にて同投与を繰り返した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、上記のようにマウスに免疫抗原を投与して抗体活性をスクリーニングしている状況である。今後の進め方としては抗体活性が確認された後、マウス脾臓から免疫ファージライブラリーの構築を行う。また、別の個体を用いてハイブリドーマ法によるモノクローナル抗体の作製も進めて行く。なお、スクリーニングに用いる抗原については、薬物とその代謝物についても反応する抗体を検索するように留意する。検索により最適な抗体遺伝子を決定し、薬物検出法の構築へ進めて行く予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度は新型コロナウイルス蔓延防止のための出勤自粛等による研究の遅滞があり、当初予定した物品等の購入が進められなかったことから残予算が生じたものである。令和3年度は、予定している試薬類(プライマー、DNAシークエンス解析用)の購入を進めて行く予定である。
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