2020 Fiscal Year Research-status Report
A multilateral approach to the diagnosis of sudden cardiac death centering on DNA methylation
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20K10569
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
橋谷田 真樹 関西医科大学, 医学部, 准教授 (40374938)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DNAメチル化解析 / 心臓突然死 / 次世代シークエンサー / ゲノム変異解析 / miRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,剖検を行っても死因の判断に苦慮する,いわゆる心臓突然死例の診断基準に有効な生体マーカーを探索することである.そのために心筋を試料とし,DNAメチル化解析,ゲノム変異解析,そしてmiRNA解析を行い,3つの側面から診断基準を探ることを計画した.新鮮な臓器,および血液からの解析は過去に実績があることから,まず今年度はテストケースとしてホルマリン固定された臓器を試料として,次世代シークエンサーによるゲノム変異解析を試みた. 症例は60歳代男性で,特に既往歴・家族歴はなく,就寝中に心肺停止となり救急搬送されたが回復せず,死因究明のため剖検となった.心筋中隔,腎臓,および肝臓の一部をホルマリン固定した後,市販のキットにてDNA抽出を行なった.Ion AmpliSeq Cardiovascular Research Panelを用いて心臓疾患に関連する404遺伝子を増幅し,プロトコルに従いライブラリおよびテンプレートを作製した.シークエンスは Ion GeneStudio S5 Systemを用い,クラウド上のIon Reporterにて解析を行った. 試薬,機器およびソフトウェアは全てThermo Fisher Scientific社製である. 総計1万を超えるSNPを解析したところ,データベースによれば9個の心疾患と関連がある変異が観察された.そのうちSCN5A遺伝子の変異は病原性があるものであり,死因となった致死性不整脈との関連が疑われた.このようにホルマリン固定された臓器からの次世代シークエンサーによるゲノム解析が可能であることが確認された.しかしながら本症例では,60代まで不整脈発作を起こしてはいないことから,何らかの後天的な変化の関与が示唆され,これを解明するにはメチル化およびmiRNA解析の必要性が確認されることとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心筋のゲノム変異解析,DNAメチル化解析,およびmiRNA解析結果を合わせて,心臓突然死の死因診断へ応用することが本研究のテーマである.今年度はホルマリン固定された臓器からのゲノム解析を行なった.通常はホルマリン固定されると臓器中のDNAは分断化され,PCRでの目的領域増幅が困難となり,シークエンス解析やSNP解析を行なっても良い結果が得られないことを度々経験してきた.しかしながら,次世代シークエンサーを用いることでその弱点が克服できることが確認された点が重要である.すでにパラフィン包埋された過去の剖検試料や,プレパラートからの解析も可能であることが示され,検体数の増加に非常に効果的であると言える.このような死後の遺伝子解析はmolecular autopsyと呼ばれ,特に解剖所見の乏しい心臓突然死に有効であるとされている.しかし,今回も疾病と関連を持つSNPが検出されたが,これはあくまでもリスクファクターの提示にしか過ぎない.この変異を抱えながらも長年生存してきたわけであり,ゲノム変異のみを死因の判断材料にするには不十分であると言わざるを得ないのである.そのため,先天的な変異であるゲノム解析に加え,後天的な変化を観察するDNAメチル化解析およびmiRNA解析の重要性が確認された.このように本研究の重要性を再確認できたことも大きな意味を持つと言えよう.以上のように,今年度は新鮮な剖検試料からのみでなく,ホルマリン固定された試料からのゲノム解析が可能であることが示されたのと同時に,DNAメチル化解析とmiRNA解析の必要性が再確認された.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず検体を確保するところから始める.ホルマリン保定されていても次世代シークエンサーを用いれば,ゲノムの変異解析が可能であることから,過去の症例も含め,心臓突然死例の十分な検体数を確保することを最優先とする.ゲノム変異解析後,DNAメチル化解析,miRNA解析と進むわけであるが,心筋のメチル化解析は報告が非常に少ないため,まず,ホールエクソンに近い数のメチル化部位を測定し,心臓突然死群と対照群との比較を行い,ターゲットとすべきメチル化部位を特定する必要がある.そのためMethylationEPIC BeadChip Kit and iSCAN sytemで反応を行い,そのチップをiSCAN System,およびGenomeStudio software (以上全てillumina)を用いて解析を行う.このチップは85万ヶ所のメチル化部位の解析が可能であり,心臓突然死群と対照群とでメチル化率の増減を観察し,約20箇所程度のターゲットメチル化部を決定する.その後はターゲット部位のプライマーを設計,バイサルファイト処理後PCRを行い,Ion S5 System (Thermo Fisher Scientific)でデータを収集・解析を行う.miRNAはカテコラミン関連の12種(miRNA-1, miRNA-21, miRNA23a, miRNA-125a, miRNA-133b, miRNA-135b, miRNA-208, miRNA-210, miRNA-514, miRNA-548b, miRNA-562, miRNA-624)をターゲットとする予定である.心筋からsmall RNAをキットで抽出し,それぞれのmiRNA専用のプライマーを用いて増幅する.その後,S5にてシークエンスを行い,miRNA analysis Plug-in softwareにて解析を行う.
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Causes of Carryover |
今年度は,次世代シークエンサーを用いたゲノム変異解析を行ない,そのための試薬類を購入し,使用した.以前から残っていた試薬類も使用可能であり,そちらを優先的に使用したため,試薬購入予算に余裕ができ,来年度に若干の持ち越しが発生した.
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