2020 Fiscal Year Research-status Report
臨床研究コーディネーターにおけるモラルディストレス尺度を用いた倫理的悩みの検証
Project/Area Number |
20K10666
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Research Institution | Niimi College |
Principal Investigator |
井上 弘子 新見公立大学, 健康科学部, 助教 (00783656)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 智恵子 新見公立大学, 健康科学部, 准教授(移行) (60591576)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 臨床研究コーディネーター / 臨床試験 / 倫理的悩み / 離職率 / 尺度開発 / コミットメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では臨床研究コーディネーター(以下:CRC)の離職率や健康障害の原因として考えられている「倫理的な悩み」を明らかにすることである。目的達成に向けて今年度は、米国の薬物研究に携わるスタッフの倫理的悩みの尺度であるMSS-CRを翻訳し、「CRCを対象とした日本語改訂版倫理的悩み尺度」を作成予定であった。日本語版倫理的悩みの尺度開発にむけて、米国の薬物研究に携わるスタッフの倫理的悩みと離職や健康への影響についての先行研究を調べた。 日本のCRCと同様の役割を担うTHE FRONTLINE STAFFを対象に調査した結果から「被験者に対して守秘義務を保護することの難しさ」「依頼者からの非現実的な要求に対しての負担感」「実施計画書が実際の薬物使用習慣を反映していない不満感」「被験者の薬物使用の過大・過少評価」「被験者の同意理解に関する懸念」等、薬物研究における倫理的責任を自覚しているが故の葛藤があることが分かった。その中で「自分達の仕事に強くコミットしている」内容が抽出された。組織コミットメントは「役割に対して責任をもって関与する、忠誠心」を意味しており、組織コミットメントが強いれば遅刻・欠勤がなく生産性が向上、離職への移行も少ないといわれている。日本のCRCを対象とした調査では「被験者対応の場面で緊張感が強い」ことや、離職率が高いことは明らかになっているものの、組織コミットメントについては明らかになっていなかった。本研究ではCRCの離職率の高さの背景には、新薬開発のプロセスの中で「被験者の安全を守るために倫理的に必要であると考えられる行為を抑制せざるをえない」というモラルディストレスが関与していると考えている。しかし、米国の調査からコミットメントについての要因が明らかにあり、コミットメントの強さによってはモラルディストレスを抱えながらも離職意向の抑制につながる可能性を考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初年度の2020年度は、Fisher等が米国で開発されたMSS-CRを翻訳し、「CRCの日本語改訂版倫理的悩み尺度」を作成と調査協力期間の選定を計画していた。しかし、米国版の開発者であるFisher宛てに尺度の翻訳許可および翻訳後の調査許可をメールおよび書面にて複数回依頼するが、現時点までに使用許可を得られていない。その為、当初の予定であったバックトランスレーション法を用いた翻訳行うことでできていない。調査協力の選定については、コロナウィルス感染症が落ち着きを見せない中、医療機関に向けて研究協力の打診をすることを躊躇せざるを得なかった。また、所属大学内においてもコロナウィルス感染症の様相が変化する度に、体制を変化せざるを得ず、状況に応じた教育環境を整えるために異例の業務に追われており、例年とは異なり余裕のない状況が続いている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウィルスの変異株の出現など感染症の先行きが世界中で見えないこともあり、FisherへのMSS-CRの翻訳および使用許可依頼は断念せざるを得ないと考えている。本研究の目的を達成にむけて、研究方法の変更を行い新たな思考での研究の推進していくことを考えている。 コロナウィルス感染症対策のため対面の制限、また全ての機関が業務量増加している中で進められることを中心に計画をする。CRCの多くは看護師・臨床検査技師・薬剤師など医療資格を所有した者が、臨床試験の最終段階において医師・依頼者・被験者の調整役を担っているが、所属機関が企業や医療機関という背景から、医療行為の有無・勤務形態・研修制度・インセンティブ等は多様であり全体は見えない。今年度はCRCの全体像を少しでもつかむことを考えている。本来は尺度開発後の全国一斉調査の中で属性を調査することを予定していたが、事前に研修形体や勤務形態などアンケート調査では抽出できない内容を、業務実施手順等を参考に調査を行っていく。感染症の状況によっては、CRCにインタビューを行い、尺度作成にむけてアイテムプールをおこなう。インタビュー調査が実施できれば尺度作成までの到達を考える。コロナウィルス感染症のワクチンに携わったCRC、そして自身が感染するリスクがある中で医療機関に入り役割を遂行対する際の葛藤や感情についてもインタビューから明らかにしていきたい。ただし、インタビュー調査などは対面調査ができないことを鑑み、オンライン上で展開することを含めてどのような仕組み・体制が必要か、今できる試行を考えていく。
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Causes of Carryover |
本研究を進めていくために、研究に必要な物品購入を進めた。 しかし初年度に予定していた内容において、尺度使用許諾の問題や新型コロナウィルス感染症の蔓延に伴い計画が大きく遅延し、予定していた内容が文献レビュー程度でほとんど進められていない。このような状況のため今年度予算申請をしていた、物品費の残額・旅費・人件費などは次年度以降に移動をしたいと考えている。
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