Outline of Annual Research Achievements |
日本は,急速に少子高齢化が進行に加え,女性の社会進出による晩婚化や晩産化の傾向がみられる。このような社会背景から,日本人女性が育児と親の介護を同時に担う者(以下,ダブルケアラー)が増加しているが,十分な支援体制が構築できていない。日本人女性のダブルケアラーは母親,娘,嫁,妻という複数の役割をもつ。本研究は,エスノグラフィーの手法を用いて,日本人女性ダブルケアラーが複数の関係性の中でどのように生き,その経験をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的とした。 データ収集方法は,3年5か月の当事者団体の参加観察,14名へのインタビュー,資料収集である。これらのデータはテーマ分析の手順を用いて分析した。これら複数の情報源からデータ間の類似性を調べ,データ解釈の正確性を確保した。 本研究の結果から,【育児と介護の両方を自分の役割として受け入れる】【母親役割が果たせていない】【子どもと子どもの祖父母から支えられる】【介護の負担を誰にも相談できない】【ケアだけではない生き方に気づく】の5つのテーマが生成された。 日本人女性ダブルケアラーは,日本の伝統的価値観の影響を受けながらも,使命感をもってケア役割を担っていた。女性ダブルケアラーは,母親役割が果たせていない罪悪感を抱えていたが,理解者が周囲にいないために誰にも相談できず,孤立する可能性あることが示唆された。 育児と親の介護が重複するリスクは日本のみではない。海外においても,米国,英国,イタリア,中国等で将来的に育児と介護の責任が重複するリスクが報告されている。世界でも,女性はケア役割をを担う傾向が高い。また,東アジアでは,儒教の教義である「親孝行」の概念が深く根付いており,家族のケア責任を強化している。以上より,本研究で得られた知見は海外においても転用可能と考え,令和5年度は国際ジャーナルに投稿し,本研究の結果を公表した。
|